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終わりに
3月の錆浦の水温は17.7°Cで、平年値より約1°C高い結果となりました。冬の水温は高めで推移したため、錆浦の定置観測では水温が15°C以下になった日はなく、1~3月の平均水温は17.5°Cで、平年値を0.7°C上回っていました。水温が20°Cを超えるのは普通5月になってからですが、今年は早めに20°Cを超えて暖かくなるような気がします。
さて、この春、錆浦の海底の様子はいつもと違っていました。この時期、錆浦では浅海域の多くを「フクロノリ」という名の海藻が覆っています。フクロノリはカヤモノリ科の褐藻で、大きいものは直径20 cmくらいになり、薄い皮でできたモコモコとした袋状の形で、転石上や岩上に生えています。海中観光船の発着する港の中では、例年海底の石が見えなくなるほどにフクロノリが成長しているはずなのです(写真1:昨春の海底の様子)。しかし、今年はこのフクロノリがほとんど見られません。3月に春一番が吹き荒れると、大波で海底から剥がされたフクロノリが海岸に打ち上げられ、海岸線付近が黄土色になります。今年はこのような光景も見られず、何となく変わった春を迎えました。しかし、全然フクロノリがない訳ではなく、よく見ると小さなフクロノリが少しだけ生えています(写真2)。また、数百m東に離れた東雨の海岸では昨年までと同様にフクロノリが一面を覆っています(写真3)。
また、今春の錆浦ではヒジキもほとんど見ることができません。春になると、観光船の港内の護岸にびっしりとヒジキが生えているのですが、今年は全く見られません。周辺の潮間帯を見ると、短く小さなものが少々見られる程度です。冬の高水温によるものなのか、近年よく言われる「磯焼け」によるものなのか、理由はわかりません。ただ、潮岬を挟んで東側では錆浦とは逆にヒジキが豊作と聞きます。フクロノリとヒジキが見られないのは、錆浦だけの狭い範囲のことなのか、それとも…、気になります。
冒頭で暖かい冬だったと書きましたが、本当に暖かかったのか疑問に思う事もあります。海中を散策していると、ウニの殻をよく見るのです(写真4)。落ちているのは多分シラヒゲウニの殻で、串本でも多く見られる大型のウニです。海底でウニの殻が多く見られたのは、4年前の低水温でナガウニ類が多く死んでいた時以来です。今回はナガウニ類の殻は見られませんが、シラヒゲウニが多く死ぬ理由は不明です。ただし、海底を探すと元気なシラヒゲウニも多く見られており、実際に死んでいるのはほんの一部に過ぎないと思われます(写真5)。
潜っていると、多くの熱帯性魚類は普通に越冬しており、冬の水温が高かったことが感じられますが、シラヒゲウニの例もあり、全ての異変が暖かさのためとは言えないようです。決して海底の環境に大きな違いがあるとは思えませんが、この春の錆浦の海底が異常なのは確かなことです。