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終わりに
12月の平均水温は20.3°C(平年比+0.9°C、前年比+0.4°C)、1月の平均水温は17.5°C(平年比+0.1°C、前年比-0.2°C)でした。12月は少しだけ暖かく、1月は平年並みの水温でした。2月前半の平均水温は16.8°C(平均比+0.3°C、前年比+0.1°C)で、ほとんど平年並みとなっています。しかし、2月11~13日には18.6~18.9°Cという、2月とは思えない高水温も記録されています。
さて、上述の通り、2月前半の水温が平均的なのに、19°C近い高水温も記録されていると言うことは、水温が低い日も多かったことが推測できるでしょう。実際、2月4~7日は16°C未満、とくに2月6日は14.5°Cという今年度の最低水温となっています。これまでの観察では、概ね16°Cより低い水温が長く続くことで、多くの熱帯性の生きものが越冬できず、死滅していくと考えられています。数日間15°Cくらいの水温が続きましたが、一見すると海底の生きものたちの活動が鈍ったこと以外に大きな変化はないように思われました。しかし、この一時的な水温低下の影響を強く受けたのが、浅場のクシハダミドリイシでした。水温が下がった数日間は気温も低く(最低気温は連日5°C以下)、夜中の2~4時頃に干潮になったため、冷たい空気の影響を受けて水面近くの水温が異常に低くなったことが想像されます。実際の水温は不明ですが、岸近くのクシハダミドリイシの群落では白化現象が記録されました(写真1~3)。
夏の暑さで白化する話は、近年の温暖化がらみで様々な情報が耳に入ってきますが、低水温で白化現象が起こることを知っている人は少ないのではないでしょうか。なお、錆浦で冬の白化(サンゴの死滅)が著しかった記録は、1984年にまで遡ります。当時は1ヶ月以上の長い期間15°C未満の水温が続き、2月の平均水温が14.0°Cという考えられないくらいの低水温が記録されました。この時は沖合まで広い範囲でサンゴが白化、斃死したという記録が残っています。今年の白化はごく浅いところだけですが、一部のサンゴには斃死部が見られ、1週間後くらいから白かった部分に藻が生え始めました(写真4、5:写真2と4は撮影方向が異なりますが同じ場所です)。近年は冬の高水温に関する情報をお伝えすることが多いために、珍しい現象が起こったと言えるでしょう。なお、海中観光船の発着港内のサンゴ群落では白化や斃死したサンゴはほとんど見られませんでしたが、この時期を境にしてチョウチョウウオ類が激減しました。熱帯性の種で残っているのはトノサマダイとスミツキトノサマダイくらいで、その個体数も著しく減少してしまいました。
最後に、海中で見つけた珍しい生きものを2つ紹介しましょう。ひとつ目はウスジマイシモチです(写真6)。海中展望塔の沖、約150 mくらいの水深10 mの岩陰にいました。潮岬のダイビングポイントなどでは何回か見たことがありましたが、錆浦では初めて見つけました。また、展望塔のすぐ西側の水深5 mくらいの岩陰ではオニイボナマコを見つけました(写真7)。本種は2000年10月に潮岬沖のエビ刺し網で混獲されたものが持ち込まれたのが串本での最初の記録で、昨年くらいから浅いサンゴ群落周辺で時々見られるようになっていました。見つかる個体は手のひらに乗るくらいの小さなものが多かったのですが、今回発見した個体は全長30 cmくらいの大型個体で、ずっしりとした重量感がありました。この2種の熱帯性の生きものが2月初旬の低水温を乗り切れたのは、少し深いところに棲んでいるからだと思われます。今回紹介した低水温による被害はごく浅いところだけの記録で、全体的には大きな変化はなかったと言えそうです。