低炭素社会実現に向けた政策を探る
パネル討論社会変革は小さな施策の集大成
未来は対話から生まれる
<パネリスト>
元欧州委員会科学技術アドバイザー マイケル・ロジャース氏
ShiftN, Partner フィリップ・バンデンブルック氏
国立環境研究所 社会環境システム研究センター長 藤田 壮氏
東京大学 公共政策大学院 客員教授 角和 昌浩 氏
<モデレーター>
東京大学政策ビジョン研究センター教授 谷口 武俊氏
シンポジウムの最後に、ロジャース氏、バンデンブルック氏、藤田氏、角和氏の4人の講演者によるパネル討論が行われました。モデレーターは、東京大学政策ビジョン研究センター教授の谷口武俊氏が務めました。
パネル討論ではまず、社会シナリオの活用について意見が交わされました。ここで口火を切ったのは、バンデンブルック氏。「シナリオを活用する上で大事なのは、目標をしっかりと認識すること。探求的シナリオ手法を採用する時は、自由な意見交換を通じて新たな解決法を創造することが狙い。見つかった解決法を、シナリオで描いた未来世界の中に取り込み、シナリオの中身を豊かにすることが必要である。一方、規範的なシナリオでは、将来のあるべき姿をまずしっかりとイメージすることが必要だ」と語りました。

角和氏は、参加型のTAにおいて、シナリオが対話を促すための重要な道具になることを改めて強調しました。「今回のシナリオ作成の試みは、市民対話のツールに使えるのではないかという実験だ。未来を想像するときは、専門的で詳細な知見を展開するだけでなく、全体像をいきいきと語ることも必要と考えている。集住にいろいろな意見があるなかで、共通理解を深めてコミュニケーションの舞台を作ることがシナリオの役割だろう」。
パネル討論のテーマは、現行の社会制度や仕組みの課題に移ります。ここでロジャース氏は、欧州での経験をもとに、日本に向けたアドバイスを送りました。
「大きな社会変革も、実は小さな決定の積み重ねであり、集大成であると認識すべきだろう。低炭素社会に向けてのシナリオも不動のものではなく、常に状況を見直し、変えていく必要がある。例えば、自然エネルギーを導入するという政策が決まった場合、当初風力発電から始め、もし不足や欠点が見つかったとしたら別の方法を取り入れればよい。日本は今、変革のただなかにある。昨年のCOP21を契機として再び社会を活性化するチャンスが到来していると考えるべきだろう」。

藤田氏は、社会転換が必要という視点から次のように語りました。「今後、低炭素社会へ移行するには化石燃料を放棄しなければならず、生産プロセスを変える必要がある。政府が主導するトップダウンな手法と、社会からのボトムアップな手法とがうまくリンクし、社会転換をもたらすという期待がある。そのためには、シナリオを活用し、多くの市民がTAに参加し議論することで、よりよい将来を導くことが大切だ」。
さらに藤田氏は、参加型TAを普及させる鍵についても言及しました。「まず、きちんとした情報を提供すること。地球温暖化の問題は、生活にどう関連しているかが分かりにくいため、人ごとになってしまっているところがある。身近な問題に引き当てて考えられるように、うまく情報提供することが国や企業の責務だろう。もう一つは、双方向のコミュニケーションデザインを作ること。人によっては、参加型のTAの会場では黙っていても、SNS では同じ人とは思えないほど発言している。IT技術を使うことで、日本的な双方向のコミュニケーションデザインを工夫できないかと考えている」。
低炭素社会実現に向けた政策のあり方とTAの普及に向けた多くの示唆を提示し、シンポジウムは終了しました。