低炭素社会実現に向けた政策を探る
基調講演市民参加型のTAを活用して温暖化問題の議論を深めるべき元欧州委員会科学技術アドバイザー マイケル・ロジャース 氏
基調講演には、数々の技術導入プロジェクトにおいてTAを実践してきた経験を持つ、元欧州委員会科学技術アドバイザーのマイケル・ロジャース氏が登壇しました。同氏によれば、かつてのTAは専門家が主導するやり方が主流でしたが、今後はさまざまな関係者が参加して多面的に評価する「市民参加型のTA」が主流になるといいます。
「かつてのTAは、まず技術の専門家が方策を提供し、それを政策担当者が採択してプロジェクトを実施してきた。一般の市民は、それがうまくいっていると信じて受け入れていた。ところが、近年になってさまざまな問題が表面化し、従来のやり方が通用しなくなりつつある」と、ロジャース氏は指摘します。例えば、原子力発電所の事故や、遺伝子組み換え作物の問題などによって、専門家に対する社会の信頼は大きく揺らぎました。
専門家に対する社会の信頼は揺らいでいる
社会は専門家が提示する論拠を信頼していない
例えば、次の政策に対する世論はどうだろうか?

原子力

遺伝子組み換え作物

道路行政
参加型TAでよい成果を導き出すには、適切なプロセスで実施されることが必要
ロジャース氏は、技術導入プロジェクトにおいて市民がなるべく早い段階から議論に加わることが大切であり、TAを正しく実施する際にはいくつかの基準があると主張します。すなわち、TAの参加者に議論するだけの能力があるか、本当に市民を代表しているか(年齢、学歴、収入などバランスが取れているか)、発言の機会は平等か、議決のプロセスは透明かといったことを点検する必要があります。
次にロジャース氏は、欧州で成功したTAについて紹介しました。それは、ドイツのシュバルツバルト(黒い森)北部のゴミ焼却施設の建設に関わるプロジェクトです。「ゴミ焼却施設は必要だが、私の家の近くは困る」という問題はどの国にでも見られます。そこで市民参加型のTAを企画し、このプロジェクトの関係者5000人を招請したところ、200人が参加しました。
TAでは、地方行政の専門家を含む大学関係者でチームを構成して臨みました。リスク研究分野で国際的に著名な教授がモデレーターを務め、市民の意見をうまく引き出しながら討論を進めていきました。その結果、当初想定した通りの場所と期間に、ゴミ焼却施設を建設することができたのです。
「地球温暖化への対応はとても重要な問題で、専門家や政策立案者にすべてを任せるという従来のやり方は通用しない。市民を巻き込みながら、温暖化の防止技術の議論を進めていく必要があるだろう」。ロジャース氏は最後にこのように提言しました。