岐阜県岐阜市の株式会社サンウエスパは、紙くずからバイオエタノールを製造する技術を用い、カンボジアにある東南アジア最大の湖「トンレサップ湖」に異常繁殖する侵略的外来種である水草「ホテイアオイ」からクラフトジンの製品化に成功し、バイオエタノールによる再生可能エネルギーの事業化に取り組んでいます。

*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。

どんな活動？

カンボジアで異常繁殖する水草からバイオエタノールをつくる技術を活用しクラフトジンの製品化に成功

100万人の水上生活者が暮らすというカンボジア トンレサップ湖
（※サンウエスパ HP スペシャルコンテンツより）

金魚の水槽などに浮かべるホテイアオイは南米原産の水草で、7ヶ月で200万倍に増えることが報告されており、世界中の熱帯から温帯地域にかけて異常繁殖しています。 東南アジア最大の湖であるカンボジアのトンレサップ湖は水上に浮かぶフローティングハウスが連なる水上生活の村があることでも知られていますが、この湖でホテイアオイが大繁殖し、人々の生活や生物多様性に負の影響がもたらされています。 株式会社サンウエスパが製造する、バイオエタノールは植物の細胞壁を構成するセルロースを糖化発酵するもので、従来の穀物由来（小麦、サトウキビなど）とは異なり、食料とは競合しません。 そればかりか、廃棄物を含むあらゆる植物を原料とすることができ、それがホテイアオイでも同様に可能だったのです。

カンボジア トンレサップ湖 群生するホテイアオイ

そこで、サンウエスパは、トンレサップ湖で大量に発生する水草などの未利用バイオマスを原料としてバイオエタノールを生産するプラントを日本大使館とカンボジア州政府との共同事業により、2022年7月に開始しました。

同時にカンボジア工科大学との共同研究も進め、カーボンニュートラルな地域分散型エネルギーの普及を目指しています。また、プノンペンでホテイアオイから抽出したエタノールを原料とする「クラフトジン」を2022年6月に製品化に成功、7月より日本国内でも販売しています。

活動のきっかけは？

環境課題のソリューションと経済活動を両立

岐阜市 株式会社サンウエスパ

サンウエスパ（SUN＋WASTE PAPER）は、岐阜県岐阜市にある再生資源卸売業の企業です。家庭や企業、地域団体から排出される新聞やダンボールなどの古紙を回収し、品目別に国内外の製紙メーカーのニーズに合わせて製紙原料として供給。地域団体と協力しながら、古着やアルミ缶などの資源ごみも回収しています。2016年からは、古紙からバイオエタノールを製造し、エネルギーとしてリサイクルするという実証事業を手掛けています。

環境省大臣官房地域政策課 近松将和担当 グッドライフアワード大葉ナナコ実行委員
株式会社サンウエスパ 原有匡代表取締役 環境省 同課 野杁拓担当

今回、グッドライフアワード実行委員 大葉ナナコ氏（一般社団法人Design of Your Life代表理事）、環境省の2名と共にサンウエスパの本社を訪れ、代表取締役の原有匡（はら ともただ）氏にインタビューをおこないました。

株式会社サンウエスパ代表取締役 原有匡氏

原氏の前職は、世界を放浪した経験を活かして、古美術品のディーラーというユニークな経歴の持ち主。そのビジョンは、カンボジアのトンレサップ湖で無尽蔵に増える水草ホテイアオイからカーボンニュートラルなエネルギーとクラフトジンを作ることです。

トンレサップ湖 ホテイアオイを収穫する少年

取組のきっかけについて原氏は、「サンウエスパは、JICA（独立行政法人国際協力機構）の採択を受け、カンボジアに乗り出しました。 その調査を通じて明らかになったのは収益化が困難という課題です。 そこで、厄介者のホテイアオイからバイオエタノールを製造し、それを水上生活者のボート燃料とするなど、地域分散型エネルギーの普及を目指す取組を持続可能とするための、収益事業模索したのです。」と語ります。

2022年にカンボジアのコンポンチュナン州で日本大使館と州政府との共同プロジェクトで進めたバイオエタノールプラントが稼働。ホテイアオイの被害が大きかった同州で水上生活者に回収を委託し、彼らの生活向上を図っています。 廃棄されるカシューナッツの果実も副原料としています。 また、エタノール製造においてカンボジア工科大学との共同研究を行い、エタノールの残渣からメタン発酵を行い、そのバイオガスは管理人家族のガスを賄っています。

カンボジアでの実証事業を語る原氏

一方、クラフトジンの製造について原氏は、「エタノールの付加価値は飲料用とすることで、燃料用の100倍以上にもなります。 それにカンボジアの特産品である胡椒などのスパイスを加え、高品質な『クラフトジン』を蒸留します。 そして、スパイス農園ではエタノール残渣を堆肥として用いていく計画です。 」と明かします。

