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終わりに
細くくびれた潮岬の基部の西側に「アンドの鼻」というダイビングポイントがあります。この海域には定置網があるのため通常はダイビングができないのですが、定置網の操業が中止される11月から2月の間はダイバーに開放されます。冬の寒い季節にもかかわらず多数のダイバーが集まる人気ダイビングポイントですが、ダイバーのほとんどがこの「アザハタの根」にやってきます。
「アザハタの根」は水深20m付近の砂底にある直径2mほどの小さな根ですが、ここには全長40~50 cmのアザハタの成魚が3尾すみついています。根の回りにはクロホシイシモチの大群が密集していて、まるで巨大な岩のようにも見えます。クロホシイシモチは全長5 cmほどの小魚ですが、捕食魚であるアザハタを警戒する様子は見えません。アザハタはゆったりと泳ぎながら、クロホシイシモチの群れの中を出たり入ったりしています。「食べる魚」と「食べられる魚」が同じ空間に共存する不思議な光景です。この根の周囲100mの範囲を調べてみたところ、クロホシイシモチが大群で集まっている所はありません。このような光景は少なくとも6年間は続いています。アザハタは同じ個体と思われますが、クロホシイシモチのほうは2年で成熟しますので、何代かにわたてここに集まっています。時々クロホシイシモチも食べられることがあるという話を聞いたことがありますが、もしそうだとすればどうしてここに集まってくるのでしょうか。クロホシイシモチを食べる魚はアザハタ以外にもアカハタやオオモンハタ、アカエソ、アオヤガラ、ハナミノカサゴなどこの付近に定住している魚の他に、カンパチやブリなどの回遊性の魚たちもやってきます。アザハタは縄張り意識と攻撃性が強く、他の捕食魚が近づくと追い払います。クロホシイシモチにとってはアザハタに食べられるという危険性はあるかもしれませんが、ここにいれば他の多くの捕食魚から身を守ってもらえるのです。また、ここのクロホシイシモチたちを見ていると自分だけは食べられないと信じているようにも見えます。
2003年11月中旬の潜水調査では、アザハタの根の周囲3m以内にキンメモドキ、ケラマハナダイ、フタイロハナゴイ、タテジマキンチャクダイ、ウツボ、ホンソメワケベラ、ミナミギンポ、ヤセアマダイ、オオモンハタ、オグロエソなど24種の魚が観察できました。群れているものや掃除行動をするもの、あるいは集まっている小魚をねらっているものなど彼等の生態も様々です。24種のうち根の周囲3m外で見られたのは10種だけでしたので、この根の魚たちがアザハタを中心に独自な群集を作っているのではないかと思われます。