釜石市の森林資源
東日本大震災から11年目を迎える岩手県釜石市では少子高齢化や人口減少、経済の縮小などの課題の解決が急務となっています。一般社団法人「ゴジョる」は、森林や地域の人財という今まで未利用であった「お宝」を活用し、多様な人々の豊かさの向上を目的に、高齢者や未就業者の社会参加の場づくりを通じて、「サステナブルなまちづくり」に取り組んでいます。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
釜石の高齢者や未就業者のために、生きがいの場を提供!!
岩手県釜石市箱崎町にある薪の加工場
鉄と魚、そしてラグビーのまち、釜石市は、三陸海岸のほぼ中央に位置し、美しい山並みに囲まれた岩手県を南北に縦断する街です。太平洋に面し、温暖で自然が豊かな環境が広がっています。一般的に海の町として知られていますが、実際にはその面積の95%が山林に覆われ、鉄鉱石の最大の生産地であり、「日本の近代製鉄発祥の地」としても名高いです。 1960年代には鉄鋼業が盛んだったこともあり、市の人口は9万人を超えていました。しかし、その後に減少傾向が続き、2023年11月末時点で人口は3万人を下回りました。東日本大震災の被災地であることも影響し、人口流出と少子高齢化が著しく進行しています。
一般社団法人 ゴジョるは、そんな釜石市で高齢者や未就業者など福祉領域の支援対象者に向けて、生きがいを提供することを目的として活動しています。それは、釜石市社会福祉協議会、釜石地方森林組合との協力により展開している薪づくり事業です。
薪の販売
2017年に事業を開始し、現在は市内で約48名の登録者があり、毎日作業を行っています。月80~90トンの大ロットで薪の生産・加工を行い、東北6県の日用品大手小売チェーンに納品するまでとなり、年間売り上げは、薪だけで2,000万円を超える成果を上げています。
さらに、ゴジョるは、市内で山林所有者や自伐型林業家と連携して豊かな森づくりを行い、漁業者とも協力して海藻類の加工などを手がけています。
社名のゴジョるというのは釜石市の方言ではありません。「新しいお互いの助け合い、互助を作る」を省略化したものです。 その活動のミッションは、地場産業と連携し、高齢者などの就労支援による地域の活性化と所得向上を目的にしています。
活動のきっかけは?
高齢者の雇用をどうする?
手探りではじめた薪づくり事業!
ゴジョる 菊池隼代表と市福祉協議会の菊池亮氏
今回、釜石市を訪ね、ゴジョる 代表理事の菊池 隼(きくち じゅん)氏と薪づくり事業で連携する釜石市社会福祉協議会の菊池亮(きくち りょう)氏同席のもと、お話を伺いました。
活動のきっかけを語る菊池代表
菊池代表は、東日本大震災の災害ボランティアとして活動し、その経験から福祉に興味を持ちました。彼は震災当時、瓦礫処理などに参加し、ボランティア活動の後は震災後の新しいコミュニティ形成支援に参加。例えば、釜石市でファーム事業を始め、地域の人々と交流しながら課題を共有し、仲間づくりなどをサポートしていました。
その後、福祉分野での活動を本格化させる中で、2013年に行われた岩手県社会福祉協議会の被災者アンケート調査が転機となりました。この調査によれば、近い将来、生活が困難になると感じる中高年世代が約60%もいたことに菊池代表は衝撃を受けます。当時、釜石市では「生活困窮者」という言葉が一般的になっていたのです。
菊池代表は当時を振り返ります。「生まれ故郷を離れる選択肢もあるかもしれませんが、多くの人が釜石での生活を続けることを望んでいました。関係各所に話を聞いた結果、高齢者の生活支援や収入の確保に木材関連の仕事が適しているのではないかというアイデアを得たのです。」
薪づくりの現場
しかし、薪づくり事業は順調に進まなかったそうです。菊池代表は、「木材に関する知識がなく、お互いに手探りで仕事を進める形でした。仕事に困っている高齢者に声をかけても、各人のスキルやできることがわかりませんでした。それでも当時、薪ストーブの需要が高まっていたので、釜石市内でも薪を流通・販売しようと活動を始めました。森林組合などと協議し、福祉のための仕事ならと釜石の森から木材を調達できるようになりました。」と話します。
関係各所にヒアリングをして薪の需要に気づいたことで、市福祉協議会、森林組合などと連携して事業が本格的に進展していったのです。
成功のポイントは?
