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終わりに
体の大きさは直径30~50 cm。腕の数も14~18本。全身に鋭く大きな棘が密生し、しかもこの棘には強力な毒があります。ヒトデは漢字で「海星」とも書きますが、この名前からは想像もつかない奇怪な姿をしています。生態も特異で、時に大量発生して好物のサンゴを食い荒らします。サンゴ礁の海に広く分布していて、昔は一日中泳いでも1尾見られるかどうかの、稀少な生物でした。
ところが、1960年代にはいってから、グアムやサイパン、オーストラリアのグレートバリアリーフなどのサンゴ礁海域で大量発生し、サンゴ礁に大きな被害を与えたのです。その後、1970~1980年代には沖縄本島や八重山諸島のサンゴ礁の90%近くが食害を受け死滅しました。餌となるサンゴがなくなると、沖縄周辺海域のオニヒトデの数は激減しました。ところが、数年前から、再生したサンゴ礁海域でオニヒトデの数が増え、再びサンゴ礁に被害を与えるようになったのです。
オニヒトデの大量発生の原因は、「天敵のホラガイの乱獲」、「航路・港湾工事等による海底の攪乱」、「陸域の開発行為により赤土などの有害物質の流入」など人間活動による環境の変化によるものだとの指摘があります。一方、グレートバリアリーフのサンゴ礁を掘削調査をしたところ、200年以上の周期で大量発生していたという形跡も見つかっています。オニヒトデのメスが一回の産卵で放出する卵の数は1000万個を越えます。成熟した個体ですと、たくさんある腕の中にビッシリと卵や精子が詰まっています。まるで体全体が生殖器のようです。成熟後5年以上は生きますので、この間に生み出される卵の数は膨大な量になります。大量発生の原因は特定されていませんが、環境の変化による卵の生残率のわずかな高まりでも、オニヒトデは大量発生する可能性をもっています。
沖縄周辺海域で大量発生した1970年代には、串本地方でも潮岬西岸でオニヒトデが多く見られ駆除が行われました。この時期、黒潮が潮岬に接近して流れていたため、南の海から卵や浮遊幼生が黒潮に乗って運ばれてきたのです。しかし、1970年代後半から1980年代後半にかけて潮岬沖に冷水塊が発生し、黒潮が遠く離れる状態が続ました。この時冬期の水温は14°C以下になり、オニヒトデ幼生の補給が断たれて姿を消したのです。1990年代になると黒潮は潮岬に接近して流れるようになり、数年前から浅地などの外海に面したダイビングポイントで姿が見られようになりました。一回の潜水で見られる数は多い所で10尾くらいです。餌となるサンゴは岩礁上部の狭い範囲にしか着生していませんので、大食漢のオニヒトデの出現によってサンゴ群集の存続が危ぶまれるようになりました。
串本町内でオニヒトデが見られる場所は双島2の根から島廻にかけての沖合いのダイビングポイントに限定されています。これらのポイントは町内ではサンゴの少ない場所です。不思議なことに、好物のサンゴが高密度に広がる海岸近くの浅所ではほとんど見られません。オニヒトデの進入経路を考えるうえで、興味ある現象だと思います。