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終わりに
6月の平均水温は23.3°C(平年比+0.4°C、前年比-0.3°C)、7月の平均水温は25.1°C(平年比-0.3°C、前年比-1.2°C)となり、夏になっても中々水温が上がってこない日が続きました。この理由としては、6月後半からの天候不順が大きく影響していると思われます。7月の降水量は当水族館での観測史上2番目に多い588 mmを記録しました。この雨は8月前半まで残り、海も荒れた日が続きました。8月前半の平均水温は27.2°C(平年比-0.1°C、前年比-1.5°C)で、平年並みとは言え、前年の熱さからは想像もできないくらいに涼しい海となってしまいました。
さて、8月前半は天候不順で波が高く、透視度の低い日が続いたために、ダイビング日和がほとんどなく過ぎてしまいました。波が静まってから久々に潜ってみると、水温の上昇と共に海中の様子も変わってきているのを感じました。まず、この夏はデバスズメダイの幼魚が多く見られるようです(写真1)。よく似たアオバスズメダイも多いと知り合いのダイビングインストラクターから聞いていましたが、私の前に現れたのはデバスズメダイの群れだけでした。両者共に水色で美しいスズメダイで、串本では夏によく見られるようになってきた熱帯性魚類です。よく見られるようになった理由としては、近年の温暖化で、繁殖地が北上していることが考えられます。また、黄色いネッタイスズメダイも見つかりました(写真2)。こちらは1個体だけですが、私が錆浦で見つけるのは2003年以来、7年ぶりとなります。
ところで、涼しい夏となった錆浦の海ですが、夏の恒例となりつつある白化現象がやはり見られました。浅いところでイワスナギンチャクが真っ白になっていました(写真3)。しかしながら、周辺を探索しても他に白くなったサンゴなどは見られません。色の薄くなったサンゴイソギンチャクはしばしば見られましたが、このイワスナギンチャクだけ白い理由は特に思い当たりません。高水温による白化ではない、何か別の理由かも知れません。
また、白化はなくとも、サンゴへの驚異となる生物は結構多く見られるようです。潜っていると相変わらずオニヒトデと食べられて白くなったサンゴが普通に見つかります(写真4)。錆浦では20 cm以下の小さなものが主流ですが、簡単に見つかることから、かなりの数が生息していると予想されます。そして、貝類の被害もオニヒトデ同様に続いているようです。2000年頃に猛威をふるい始めて、サンゴに大きな被害を与えたヒメシロレイシダマシが駆除によって減少・収束したのは2005年ですが、その後オニヒトデの陰に隠れて増え続け(オニヒトデと比べると被害のインパクトが小さいために、駆除でも重視されなかった経緯があります)、昨年からは錆浦でも少しずつ目につきやすくなっています。私がこの夏に観光船の港の奥で発見したのはカブトサンゴヤドリというハマサンゴ類を食べる巻き貝です(写真5)。港の東奥にあるフカトゲキクメイシの多いサンゴ群落でコブハマサンゴに寄生していました。周辺のコブハマサンゴを見ると、やはり食害を受けて白くなったところが目立ちます(写真6)。このときに見つけた貝は20個ほどでしたが、よく探せばまだまだ見つかると思います。
最後に錆浦で初めてのハゼを発見したので紹介しましょう。セボシウミタケハゼという、全長3 cmほどの小さなハゼです(写真7)。第1背鰭の基部に半円形の黒点があることが特徴で、やや深い水深12 mでヒラウミキノコというウミトサカの仲間の上で発見しました。本種を含むウミショウブハゼの仲間はイシサンゴ類やウミトサカ類、カイメン類や海草類など種によって決まった生物の上に着生しているグループで、串本沿岸では7種ほどが見つかっています。本種は様々な宿主を利用することが知られており、この仲間としては串本沿岸で最も普通に見られる種で、潮岬沿岸のダイビングポイントに多く見られるそうです。