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終わりに
2月10日、朝9時。串本海中公園の海中展望塔での海水温は17. 1°Cでした。一時黒潮が離岸したのと、寒波の襲来で2日前の8日には15. 8°Cまで下がりましたが、黒潮はすぐに接岸してこの季節としては温かい海になっています。海中の透視度も25mで、快晴の上空からは太陽の光がキラキラと差し込んでいました。このような状況ですと明るい海中風景が見られるのですが、この日はいつもと違ってなんとなく暗い感じを受けました。不思議に思ってよく見ると、サンゴの細片が広がり普段は白っぽく見える南側の海底が褐色になっています。フクロノリという海藻が海底一面に生育していたのです。
フクロノリは毎年この時期になると海中公園一帯の浅い海に、海底を埋めつくすように現れます。形や色も他の海藻のように見栄えもせず、フィンでけると海中に舞い上がり視界を悪くするのでダイバーには不評です。時にはサンゴを覆ってしまほど生育しますが、繁茂する期間は短く、春一番の強い南風が吹いて海が荒れると流れ去ってしまいます。この時水族館の取水口から吸い込まれて取水管を詰まらせるので、飼育係の人たちにとっても迷惑な海藻です。
冬から春にかけては海藻の季節です。嫌われ者のフクロノリのようなものもありますが、アヤニシキのように美しい海藻もよく見られるようになります。このアヤニシキは12月頃から小さなものがちらほら現れ5月頃まで見られます。この時期がよく成長して葉体の汚れや傷が少ないので見ごろです。ダイビングポイントになっているグラスワールドやイスズミ礁などのサンゴ礁の海底に多数着生しています。よく見ると葉体は細かな網目状になっていて、薄いベールのように透けて見えます。この他ケヤリ、ヒビロウド、ベニヤナギノリなど繊細で美しい海藻も多いので、海底を注意深く観察すると楽しいダイビングができると思います。
「ピカチュウー見たよ!」「どこにいた?」「グラスワールドにいっぱいいたよ!」などとこの時期ダイバーの間では奇妙な会話が交わされます。ピカチューとは本来人気テレビアニメ「ポケモン」のキャラクターの一つなのですが、ダイバーに人気のあるこのピカチュウーの正体はウミウシなのです。正式な和名はウデフリツノザヤウミウシなどという長い名前がついています。体の後ろにある大きく長い2本の突起がピカチューの耳のように見え、色や模様もよく似ています。このウミウシ毎年この時期になるとダイビングポイントのグラスワールドの大きな岩礁の同じ場所に出現するのです。先日この岩礁に潜水して見たところ、2~4 cmの個体が8尾観察できました。岩礁の北面、水深10m付近の比較的狭い範囲に集まっていました。撮影のため接近してみるとムシャムシャと何かを食べながら動いています。一見すると小さな海藻を食べているように見えたのですが、後で資料を読んでみたところ、この仲間のウミウシは海藻を食べるものは少なく、ヒドロ虫やカイメン、コケムシなどの付着動物を好んで食べているそうです。撮影中は気が付かなかったのですが、後で画像を見るとウミウシの頭付近に小さなヒドロ虫がありました。ヒドロ虫はクラゲのような刺胞毒がありますが、こんな物を食べるウミウシは色や形だけでなく食性も変わっていますね。