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終わりに
3月になった途端、串本海中公園センター前の水温が上がり始め、4日には19.9°Cを記録しました。「春がやってきたのか?」と思われたのですが、その後の水温は下がり始め、15日には今年最低となる15°C台まで下がってしまいました。ただし、3月前半(1~15日)の平均水温は17.6°Cで、3月の平年値(16.7°C)を大きく上回っています。
さて、最近は「暖冬」と「温暖化」という言葉をテレビや新聞を通じてよく聞きます。串本の水温が高いことと温暖化の関連をよく問われますが、串本の水温が高いのは黒潮が潮岬に接近して流れているためで、それが温暖化と密接な関係にあるかは、我々生物の専門家にはよく判らないのが現状です。そんな中、2月22日に本州初記録となるリュウキュウキッカサンゴが潮岬のダイビングポイント「グラスワールド」の近くで見つかりました。キクメイシ科ですが、遠目にはキッカサンゴにしか見えない不思議なサンゴです。発見した研究員は当日オニヒトデ駆除を行っており、群体の真上を偶然通ったときに発見できたと話しています。その後、新聞に掲載されたリュウキュウキッカサンゴがテレビで紹介されたためなのか、水族館に問い合わせの電話がかかり続けました。その多くが温暖化との関連や、そのサンゴを撮影したという取材のためでした。前述したとおり、温暖化かどうかは我々には判らないし、偶然見つけた場所にはたどり着けないので、取材は断っていました。それでも、「串本の海が暖かい」→「温暖化」と関連づけて、センセーショナルに報道したいテレビや新聞からいろいろな取材の申し込みが相次ぎました。
前置きが長くなりましたが、新聞社が暖かい串本の海の海中撮影をしたいと言う話を断り切れずに、撮影に同伴する形でグラスボート港内に潜ってきましたので、そのときに見られた海中の状況をお話します。当日は水温17°C、透視度7 mでした。条件的にはあまり良くない日でしたが、昨年11月にこのコーナーで紹介したサンゴ群落に群れるチョウチョウウオ類の写真を新聞社のカメラマンが撮れるように案内することにしました。まず、海中に入ってびっくりしたのが、先月は全然なかったフクロノリが海底一面を覆っていたことです(写真1)。フクロノリに覆われた海底を進んでいき、ミドリイシ群落に到着すると、数多くのチョウチョウウオ類が迎えてくれました。11月の頃と比較すると、二回りくらい大きくなっていましたが、若干個体数が減っているように思われました。多かった種はトノサマダイ、ミスジチョウチョウウオ、アケボノチョウチョウウオで、ヤリカタギの減少が目立ちました。また、暖かい時に個体数が少なかったセグロチョウチョウウオやアミチョウチョウウオ、ミカドチョウチョウウオは見られませんでした。しかし、ウミヅキチョウチョウウオが10個体以上見られ、水温が下がってからのチョウチョウウオ類の種構成に変化が生じたのだと感じました(写真2)。ウミヅキチョウチョウウオは他のチョウチョウウオ類より少し小さく3 cmほどだったので、串本にやって来た時期が遅かったことが分かります。
さて、新聞社のカメラマンはずっとサンゴとチョウチョウウオ類の撮影を続けているので、その間にスズメダイ類もチェックしてみました。11月に紹介したアオバスズメダイは3個体が確認でき、カブラヤスズメダイは見つかりませんでした。また、少し離れたところを散策すると、3 cmほどのミスジリュウキュウスズメダイが見つかりました(写真3)。なんと1996年9月以来の10年半振りの発見です。近縁種のフタスジリュウキュウスズメダイ(これも錆浦では少ない)も2個体一緒に見られ、錆浦のスズメダイ類はまだまだ観察すべき点が多いことが判りました。
さらに、もう少し散策を続けると、サンゴ群落の切れ目で全長5 cmくらいの小さなミギマキを発見しました(写真4)。ミギマキはタカノハダイの仲間で、やや深い岩礁域に生息するために、錆浦ではあまり見かけませんが、春先には写真のような小さな個体を見ることがあります。
新聞社の取材は比較的冷たい海の中でたいへんでしたが、取材を断らなかったことで、ミスジリュウキュウスズメダイとの出会いがあり、有意義なダイビングとなりました。また、海の中も春になってきたことが魚たちからも感じられました。冷たい水温との別れが近いと思うと、またワクワクしてきます。