助けいあいの精神と人間力で
関係者のネットワークづくり!
菊池代表の人間力を評価する市福祉協議会・菊池氏
ゴジョるの成功について、災害ボランティアの頃から付き合いのある市福祉協議会の菊池亮氏に尋ねました。「成功の秘訣は、やはり代表の人柄が大きいですね。人間力が光っています。震災で出会ったものの、ボランティアセンターの業務だけで終わらず、相談支援やコミュニティづくりなど、その取り組みが着実に進化していくのです。彼は僕と協力して対応していますが、そのスキルの幅広さやパワーを活かして、地域づくりや町おこしの経験を共有できました。」と語ってくれました。
成功の秘訣を語る菊池代表
菊池代表の人間力について、あるエピソードがあります。薪づくり事業の拡大に伴い、生産する薪のロットも増加します。初めは地元の森林組合から融通してもらう間伐材や製材から発生する未利用の廃材などを活用していたそうですが、木材の供給が不足してきました。そのため、菊池代表は、小規模な山を所有している地主に直談判をして、木材の提供を協力してもらうことになったそうです。
菊池代表は、「事業を立ち上げた当初は、正直に言って、環境問題についてそれほど深く考えていませんでした。しかし、山を所有する地主さんとお話しをさせていただいた際、そこにある木が完全に放置されており、実際には問題があることが分かりました。」と振り返ります。
そこでゴジョるは、その山にある木を伐採して、薪の製造に活用することを決断。森林を整備することで、地主も得になって地域も活気づくというわけです。
自らフォークリフトを操作する菊池代表
そして菊池代表は、「間伐した後の土壌に新しい木を植えることで、木のCO2吸収量も向上し、事業の持続可能性にも寄与します。第一に、木材を遠くから燃料として調達するよりも、それは無駄なお金の出費になりますよね。結局のところ、地元には実に貴重なお宝資源があったのです。効率的に事業を進めるためには、地域の資源を徹底的に活用することが重要であり、それが実は環境にもよい取組になっていました。」と話します。
薪の加工場や森林での伐採の現場などを視察
今後の展望
プロジェクトが目指している事、今後やりたい事
釜石市の箱崎漁港を背にする菊池代表
菊池代表に、環境大臣賞を受賞したメリットについて聞くと、「実はゴジョるは、岩手県内ではあまり知られていませんでした。しかし、受賞をきっかけに各マスコミに取り上げられ、私たちの連携や協働について多くの方に知ってもらえるようになりました。これは、釜石市の福祉と環境にも注目が集まることを意味しています。もちろん、役所の対応も以前よりスムーズになりました。」と笑顔で話します。
将来の構想を語る菊池代表
そして、次のチャレンジについて菊池代表は、「釜石の海で知られる海藻類は、まだまだ製造と販売を増やせる可能性がありますが、漁港でワカメをボイルするために使用される重油の価格が高いのが課題です。そこで、マイクロバイオマスを導入し、近隣の里山整備で排出される木材を活用して、発電ではなく熱利用を核としてワカメをボイルできないかと考えています。これにより、コストの削減だけでなく、環境にも優しい手法が実現できるのではないかと思っています。」と熱く語ります。
さらに菊池代表は、「ゴジョるという不思議な言葉が、お互いを助け合う活動の動詞になればいいと思っています。 “今日ちょっとゴジョるに行かない!”などと使われて、多くの人々が動き出す未来を想像しながら、これからも活動を続けていきたいと思っております。」と夢を膨らませていました。