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終わりに
先月の報告で8月は平年並みと書きましたが、後半から水温が急上昇しました。その結果、8月の平均水温は28.1°C(平年比+0.8°C、過去5番目の高水温)となりました。しかも、8月下旬の11日間(8月21日~31日)に限ってみると、平均値は29.0°Cで、当水族館での観測史上最高記録となりました。この高水温は9月に入ってからも続いており、9月前半の平均水温は28.5°Cと非常に高く(平年比+1.5°C)、海中はまだまだ暑い夏が続いているようです
さて、高水温が続くと最近よく話題になるのが、サンゴの白化現象です。この夏の高水温はサンゴたちにとってかなり辛かったようで、とくに浅いところでは色の抜けたサンゴが多く見られました。多くの観光客が訪れて、スノーケリングを楽しんでいる串本ダイビングパーク前の海中では、フタマタハマサンゴとハナヤサイサンゴのほとんどが白化して色が薄くなっていました(写真1)。このあたりの水深は干潮時には1m以下になり、表面水温が昼頃には30°Cを超えることも不思議ではありません。しかし、周りに生えているクシハダミドリイシやスギノキミドリイシは比較的高水温に強いのか全く白化していません(写真2)。また、サンゴと同様に褐虫藻を体内に共生させているイソギンチャクも白化している姿が見られます。クマノミが共生することでよく知られたサンゴイソギンチャクもそのひとつで、触手の先端が完全に白化しているのが分かります(写真3)。たくさんのサンゴやイソギンチャクを見て回ると、サンゴよりイソギンチャクの方が顕著に白化しているように思われます。
海中展望塔の桟橋を挟んで反対側(東側)では、ダイビングパーク前より白化が一層顕著に見られます。この桟橋の東側は小さな入り江になっていて、水の替わりが悪く、暖まった海水が滞留し続けるために、海水温の上昇が激しかったことが示唆されます。こちらではダイビングパーク前では白化していなかった(白化の度合いが低かった?)キクメイシ類が著しい白化を呈しています(写真4)。さらに、シマキッカイソギンチャクは完全に色がなくなり、真っ白になっています(写真5)。
ところで、日光の影響を受けにくい水深でも白化減少は起きているのでしょうか?10mくらい潜ると、ほとんどのサンゴは白化していません。しかし、ハナヤサイサンゴやコブハマサンゴの一部には白化した群体が見られます(写真6、7)。また、サンゴイソギンチャクでは12mの深さで白化した個体が見られました(写真8)。しかし、数m離れたところでは、全く白化していない個体も見られ(写真9)、水深だけでなく、白化の有無には個体差があることが分かります。
これまで紹介してきたサンゴやイソギンチャクは、白化しているものの、まだ生きています。海中の暑い夏がいつまでも続くことはなく、少しずつ水温も下がってきます。水温の低下に伴い、サンゴやイソギンチャクにも褐虫藻が戻り、白化現象も沈静化にむかうものと思われます。最後に、珍しい生き物をひとつ紹介します。桟橋の東側で白化したキクメイシ類の近くで小さなタコを見つけました(写真10)。これはヒョウモンダコという小型のタコで、腕にある青いリング状の模様が美しいことと、猛毒があり咬まれると大変危ないタコとしてよく知られています。見つけた個体は胴体が小指の先くらいの小さなものです。ヒョウモンダコ自体はこれまでに何回か発見したことがありますが、ここまで小さなものは初めてです。このタコが大きくなる頃には、水温も下がってサンゴたちも回復していることでしょう。