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終わりに
1月の平均水温は16.8°C(平年比ー0.6°C、前年比ー0.7°C)、2月の平均水温は16.0°C(平年比ー0.5°C、前年比ー1.3°C)で、久しぶりに冷たい冬がやってきました。陸上も寒かったので不思議ではないと思いますが、これほどの低水温は2005年以来となります。また、2月1日と2日には13.7°C、13.5°Cという13°C台の低水温を記録しましたが、水温が14°Cを下回るのは1996年以来15年ぶりのこととなります。その後は少し水温も上がって推移し、2月下旬には19°Cも記録されており、異常な低水温は一時的なものとなりました。
しかしながら、水温が14°C以下になった海中展望塔の周辺では、見られる魚類も非常に少なくなっていました。常連としてほとんど毎日見られるオトメベラやヤマブキベラ、クマノミは全く見ることができません。ニシキベラは見ることができましたが、海底でじっとしています。展望塔の主役と言えるメジナの群れも、いつもと比べて元気がなく、水の冷たさにじっと耐えているように思えます。そんな中、一際元気に泳ぎ回っていたのがクサフグです(写真1)。クサフグは2008年から展望塔でも多く見られるようになってきたフグ科の魚です。北海道を除く日本各地で見られる魚だけに寒さには人一倍(魚一倍?)強いようです。
さて、水の冷たさを我慢しながら水温15°C以下の海中に潜ると、海底一面にフクロノリが覆っていました(写真2)。フクロノリは中空のシュークリームのような形をした褐藻の仲間で、毎年冬になると、浅い海底に生えてきます。海中展望塔の連絡橋の下に近付くと、海底に白い大きな貝落ちているのが見えました。真っ白な殻をしたウミウサギガイです(写真3)。寒さで死んでしまって殻だけが落ちているのかと思い拾ってみたところ、まだ生きていたので餌となるウミトサカの上に置いておきました。しかし、かなり弱っているようなので、このまま死んでしまう可能性もあります。また、この近くでは白いカビの生えたようなハコフグが泳いでいました(写真4)。近付いてよく見ると、ミナミハコフグという南方系のハコフグでした。串本ではあまり大きな個体を見ることができない魚で、弱っているのかあまり逃げません。このミナミハコフグもこのままの低水温が続くと、冷たさに耐えきれずに死んでしまうのでしょう。この冬の低水温は多くの南方系の生きものにとって、かなり厳しいものになりそうです。
最後に珍しい生きものを発見したので紹介しましょう。冷たい海の中を泳いでいき、水深12 mくらいの海底で発見したのは、マンジュウイシモドキというクサビライシ科のサンゴです(写真5)。このマンジュウイシモドキは直径5 cmほどで、サンゴとしては珍しく単体性で、岩などに固着せずに、海底にころがって生活します。串本沿岸では非常に珍しいサンゴで、これまでに数例の発見しかありません。やはり低水温で弱っているのか、少し色が薄くなっていました。この大きさになるまでに何回かの冬を越してきたと思われますが、今年の冬は特別寒いので、越冬は難しそうです。
多くの生きものが低水温に耐えているのが海中で観察しているとよくわかります。13°C台のときに見られなかったベラたちも15°Cの水温では普通に泳いでいました。あの低水温に耐えられずに死亡した生きものはほんの一部だったと思われます。早くに海中も暖かくなって、過ごしやすい水温になって欲しいものです。