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終わりに
7月の平均水温は26.3°C、平年値を0.9°C上回っていました。前半は平年並みだったのですが、22日からぐんぐんと上昇して28°C台が続き、下旬の平均は平年値より1.6°Cも高くなりました。8月に入っても高水温が続き、8月前半の平均水温は28.7°C、最高値は29.1°Cでした。台風の接近がなく、大きな波が立たないことから、海水が攪拌されず、とくに浅海域での水温が高くなったのです。
高い水温が続いた8月の海中では、暑さに耐えられなくなったサンゴやイソギンチャクが白化していました。白化とは主に高水温のストレスを受けてサンゴやイソギンチャクの体内に共生する単細胞藻類(褐虫藻)が体外に抜け出て、サンゴなどが白くなることで、ひどい時には死に至ることがあります。錆浦で白化が目立つのは、浅いスノーケリングポイントに多く生息するフタマタハマサンゴとサンゴイソギンチャクです(写真1)。また、鮮やかなショッキングピンク色をしたハナヤサイサンゴも白化しています。潮間帯に生息しているサンゴにも白化しているものが多く見られます。とくに潮溜まりのように干潮時に閉鎖されるところでは水温が高くなり易いため、白化が著しいようです。そんな潮溜まりでも暑さに強いフカトゲミドリイシはほとんど白化していません。高水温に対する耐性がサンゴの種によっても違うことが判ります。
さて、暑い夏の海の中で、これまで見られなかった珍しいものが観察されました。錆浦港の中でオヤビッチャの雄がテトラポッドに産みつけた卵を雄が守っていました。オヤビッチャは15 cmほどになるスズメダイ科の魚で、5本の横縞模様が特徴的です。串本では初夏頃から潮間帯に1 cmくらいの幼魚が見られるようになり、夏の潮溜まりでは最も普通に見られるスズメダイのひとつです。過去にも越冬して大きくなった個体を見ることはあったのですが、繁殖している姿は初めてです(潮岬側では過去にも繁殖例があるそうです)。周辺には4個体のオヤビッチャが観察できたので、繁殖に参加した雌も近くにいると思われます(写真2、3)。
今年は紀伊半島に台風が接近しないために、海が大きく荒れることがありません。そのためにソラスズメダイの産卵床が攪乱されないのか、小さなソラスズメダイの群れが多く見られます(写真4)。サンゴやイソギンチャクにとって厳しい夏ですが、魚たちには優しい夏になっているのでしょうか。