30年後の未来社会を考える

シナリオD

遊住スタイル社会の街で暮らす

ある若者は、大学を卒業した後、日本の街を転々としながらライターの仕事をしている。住所を持たない暮らしにもずいぶん慣れた。マイナンバーで全て管理されているのは心配だが、移動や引っ越しに伴う手続きはほぼないのでメリットも大きい。

今日の午前中は、この街の共同農場で野菜を調達して食べようと思っている。共同農場とは、そのとき住んでいる人が野菜を栽培していくシステムで、農家を自らの家業としてやっている人は、もはやほとんどいない。自給自足と言えば、かつては山奥や離島で営まれるものだったが、今は街なかでみんなが共同で少しずつ自給自足している感じだ。

ネットを見ると、自治体が求人広告を出しているものが多い。住所というものがなくなって、人気のある街とそうでない街の差が激しくなってきた。この街のように、共同農場やスーパーなどの食関連が充実していると若い人が集まりやすいので、どこの自治体も力を入れ始めている。このほかにも、少しでも多くの人に、長く住む街として選んでもらおうと、自治体はさまざまな施策を実施している。

CO2を減らすまちづくりへのアプローチ

市街地への移住を促す社会技術(ソフト)

  • この社会でCO2削減に一石を投じようとすると、個人の排出権を取引できるなど、個人同士のつながりや、外の世界とのつながりを生み出す施策が有効であると考えられる。
  • 定住地を持たないため、さまざまなモノが一元的に管理されるようになり、決済や役所への届け出なども、スマートフォンなどを使って手元で行うようになると考えられる。そうした環境では、CO2排出量の取引をクレジットカードで行う制度や電子マネー化などのデジタル施策が有効と考えられる。

CO2排出を削減する技術(ハード)

  • 人々はライフスタイルに合わせて移り住み、定住による市街地への移住は望めない。ただし、小規模なエリア内で再生可能エネルギーを活用したエネルギー・マネジメントの適応の可能性は考えられる。
  • 交通網については、在宅ワークが進んでいることから、カーシェアリングなどなるべく手軽で効率的なシステムを整備しておき、移住してくる住民の利用を促進することが重要なポイントになると考えられる。

遊住スタイル社会における社会技術の影響評価

この社会では、人々は自らの嗜好を優先するため、強制力の強いゾーニング(直接規制)は受け入れられにくい。そもそも定住しようという意思が希薄なため、規制緩和による都市機能集積(誘引)は効果を発揮しにくい。自由な価値観が支配的な社会であるため、行政スローガンへの関心は低く、国民的啓発運動は普及しない。地域社会に縛られずに住みたいという人々が多いため、協議会を設置して環境整備を図っても効果を上げることは難しい 。

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