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終わりに
9月の平均水温は26.8°C(平年比+0.1°C、前年比-1.3°C)、10月の平均水温は24.4°C(平年比+0.2°C、前年比-0.8°C)でした。錆浦の海への秋の訪れは昨年より少し早いようです。
以前4月~5月に産卵に出かけるメジナの話を書きましたが、今年のメジナ類の話をしましょう。海中展望塔に集まっているメジナ類の多くは釣り人が「グレ」とか「クチブト」と呼ぶ普通のメジナですが、「オナガ」と呼ばれるクロメジナや「ウシグレ」と呼ばれるオキナメジナも少数見られます(日本産のメジナ科魚類はこの3種だけ)。メジナは数も多く、ほとんどが40 cmを超える大型個体で、展望塔の主といって良い存在感があります。クロメジナは20 cm以下の小型個体が多く見られるのですが、稀に50 cmを超える大型個体が見られることもあります。そして、最後のオキナメジナは30 cmほどの中型個体が多く、数匹で通り過ぎる姿が月に数回見られる程度です。
今年のメジナ類は以前と出現傾向が違うようです。産卵に出かけた季節は5月に書いたように、例年通りの4月上旬からでした。大きな変化が見られたのはクロメジナの出現状況です。夏以降、ほとんど姿が見られないのです。これまでは連絡橋の下辺りの水面近くに集まっているところを観察しているのですが、今年はほとんど集まっていません。今年は何度も台風が接近するなど、海の中も落ち着かなかったので、住みかを変えてしまったのでしょうか。でも、串本海中公園から西へ500 mほどの有田漁港で釣りをすると、以前と同じようにクロメジナのコッパグレ(この地方で呼ぶ小さな個体のこと)が釣れています。また、展望塔への連絡橋の横に並ぶテトラポッドの横を泳いでいると、例年通りに多くのクロメジナ若魚を見ることもできます。展望塔の周辺のごく限られた狭い範囲だけに異変が起きているのでしょうか。他の魚類で特に目立った変化をしているのは、7月に話題にしたソラスズメダイの減少くらいですが、繁殖に関係ないクロメジナの場合は同じ理由とは思えません。ちなみにクロメジナは11月頃に繁殖しているのか、年明けから小さな幼魚をタイドプールで見ることができるようになります。
海の中で起きている不思議な現象の理由はよく分かりません。観察を続けていれば気がつくこともあるのでしょうが、いつの間にか以前のように戻っているかもしれません。ところで、昨年現れたタカノハダイとミギマキの雑種ですが、1年経った今でも展望塔の周囲に居着いています。普通に見られるタカノハダイやミギマキを個体識別して、ずっと観察し続けるのは難しいことだと思いますが、この雑種は他の個体との識別が簡単なのでずっと同じ個体を観察できています。この仲間はとくに問題がなければ同じ場所にずっと居着くものだと、この個体のおかげで分かりました。また1年の間に、近付いてきたミギマキを追い払う姿も見られ、同じ場所に居着けるのは強い個体だけなのかと推測しています。