コンパクトなまちづくりを支える技術とTA

テクノロジーアセスメント(TA)とは?

テクノロジーアセスメント(以下、TA)とは、社会にとって望ましい科学技術の方向性を見い出すため、科学技術が社会に与える影響を評価する活動のことです。TAを行うことによって、科学技術の発展がもたらす社会的、政策的な課題が明確になり、それを分析することで、技術イノベーション戦略の立案や、社会システムの設計などを支援できます。また、新しい技術を導入するときには、しばしば社会に利益と不利益とを同時にもたらしますが、TAはコミュニケーション・ツールとして、利害関係者の交流を促したり、相互理解を深めたりする役割が期待できます。

米国では、1970 年代に連邦議会の立法補佐機関として「技術評価局(OTA)」が設置されました。OTAは、議会活動のために必要となる科学技術課題の評価と分析を行い、複数の政策オプションを提供するという「議会TA」の原型をつくりました。1986年にはOTAが作成したTA報告書が、政策面で重要な役割を果たしています。それは有害物質の輸送に関するもので、有害物質輸送車の運転手は特別の証明書を保持すべき、非常時の対応について学ぶべきといった政策提言がTA報告書に盛り込まれました。議会はこれを受けて討議を行い、法律の条項に提言とほぼ同じ内容が付け加えられたのです。その後、OTAは1995年に、経費削減を主眼とする議会改革の流れの中で廃止されました。

市民参加型のTAが盛んな欧州

一方、欧州では、1980年代に経済の停滞から脱する方策としての科学技術への期待が高まり、議会TA機関が相次いで設立されました。イギリスやデンマーク、オランダ、ドイツなど多くの国々で活動が行われています。OTAに比べて予算も組織も小規模ですが、ネットワーク(EPTA)を活用して効果的な活動を実施しています。市民参加型のTAも進んでおり、バイオテクノロジーによる植物の栽培や、動物を対象にした遺伝子組み換えなどをテーマに、市民と専門家との対話集会が開かれています。先端科学に対する市民の理解を得るために、市民が自由に意見を言ったり、専門家と質疑応答ができる場を設けています。

最近、注目を集めているのが「世界市民会議World Wide Views」の活動です。これは、デンマークのTA機関であるDBT(Danish Board of Technology/デンマーク技術委員会)の呼びかけで2009年に始まった取り組みで、地球温暖化や生物多様性の保全という地球規模の課題を解決するため、国際交渉の場に世界市民の声を届ける活動を行っています。

2015年には「気候変動とエネルギー」をテーマに、日本を含む世界76カ国・97カ所で一斉に会議が開かれました。世界で約1万人の一般市民が参加し、気候変動が私たちの生活にもたらす影響や、温室効果ガスの排出削減のために取り組むべき対策などについて話し合いました。その結果は、同年12月にパリで開催された気候変動枠組条約締約国会議(COP21)に提出され、国際的な政策形成に求められる情報として役立っています。

世界市民会議「気候変動とエネルギー」日本会議の会場風景

世界市民会議「気候変動とエネルギー」日本会議の会場風景
世界市民会議「気候変動とエネルギー」日本会議の会場風景
世界市民会議「気候変動とエネルギー」日本会議の会場風景

写真提供:国立研究開発法人 科学技術振興機構

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