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終わりに
先月のこの欄に、今年は4月に台風が来たことを書きました。4月14日15日の両日は、串本の海は大荒れでした。
その15日と翌日の16日は海の荒れとは裏腹に、陸上は非常に暖かな日となり、15日にはヒメウラナミジャノメ、翌日にはコジャノメのこの春羽化した個体が初めて観察されました。海中公園の園地ではミヤコグサがかわいい花をいっぱいに咲かせていました(写真1)。
16日にはツマグロヒョウモン♀の新たに羽化した個体も見られました。ツマグロヒョウモンは当地では一年中飛んでいますが、春には羽根のきれいな新羽化個体が目に付きます。オスはもう少し早くから見られ、この時期にもよく花に求蜜に来ています(写真2)。春になり、気温が一気に上がることで、多くの虫たちが活発に活動を始めたことを物語っています。
チョウは日中に活動し、花を訪れ、体の割に大きな羽根をもつので、昆虫の中では非常に目に付きやすい仲間です。 私達はこのような飛び舞うチョウを見ると、これらチョウ達がこの時期に初めてこの世に出現したかのように感じますが、チョウはその長い幼虫・サナギの時期を経過して、ようやく親になったわけです。そして、親の時期の重要な任務は交尾をして、産卵することです。しかも卵から孵化した幼虫が喰うに困らない時期と場所に産卵するよう、宿命づけられているのです。春、気温が上がるとチョウが一斉に飛び立つのは、食草の芽吹きに合わせて産卵する好適な時節の到来を意味するのです。写真3は4月15日にネムの新芽に産卵されたキチョウの卵です。もちろんネムはキチョウの食草です。
この頃紀南一帯は甘い香りに包まれます。カシ類をはじめ、香りの強い花木が咲くからです。海中公園の周辺ではトベラ(写真4-5)が香ります。また備長炭で有名なウバメガシも花を付けます(写真6)。海岸へ出ると、盛りを過ぎたハマダイコンが変わった形の実を付けているのが観察できます(写真7)。さらに春の大潮に合わせて、ヒジキ刈りが解禁になり、刈ったヒジキが浜や道路脇で天日干しにされている風景が見られます(写真8-9)。
最近ツマグロヒョウモンがふえているように思えます。ツマグロヒョウモンをはじめ、かなりのヒョウモン類はスミレ類を食草としています。近頃の草原の減少によって多くのヒョウモン類が激減しています。その中にあって、ツマグロヒョウモンのみが減らないのは、これが花壇に栽培される三色スミレ(パンジー)やビオラを食草として利用できるからだと思います。ヒョウモン類は多くが寒冷地に分布しますが、本種だけは暖地性の種で、最近の園芸ブームをうまく利用して、繁栄を勝ち得たチョウであるといえそうです。
写真10はダイビングパークの花壇のパンジーに付いていたツマグロヒョウモンの終齢幼虫で、5月5日に撮影したものです。
23日にはダイビングパークに多く植えてあるシャリンバイが開花をはじめました(写真11-12)。さらに隣の広場ではニワゼキショウが可憐な花を咲かせ(写真13)、その周縁の草むらではアメリカフウロの開花が盛んです(写真14)。さらに浜へ下ると、最近各地で少なくなっていると聞くイワタイゲキが黄緑色の花を咲かせています(写真15-16)。
この日はカラスアゲハを初めて見ました。またエノキには沢山のテングチョウの幼虫が見られ、盛んに新芽を食い荒らしていました(写真17)。4月末にはミカンの花もいっぱいにふくらんで、”はよ咲きたいと待っている”ようです(写真18)。
28日にはナガサキアゲハを初見しました。また、29日にはサツマシジミを初見しましたが、同日、ダイビングパークのすぐ裏で、ハルゼミの初鳴きを聞きました。裏山には松はなく、何の木に止まって鳴いているのかは分かりませんでしたが、非常に弱々しく、もの悲しい鳴き声で、一般に松林で聞かれるやかましいばかりのハルゼミの合唱とは全く異なるものでした。
5月1日にはついにミカンの花が咲き(写真19)、梅の実もこんなに大きくふくらみました(写真20)。また春に白い花を咲かせたヘビイチゴは真っ赤な実をふくらませ(写真21)、子供達が花をつまんで、その花底から甘い蜜を吸ったことから和名が付いているスイカズラの花も咲き出しました(写真22)。
5月5日、ダイビングパーク駐車場のびわの木の実は大きく熟し、もう少しで食べ頃になるはずですが(写真23)、毎年恒例の海中公園を訪れる入園客と、この辺りに住むニホンザルとのどちらが先に収穫するかの競争が、今年も始まることを示しています。
今年のゴールデンウィークは比較的天候に恵まれましたが、観察する暇がほとんどなく、その直後から長期の出張に出てしまい、五月前半の記録が全くなく、ここに報告できないのことをお詫びします。