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終わりに
4月の平均水温は18.8°C、平年値を0.6°C上回っていました。後半は19°C台の日が多く、30日にやっと20°Cになりました。5月前半の水温は21.0°Cで、20°C以下にさがることもほとんどなくなり、やっと海中にも春がやってきたように感じられます。水の濁りは相変わらずといったところですが、今年は水中透視度が10 m以下になる日が少ないように感じられます。また、台風2号が紀伊半島沖を通過しました。この時期に珍しい台風接近だったものの、潮岬からの距離があったために特に被害はなかったようです。
この春、串本沿岸の海中ではホンダワラ類が多く茂っているようです(写真1)。ホンダワラ類はヒバマタ目の褐藻で、体に気泡を持つことで、海中で立ち上がり、群生して大きな林をつくります。近年は「磯焼け」と呼ばれる大型褐藻類の現象が顕著で、ホンダワラ類も錆浦の海底にはあまり多く生えていなかったため、サンゴとホンダワラが混成した海中景観が見られます。
さて、今年は国際サンゴ礁年ということで、各地で様々なイベントが行われています。私も個人的に海中でサンゴに注目してみようと思っていますが、慣れないサンゴを観察するのは難しそうです。錆浦近海ではこれまでに60種以上のサンゴが確認されており、串本沿岸でも最も種多様性が高いところのひとつです。これまでチョウチョウウオ類を紹介することが多かった港の中でも例外ではなく、多くのサンゴが見られます。
サンゴは太陽の光で光合成して生活しているので、日光が当たりやすいように大きく成長していきます。隣り合ったサンゴが成長の過程でぶつかると、そこに場所取りの争いが始まるのです。成長の早いサンゴであれば、隣のサンゴの上を覆うように成長して下に隠れたサンゴを殺してしまうし、成長の遅いものでは隣のサンゴを直接攻撃して殺してしまいます。写真2は後者の典型的な例で、イボサンゴ(右)がキクメイシの仲間(左)を攻撃しているところです。白い糸状のものは隔膜糸と呼ばれる消化器官で、これを伸ばして相手を体外消化して殺すのです。イボサンゴは喧嘩に強いサンゴとして知られており、写真3では中央の白色部分が攻撃を受けた跡で、今は攻撃が止んでいますが、そのうち右下のサンゴは完全に殺されてしまうことでしょう。また、同種のサンゴでも喧嘩するようで、イボサンゴ同士の喧嘩をすぐ近くで見つけました(写真4:下から上に一方的に攻められています。)
写真5はこの攻撃を受けているイボサンゴを少し離れて見たところです。直径20 cmほどのイボサンゴが完全に周囲を囲んだ大きなイボサンゴによって、あらゆる方向から攻撃されています。このまま攻撃が続くと、中央のイボサンゴは消滅してしまうのでしょうか。それとも反撃して生き続けるのでしょうか。今後の経過が注目されます。なお、イボサンゴの名前は群体の表面にあるイボ状の突起に由来していますが、写真のイボサンゴは触手を伸ばしていて、柔らかい絨毯のように見えます。これを少し触って触手を縮めると、写真6のように名前の由来となった5 mmほどの小さなイボ状の突起が並んでいるのが判ります。
最後は少し春らしい魚の話題です。写真7はシマアジの5 cmくらいの子どもで、小さなうちは大きな魚の陰に寄り添うようにして泳いでいる姿がよく見られます。このシマアジは寄り添う魚が見つけられなかったのか、私に寄り添うようにずっと泳いでいました。