さらに原氏は、「日本で不要となった農機具を輸入し、エタノールを燃料として走らせます。 こうして造られたジンやスパイスは、プノンペンのBARやD2C（製造者がダイレクトに消費者と取引）によって,ボーダレスに発信して行きます。 これらの構想を実現すべく、2020年にカンボジアに子会社を立ち上げたのです。」と、これまでの経緯を語ってくれました。

このオリジナルブランドのジン製造は、環境課題のソリューションと経済活動を両立させるためのものです。品質にこだわることは当然ながら、循環経済やSDGsへの貢献もボトルや缶に詰め込んで商品を提供していくわけです。

成功のポイントは？

カンボジア産のクラフトジン「MAWSIM GIN」事業がスタート!

オリジナルブランド MAWSIM GIN

いま、ホテイアオイのエタノールでは、6つの研究テーマが同時進行しています。 また、クラフトジン製造においては、オリジナルブランド「MAWSIM（マウシム）が立ち上がりました。

MAWSIMは、アラビア語で「季節」を意味する言葉であり、「モンスーン」の語源です。この言葉は、大航海時代にスパイスを探して航海した多くの帆船を運んでくれた風や、長崎の鎖国時代にオランダのジンを届けた風にちなんで名付けられたものです。

現地子会社を立ち上げて以来、地産のオーガニックスパイスやフルーツをふんだんに用いたクラフトジンのレシピ開発。蒸留実験を続けて製品化に成功しました。

首都プノンペンにオープンした蒸留所にはテイスティングバーも併設しており、MAWSIMの情報発信基地として好評を博しています。

そして日本においては自社サイトによるEC販売が本格的にスタート。 ショップサイトでは製品を販売するためだけでなく、その世界観の発信をおこなっています。 ブランド価値を維持するために生活者への直接販売にこだわっており、データ分析やSNSを活用したマーケティングを展開しています。

原氏が紹介するMAWSIM GINとカンボジアの古美術

それにしても、バイオエタノールをジンにする発想はどこからきたのでしょうかと原氏に聞くと、「ジンというお酒は製法の自由度が高く、ベース・スピッツやニュートラル・スピリッツなど最初に何らかのお酒が必要です。ウォッカで作る人もいれば日本だと焼酎でつくる人もいます。 で、我々の場合はバイオエタノールだったのです。 」と説明してくれました。

ジン製造では、「ボタニカル」と言われる原料を使用して香り付けを行います。香り付けに必須なボタニカルがジュニパーベリーです。 このジュニパーベリーは西洋ネズという針葉樹の果実で、これと他のボタニカルをどう配合するかが、ジン作りの決め手となるそうです。MAWSIM GINは、すべてカンボジア由来のものを使用しています。

いま、ジンは世界的に人気があり、本場のイギリスではウイスキーの市場を抜いています。ちなみにMAWSIM GINのアルコール度数は43%です。 取材後、イギリス・ロンドンで開催された世界最高峰のジン品評会「World Gin Awards 2023」において、カンボジア産のクラフトジンブランド「MAWSIM」の「TROPICAL CITRUS」がアジア圏初となる「WORLD’S BEST」を受賞しました。おめでとうございます。

今後の展望

プロジェクトが目指している事、今後やりたい事

原氏と大葉実行委員

サンウエスパの原氏は、今後の展望についてこう語ります。 「今後の展望としては、バイオエタノールを再生可能エネルギーとして活用していくことへの挑戦を続けていきたいと思っています。 そして、このビジネスモデルは、いくつかの似たような開発課題を抱えている国で水平展開が可能だと思っています。ラオスとかバングラデシュとかスリランカみたいなところですね。同じように地域の開発課題を解決しながら、その副産物として、その地域のボタニカルを使ったジンを作っていくっていうことは面白そうだと思っています。」

さらに、「このビジネスモデルは、多くの国や地域への汎用性が期待できます。 ホテイアオイの分布エリアの大半は、高い経済成長率を誇る一方、多くの開発課題を抱えており、しかもエキゾチックなスパイスの宝庫です。そういう「点」での水平展開をして、それぞれの地域の開発課題解決にも貢献できたらいいなと思っています。」と期待に胸を膨らませていました。

原氏をインタビューする大葉実行委員

グッドライフアワードの実行委員である大葉氏は、日本酒造りなどに触れたことでお酒が好きになり、サスティナブルな商品を紹介する展示会で出会った「MAWSIM GIN」に魅了された経験があるそうです。

原氏へのインタビューを通じて大葉氏は、「サンウエスパは、開発課題を抱える国や地域の背景などを前面に押し出さないで、商品を作っているところが素晴らしいと思います。職人気質でグローバルな展開をされて、未来への希望を強く感じました。これからサスティナブルな事業を展開していこうと思っている方々もぜひ参考にしてほしいと思います。」と語ってくれました。