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終わりに
9月の平均水温は28.0°Cで、過去最高だった2003年の27.4°Cを0.6°Cも上回りました。9月の平年値が26.3°C、8月の平年値が27.3°Cなので、普通の8月より暑い9月だったと言えるでしょう。10月前半の平均水温は26.1°Cとなり、9月に引き続き平年値を1.5°Cも上回る高水温でした。この秋の異常な高水温は、「まだ夏が続いているよ」と言っているようです。
さて、10月になって、錆浦の海中はさらに賑やかになってきました。昨年11月に紹介したスギノキミドリイシ群落ではチョウチョウウオ類が非常に多く見られます。今年の夏は黒潮に乗って流れ着いたばかりの小さな個体だけでなく、昨年流れ着き越冬した若い個体が多く、サンゴ群落の賑わいは昨年を大きく上回っています。多く見られるのはトノサマダイ(写真1)とアケボノチョウチョウウオ(写真2)、そしてミスジチョウチョウウオ(写真3)、ヤリカタギ(写真4)の4種です。
他に見られるものでは、チョウチョウウオ、アミチョウチョウウオ(写真5)、ニセフウライチョウチョウウオ、スミツキトノサマダイ(写真6)の4種がやや多く、トゲチョウチョウウオ(写真7)とフウライチョウチョウウオは少数が見られ、ゴマチョウチョウウオやセグロチョウチョウウオ(写真8)、ハナグロチョウチョウウオ(写真9)、チョウハン、ウミヅキチョウチョウウオ(写真10)は数個体が見られる程度です。
チョウチョウウオ類の子どもは、その大きさで今年生まれか昨年生まれかがだいたい推測できます。昨年生まれが多かったのはスミツキトノサマダイとウミヅキチョウチョウウオで、ウミヅキチョウチョウウオでは今年生まれの小さな個体はほとんど見られません。トノサマダイやミスジチョウチョウウオ、ヤリカタギでは昨年生まれと今年生まれが半々くらい見られます。昨年11月に多いことを紹介したこの3種は今年も多く流れ着いて、昨年のものと一緒に見られるようです。他の種では、今年生まれが多いように思われます。また、昨年生まれが多いスミツキトノサマダイとウミヅキチョウチョウウオは、11月の時点であまり見られませんでしたが、海水温が冷たくなり始めた1月頃に小さな個体が多く見られたことから、串本に流れ着いた時期が遅かったことが分かります。なお、普通のチョウチョウウオはいつもの年と同様に何年も串本に住み着いているような成魚サイズのものが多く見られています。今年は多くの種で大きい個体が普通に見られることもあり、昨年以上の「チョウチョウウオの楽園」になっていると言えそうです。
ところでチョウチョウウオ類以外にも多くの魚が見られるサンゴ群落ですが、今もっとも目立つのはセナスジベラ(写真11)です。これまであまり越冬できなかったためか、大きな個体を見ることが少なかったベラですが、今年は10 cmを超える大きさのものが群泳しています。8月にはオジサンやナガニザが多いことを報告しましたが、これらの魚種が以前ほど見られなくなったのか、体色が美しいからか、セナスジベラが多くなったように感じられます。また、ベラ類で特筆すべきものと言えば、この狭いサンゴ群落でクロベラやミツボシキュウセン、オニベラなどの雄が見られることです。これらのベラ類は若い個体であれば毎年少数ながら見られるものです。ところが雄が見られたものについては、2005年の夏に串本に流れ着き、2回の冬を越したものだと思われます。ミツボシキュウセンの雄(写真12)は2004年に、オニベラの雄は1998年にも確認していますが、クロベラの雄に関しては、今年が初確認になります。
冬の水温が高かったため、越冬した魚は過去に例のないくらい多いのではないかと思います。それにしても、今見られる熱帯性魚類の個体数の多さは串本という高緯度な海域では異常な景観と言えるかもしれません。2005年夏以降の黒潮接岸による高水温で複数年の越冬をして成長した魚種が増え、今までとは異なる雰囲気が海中を包み込んでいます。今回は特にベラ類の写真が上手く撮れませんでしたが、ベラ類の雄は泳ぎが早いだけでなく、警戒心が非常に強く、また縄張り内を広く泳ぎ回っているために、なかなか良いシャッターチャンスに恵まれません(腕の問題も大きいのですが…)。全く撮れなかったものも含め、また良い写真が撮れるように、そして新しい発見ができるようにチャレンジしたいと思います。