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終わりに
10月の平均水温は24.6°C(平年比+0.5°C、前年比+0.3°C)、11月の平均水温は22.5°C(平年比+0.7°C、前年比+0.2°C)でした。少しだけ暖かい海の秋となったようです。12月前半の平均水温は21.3°C(平年比+1.2°C、前年比+0.7°C)で、長時間潜ると少し寒さを感じるようになってきましたが、まだしばらくは20°C以上の暖かさが続いてくれそうです。
さて、台風の大きな被害を受けた海中展望塔周辺のサンゴは移植によって早期の回復が期待されるところですが、台風前の状態に戻るには時間がかかりそうです。サンゴの減った展望塔の周辺からはチョウチョウウオ類のようなサンゴに依存して生息する魚種がほとんど見られなくなりました(写真1:チョウチョウウオ類のたくさん見られた過去の展望塔)。このため、11月の魚類観察では20分の観察で見られた魚種数が平均51種で、前年の平均67種から大幅に減少しました。浅海域でのサンゴ群落の重要さを改めて思い知らされた気がします。
そんな展望塔に冬の救世主として現れたのがキビナゴの大群です。キビナゴは南日本の沿岸域に生息し全長10 cmほどになるイワシの仲間で、串本でもおなじみの魚です。毎年冬になると展望塔からも群れが見られるようになりますが、この冬の群れは今までに見たことがないくらいの大きな規模となりました。展望塔に40箇所ある覗き窓のどこから見ても必ずキビナゴの群れが見られ、その数は何千万匹か何億匹かと、数えようと思うこと自体が無駄な程の数です。キビナゴは止まることなく泳ぎ続けているので、密度の高い群れが動くと、嵐の時に暗雲が形を変えていくように、大きく群れの形が変わっていきます。また、キビナゴの体は太陽の光を反射してキラキラと輝くので、天気の良い日には青い海の中に雪が舞っているというか、その動きから猛烈な吹雪が吹いているようにも見えます。
さて、キビナゴが展望塔に集まってくると、それを捕食するために大型の魚類も多く見られるようになります。ダツ科のオキザヨリ、ヤガラ科のアオヤガラ、ヘラヤガラ、フサカサゴ科のハナミノカサゴ、アジ科のブリやカンパチ、カスミアジなど、そして魚ではありませんがアオリイカも代わる代わる現れ、または10個体以上の群れで狩りをする様子が見られ、展望塔の周囲が賑やかになりました。積極的に狩りをする魚が現れると、キビナゴたちはパニックになったように泳ぎ、捕食されないように逃げ回ります。オキザヨリは水面近くを、アオヤガラとアオリイカは中層付近をゆっくりと泳ぎながら、キビナゴを追い詰めていき、常に捕食の瞬間を狙っています。しかし、ヘラヤガラやハナミノカサゴは捕食に積極的とは言えず、何となく展望塔の周辺にいるだけにも見えます。また、ブリやカンパチのような大型のアジ類は展望塔の周辺に留まることはなく、猛烈な速さで泳いで現れ、キビナゴを襲った後、そのままどこかへ泳いで行ってしまいます。アジ類が近づいてくると、キビナゴも危険を察知して忙しなく泳ぎ始めるので、姿が見えなくてもアジ類の接近が分かります。このようにキビナゴを捕食に集まってくる魚たちも、それぞれの特徴があり、観察をしていると面白いものです。
最後に、普段「珍しい生きものを発見した!」で締めているこのコーナーですが、今回は「その後」を紹介します。2008年1月に紹介した錆浦港内のパイプウニを覚えているでしょうか?(写真7)その後近くに潜る度に生存を確認し続けていましたが、久しぶりに写真を撮ったので成長ぶりを比べてみます(写真8)。両者ともに隣にツマジロナガウニがいるので、これを参考に比較すると、トゲが長くなり、体も少しながら大きくなっていることが分かります。パイプウニと言えば、たしか2000年ころだったと思うのですが、潮岬のエビ刺し網でもっと大きく立派なものも混獲されたことがありました。そのときの殻を標本にして保管してありますが、その大きさは写真9と同じくらいです(写真の標本は別個体で、串本産ではありません)。この大きさになるにはまだ何年か掛かりそうです。今後も見守っていきたいパイプウニです。