2050年のニッポンの姿 Ⅱ
世界が注目するポートランドのまちづくり
アメリカ北西部にあるオレゴン州ポートランドは、雑誌の調査で「米国で最も住みたい街」に選ばれたこともある人口60万人ほどの都市です。その人気ぶりは健在で、現在も若者を中心に人口が週当たり300人前後のペースで増えています。森林地帯を背後に抱える土地柄、かつては農林業が産業の中心で、その後重工業が栄えましたが、最近はハイテク産業の集積地として注目されています。カリフォルニア州の「シリコンバレー」に対して、「シリコンフォレスト」と呼ばれる一帯が広がっています。
ここ20年ほどのポートランドの経済成長は目覚ましく、域内総生産(GDP)が4倍にも増えました。これで人口増加も著しいとなれば、環境への負荷もさぞ大きくなっていると予想されますが、実際にはポートランドのCO2排出量は20年間で約11%減少しています。同じ期間、アメリカ全体のCO2排出量は7%増加しているので、いかにポートランドの削減量が大きいかが分かります。
今でこそ、全米、そして世界から、都市計画や再開発のモデルとして注目を集めているポートランドですが、1970年代は経済不況のただなかにあり、汚い街と言われていました。下の左の写真は当時の様子ですが、街の中は倉庫や駐車場が多く荒廃しています。歩いている人の姿は見当たりません。右の写真は現在の様子ですが、多くの人々が集う明るい雰囲気で、左の写真とは対照的な光景です。このように生まれ変わることができたのは、40年以上続けて来た地道なまちづくりによるものと言われます。
40年前のポートランド市街地
現在の市街地
都市成長境界線を導入してコンパクト化を推進
1978年、ポートランドは、「都市成長境界線(Urban Growth Boundary;UGB)」を定め、「都市化可能地域」を限定します。これは都市の「成長管理」という考え方に基づくもので、境界線の外側は商業施設や住宅などの開発を制限したのです。こうすることで郊外で生活する市民が減り、市の中心部に集まって住むようになるため、公共サービスや都市機能を集約できると考えたのです。路面電車を中心とする公共交通網を整備し、倉庫街を再開発して高層マンションなどを建設しました。また、境界線の外では豊かな自然を生かして農業が盛んに行われ、農家は都市に住む人々に新鮮な農産物を供給しています。
都市再生のきっかけとして語られているのは、32歳という若いポートランド市長の誕生です。この市長は公共交通の整備と中心部の再生に力を入れ、路線バス以外の一般車の乗り入れを禁じた歩行者専用の商店街を整備しました。また、連邦政府がポートランドの中央を横断する高速道路の拡張計画を打ち出しますが、市民は環境破壊につながるとして建設反対運動を起こします。市長はこうした市民の声を受け、計画を中止に追い込みました。
都市計画を担うのは、「PDC(Portland Development Commission)」と呼ばれる市の組織です。PDCは、政府からの補助金や金融機関からの借り入れとは別に、債券発行を通じて独自に資金を調達し、基盤整備の財源に充ててきました。この債券は「TIF(Tax Increment Financing)」(租税増収財源債)と呼ばれ、ポートランドの発展の原動力になってきました。
その仕組みは、下の図に示した通りです。償還原資には日本の固定資産税に当たる税の増収分を充てるのが特徴です。基盤整備を進め、民間開発を呼び込めば、その地区では資産価値が上がります。それによって税収増が見込まれる点を活用しているわけです。
「TIF(Tax Increment Financing)」の仕組み
PDCが基盤整備を実施する開発地内での固定資産税の増収見込みを裏付けに債券を発行し、整備資金を調達する。
資料提供:日経BPクリーンテック研究所