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終わりに
今年の海は陸上と同じように、例年になく寒い冬となりました。海中展望塔で観測している2月下旬の表面水温の平均値が14.7°Cとなり、1991年以来15年ぶりに15°C未満となったのです。水温の低い状態は3月中もずっと続き、3月の平均水温は15.1°Cでした。1995年から2004年までの10年間の3月の平均水温は17.5°Cなので、最近の事しか知らない人(私もその一人)には本当に寒い冬だったと思います。4月に入り、水温が少し上がって、4月上旬の平均水温も16.0°C、15日現在17°C前後を推移しており、やっと暖かくなってきました。
忙しさを理由にあまり潜っていなかったのですが、冷たい海の中で見つけた「寒さ」をいくつか紹介しましょう。写真1は低水温で食欲がなくなり、痩せたツノダシです。撮影日は2月28日で、数日内に死亡したのではないでしょうか。写真2はすでに死亡していたサビウツボです。撮影日は3月6日で、死後数日経っていると思われます。写真3は4月13日に撮影したヤマブキベラの死骸です。本種は海中展望塔で観察される数がかなり減っており、死んだ個体も多いのでしょう。しかし、この2日後には別個体が展望塔から観察されており、全滅したわけではなさそうです。写真4は棘がボロボロになったハリセンボンです。痩せているわけでもないので、何とか冬を越せるものと思われます。
写真5・6は死亡したシラヒゲウニとナガウニの殻です。写真5の撮影日は3月2日で、このころにはシラヒゲウニだけでなく、ラッパウニの死骸も数多く見られました。写真6の撮影日は4月13日で、この頃には3月に見られなかったナガウニやタワシウニの死殻が多数見られました。また、3月にはホシダカラガイの、4月にはヤクシマダカラガイの死殻が落ちているのがけっこう確認されています。
写真7は低水温で死滅したクシハダミドリイシです。サンゴの場合、低水温が続くと、まずは褐虫藻というサンゴの体内で光合成をする単細胞の藻類がサンゴの体から抜け出して「白化」します。これが長く続くと死んでしまうのですが、写真7のクシハダミドリイシは死滅してからしばらく時間が経っており、表面に藻類が生えて黄色くなっています。「白化」と言うと、1998年の夏に高水温で沖縄のサンゴが大きなダメージを受けた話のように、暑い夏に起きるものと思われがちですが、冬の低水温によって白化することもあり、串本でも1984年冬に記録されています。海中のサンゴを見ていくと、とくに浅いところで白化や死滅しているものが多く見られました。死滅しているのはごく一部のようですが、種によっては全体的に色が薄くなっているものも見られます。昨年はオニヒトデの大発生によって多くのサンゴが被害を受けました。低水温によってこのオニヒトデも死亡するものかと思っていましたが、4月になっても多くの駆除実績があり、今回の低水温で簡単に死亡することはないようです。
当地で見られる海中生物は暖かい黒潮の強い影響下で生きているために、寒さに弱いものが多いのは間違いありません。「死滅回遊魚」とか「無効分散」とか呼ばれて、流れ着いた生物たちが、この冷たい海水の中で生きていくのは大変なことで、冬になると様々な生物が低水温によって死亡していくのは仕方ないこととも言えます。
さて、水温が低いことで見られる生物がいるのも事実です。写真8はメバルの稚魚、写真9はアナハゼです。どちらも潮岬の東側では普通に見られる魚類ですが、西側の海中公園地区で見られることはめったにない魚種です。この2枚の写真は4月に入ってから串本海中公園地区4号地付近で撮影したものです。このように、普段は見られない魚が見られるのも寒い海の楽しみのひとつではないでしょうか。とくに私のように暖かい串本のイメージしかない者にとっては、とても新鮮な感覚で潜れる日が続きます。