2050年のニッポンの姿 Ⅱ

住宅とオフィスを集約してエネルギー効率を高める

CO2排出量の大幅削減という環境面での貢献はどのように実現したのでしょうか。

まず、脱クルマ社会を指向したことが1つめのポイントです。市街地の中を20分も歩けばすべての用事が済ませられるほどコンパクトにできているため、まちなかの移動は自動車に頼らずに済みます。市民の足としては、路面電車や路線バス、それに自転車が活躍しています。これら公共交通は中心部の一定区域に限って無料で、自転車ごと乗り降りすることも認められています。歩道や車道の幅員など街並みはヒューマンスケールを意識し、とても落ち着いた雰囲気です。

環境への貢献の2つめのポイントは、「集住」そして「複合用途」です。ポートランドの市街地では、複合用途すなわち住宅、店舗、オフィスなど多様な用途をあえて1つの建物の中に混在させるルールを定めています。そうすれば、朝晩は住宅のエネルギー使用量が大きく、昼間はオフィスのエネルギー使用量が増えるというように、建物全体としてのエネルギー負荷が平準化されます。余剰のエネルギーを無駄のないようにやりくりすることもできるので、都市全体としてエネルギー効率が大きく向上したというわけです。

低炭素なまちづくりのポイントは、成長管理、脱クルマ、複合用途といった、コンパクトシティの考え方と重なる部分が多くありそうです。

ポートランドの中心部と郊外を結ぶ路面電車。中心部ではこのほか、まちなかだけを走る「ストリートカー」と呼ばれる路面電車や、バスを利用できる。一定区域内は無料。

ポートランドの中心部と郊外を結ぶ路面電車。中心部ではこのほか、まちなかだけを走る「ストリートカー」と呼ばれる路面電車や、バスを利用できる。一定区域内は無料。

歩道や車道はヒューマンスケール。歩道は建物側の領域、本来の歩道、車道側の領域の3つに分かれる。街路樹やごみ箱は車道側の領域に整備する。

歩道や車道はヒューマンスケール。歩道は建物側の領域、本来の歩道、車道側の領域の3つに分かれる。街路樹やごみ箱は車道側の領域に整備する。

トム・マッコール・ウォーターフロントパーク。1970年代、河川沿いで拡張される計画の高速道路を取り壊して整備した。「トム・マッコール」は市民の声を受けて整備に尽力した当時のオレゴン州知事の名前

トム・マッコール・ウォーターフロントパーク。1970年代、河川沿いで拡張される計画の高速道路を取り壊して整備した。「トム・マッコール」は市民の声を受けて整備に尽力した当時のオレゴン州知事の名前

市民の声を形にしていくまちづくり

コンパクトシティの先進例として紹介されることが多いポートランドですが、これほどまでに人気のある都市になったのは、別のもっと重要な理由があるからです。それは半世紀近くもの年月をかけて築き上げられたものなのです。

ポートランドのまちづくりを支えているのは、市民の参加意識の高さとその声を反映させる仕組みにあります。市民がこうありたいと望む声を地道に拾い上げ、形にしていくというまちづくりを40年の間積み上げてきた結果なのです。

市民の声をまとめ上げるのは、「Neighborhood Association(ネイバーフッド・アソシエーション)」と呼ばれる市内の各地域で活動するNPOとその連合体です。市はその声を受け止める担当部署を設置し、連合体から上がってきた提案から適切なものを選び、予算を付けて実施しています(下図)。

市民の声を吸い上げる仕組みとして活用する
「Neighborhood Association」の体制

市民の声を吸い上げる仕組みとして活用する「Neighborhood Association」の体制の図。図の内容は下記に記載。

Neighborhood Associationの構成メンバーは組織ではなく、その地域の居住者、就労者、土地所有者などの「個人」。Neighborhood Associationが集まって地域ごとに連合体をつくり、市の担当部局とやり取りする。

資料提供:スマートシティ企画

Neighborhood Associationの構成メンバーは組織ではなく、個人。しかも、居住者だけでなく、就労者や土地所有者も含まれます。「都市計画や交通計画、建物および空間のデザインレビュー」「生活環境のアメニティを保つための具体的活動」など様々な担当業務があります。

ポートランドのまちづくりを支えているのは、この街を良くしたいと考えている一人ひとりの市民と言えます。住む人の目線で、住む人が主役になって楽しみながらまちづくりを行っているからこそ、外部の人を引き付ける魅力的な街になったのかもしれません。

取材協力:石田建一氏

積水ハウス 執行役員 環境推進部長 兼 温暖化防止研究所長。次世代環境都市(スマートシティ)の実現・普及を目指すジョイントベンチャー、スマートシティ企画の社長も務める。2015年11月にポートランド市を訪問し、市開発局(PDC)担当者へのヒアリングや、再開発に成功した中心市街地ほかの視察、都市計画コンサルタントとの討議などをもとに、ポートランドのまちづくりに関する報告書を作成した。

本節は、石田氏による報告書と同氏への取材をもとにまとめたものです。

ページ先頭へ▲