屋久島のエコツーリズム

縄文杉登山におけるエコツーリズム

樹齢千年を超えるヤクスギの森林を登山する

荒川登山口方面から小杉谷、楠川分かれ等を経て縄文杉へ向かう歩道のうち、「大株歩道」はトロッコの軌道敷の終点付近を起点として、縄文杉を通り高塚小屋までの歩道の通称です。
その一部は世界遺産地域にも含まれ、縄文杉以外にも、歩道名の由来にもなっているウィルソン株、大王杉など、ヤクスギの著名木が数多く区間沿いに存在するなど、トレッキングを目的とした観光客に非常に人気が高い歩道となっています。

世界遺産登録後、大株歩道の利用者数は急増し、それに伴う歩道周辺への踏み込みや休憩利用により、土壌流出や木の根の露出、植生荒廃の進行、裸地の拡大などが発生し、利用を原因とする自然環境への影響が深刻な状況になりました。併せて、山岳部トイレのオーバーユースによる故障等、施設の維持管理にも課題が発生しました。また、特定の日時に利用が集中し混雑することで、屋久島らしい自然体験ができないなど、利用体験の質の低下も懸念されました。

緑美しい森の中。大きなリュックサックを背負った2名の登山者が、大きなスギの木を見上げています。

現在、縄文杉登山等を目的とした入山者数は2008(平成20)年をピークに減少傾向に転じ、近年は利用の転換期を迎えているといえます。山岳部の自然環境を保全して次世代に継承するとともに、利用者に屋久島らしい質の高い自然体験を提供することを目指して、ビジョンを定め、ゾーニングに基づく施設整備や利用者誘導の方策、サービス等山岳部における利用の推進を図っています。

利用実態

  • 利用者の9割以上が、縄文杉を見るための日帰り登山者。
  • 登山者数は、2008(平成20)年のピーク時は9万人を超えたが、近年は年間約6万人。
  • 12月から2月までのオフシーズンを除き年間を通して一定の利用があり、ゴールデンウィーク等の大型連休では1日で800人程度の利用者が訪れる。

近年の動き

  • 2008年(平成20年):屋久島山岳部保全募金による山岳トイレ(高塚小屋)のし尿の全量搬出が開始。
  • 2009年(平成21年):山岳部におけるし尿量の削減のために、自分のし尿を自分で持ち帰る携帯トイレの取り組みが開始。
  • 2010年(平成22年):自然環境の保全、利用環境の改善のために、屋久杉自然館を発着点とした登山バスの運行による縄文杉荒川登山口車両乗入れ規制がオンシーズン全期間(3~11月)を通して導入開始。
  • 2016年(平成28年)~2021年(令和3年):山岳部の自然環境保全と質の高い利用体験の提供を目指し、「山岳部利用のあり方検討会」が発足。縄文杉ルートの50年後のビジョンを定め、そのための施設整備や利用者誘導方策を検討。
  • 2017年(平成29年):利用者に安心安全な自然体験を提供するためや自然環境の保全のため、世界自然遺産屋久島山岳部環境保全協力金制度を導入開始。

利用により生じた主な変化・問題

1. 自然環境

  • 利用者の増加に伴うすれ違いの多発、休憩利用場所の増加、利用マナー低下による登山道外への踏み込みなどにより、登山道周辺植生の荒廃や裸地化の増進等がみられる。
  • 野外でのトイレ痕なども散見される。

2. 利用環境

  • 特に混雑する日、時間帯においては、縄文杉やウィルソン株を見るために長い行列が見られる等、ヤクスギの森が持つ荘厳な雰囲気が壊れ、快適な利用環境が損なわれている。
  • 上記のような日には、トイレにも長い行列ができ、収容量以上のし尿が溜まることで、悪臭やトイレの故障といった問題も発生。

3. 安全管理

  • メディアでの露出増等の理由から、往復約20kmを歩く縄文杉登山が安易に考えられている場合も多く、軽装登山や体力に見合わない時間設定など、安全意識が低い観光客が増え、事故も頻発するようになってきている。
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