大阪府能勢町は、地元の大阪府立豊中高校 能勢分校と地域人材の育成に向けてパートナーシップを構築し、エネルギーを軸としたまちづくりを目指しています。 地域新電力会社設立に当たっては、高校生が町長と共にドイツを訪れ、電力供給を行う地域公社などを視察しました。町の政策形成への参画や学習を通じて、若者が地域の問題を自分事として考えるという先進的な取組を進めています。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
高校生の提案で地域新電力会社を設立!エネルギーを軸に自然豊かな里山で魅力的なまちづくり
能勢分校に設置された太陽光パネル
能勢町は、大阪府の最北端にあり兵庫県、京都府との結節点に位置しています。町のキャッチフレーズも「おおさかの てっぺん のせ」です。人口は9,235人(※2023年1月末現在)。府下で最も人口減少の割合が高く、2050年には生産年齢人口が約8割減少することが想定され、地域の創り手の確保が課題となっています。
一方、特産品の栗栽培を通じて、生物多様性の環境が守られ、環境省の「生物多様性保全上重要な里地里山」に選出。豊かな自然環境を次世代に継承するため、2021年に「2050年カーボンゼロ」を表明しました。また、エネルギーを軸としたまちづくりにより、2021年度SDGs未来都市にも選定されています。
その能勢町において、“エネルギー循環のまちづくり”の核となっているのが、大阪府立豊中高校 能勢分校です。
能勢分校は、人口減少が進む大阪府豊能郡内で唯一存続する高校で、全校生徒は77名(※2023年4月現在)。ユネスコスクールの認定や過去にはスーパーグローバルハイスクール(SGH)の指定を受けるなど、グローバルかつ地域の創り手となる人材の育成に力を入れています。
そんな能勢分校の生徒は、地域新電力についての見聞を深めるため、町長と共に環境先進国であるドイツを訪問。高校生の環境や地域エネルギーの研究提案が活かされ、2020年7月に地域新電力会社「株式会社 能勢・豊能まちづくり」が設立されたのです。同社では地域内でエネルギー・資金・経済・情報が循環する持続可能なまちづくりの実現に向けての活動を行っています。
E-Bikeプロジェクト
能勢分校では、地域新電力会社の設立と同時に「地域魅力化クラブ」が誕生しました。「魅力のある地域には、魅力のある学校がある。魅力のある学校には、魅力のある生徒がいる。 」 をモットーに活動を展開。能勢分校生の交通(通学)課題を解決するため、電動アシスト付き自転車、通称「E-bike」の導入を推進する取組などに関わっています。
2022年9月には、能勢分校において、「地域魅力化クラブ」メンバーと「能勢・豊能まちづくり」などが協力し、学校の統合に伴って閉校した旧町立東中学校にあった太陽光パネルを再利用するワークショップが実施されました。
これは、生徒が通学時に使用するE-bikeの充電を太陽光発電設備の電力から賄うのが目的で、「能勢・豊能まちづくり」の担当者から、太陽光発電の仕組みや設置方法などの説明を受け、教諭や町職員らと一緒にパネルを雑巾でふいて運び、電動工具を使って取り付けました。
リユースした太陽光パネルは合計38枚で、出力は約8kWh。この出力では、家庭約1~2世帯分の消費電力相当の電力を生み出します。なお、太陽光パネルで発電した電力を利用するための変換機器であるパワーコンディショナーの出力が1.5kWhのため、同時に充電できるE-bikeは10台程度になるそうです。
活動のきっかけは?
能勢町と高校が連携!
まちづくりプロジェクトがスタート!
ドイツ視察
町と高校のタッグチームはどうやってはじまったのか?このパートナーシップを陰で支えられてきた能勢町の総務部総務課 課長の熊手俊行氏、係長の矢立智也氏、主事の井上良介氏に経緯をうかがいました
能勢町職員 (左から)井上主事 矢立係長 熊手課長
能勢町と能勢分校の連携は、2018年、「地域活性化とエネルギー転換」をテーマとする講座を皮切りにスタートしました。環境先進国ドイツの事例から能勢町の地方創生を考える1年間の座学研修を行い、国や自治体職員、地域新電力会社、再生可能エネルギーの専門家などを講師として招いて講座を開設しました。
その講座は地域住民が自由に参加できるオープンスクールにすることで、地域の方々が高校生とつながりをつくる機会も作り出していたのです。
大阪府能勢町 上森一成町長
2019年7月には、能勢町での地域新電力会社設立に向けて、上森一成町長と共に4名の高校生が、環境先進国ドイツのブリロン市を訪問。 電力供給を行う地域公社「シュタットベルケ」の視察や現地の高校生との意見交換、交流を通じて、グローバルな視点を培いました。
帰国後、訪独経験のある他校の高校生と意見交換を行うなど、エネルギー問題について調査研究を続け、小学校の授業で能勢町の森林やエネルギーに関する講義を行い、次の世代に向けて思いを発信しました。こうした活動がメディアでも紹介され、エネルギーで町を活性化する気運は高まっていったのです。そして、能勢町版シュタットベルケの実現に向けて資料を作成し、町民らに発表して地域新電力会社の設立を後押したのです。
能勢町が自治体として先進的なのは、能勢分校を地域人材の供給拠点として捉え、高校をハブとした地域ネットワークを構築したことです。地域住民の協力のもと、高校生がまちづくりの活動に参画することで、地域資源の再発見・評価につながっていったのです。
成功のポイントは?
地元高校を拠点にエネルギーを軸とした地域の経済循環
「世界が教科書。教室は、町ぜんぶ」というスローガンのもと、緑あふれる能勢町・豊能町でユニークな教育を推進している大阪府立豊中高校 能勢分校。その特長には、地域社会と密接にかかわるテーマがあります。それは、「課題探究~グローカル・スタディ~」という授業です。「グローカル」とは、GlobalとLocalをかけ合わせた言葉。グローバルな視点で世界の事例を学び、地域と協働しながら地域課題の解決方法を探っていきます。それは、課題を発見する力、協働力、プレゼンテーション力など、社会で必要なさまざまな力を身についけることができるのです。
大阪府立豊中高校 能勢分校 菅原亮准校長
今回、能勢分校の准校長 菅原 亮氏に「課題探究~グローカル・スタディ~」についてお話をうかがいました。 菅原准校長によると、「『課題探究~グローカル・スタディ~』は、地域とともに地域のために課題を掘り下げ、自分なりの答えを導き出すということです。能勢町がゼロカーボンタウンを推進することになったので、それをどうすれば前に進めることができるのか、高校生なりの視点で掘り下げていきます。たとえば、行政の現場の方にヒアリングしたり、環境先進国であるドイツからの留学生に話を聞いたり、1年間をかけて課題を探求しています。」という大学のゼミのようなカリキュラムでした。
また、能勢町では、大阪府全域から進学できる“里山留学制度”を採用しています。遠方から通学する生徒を、町ぐるみで応援し、能勢町内の民家に下宿しながら通学できる制度です。
このような教育があってこそ、高校と行政や地域住民とのコラボレーションが実現できたと言えるかもしれません。
レポート!
能勢分校で学ぶ高校生の声
グッドライフアワード AMIY MORI実行委員
今回グッドライフアワード実行委員 AMIY MORI氏と共に能勢町を訪れ、町職員の方々や菅原准校長を取材。そして、MORI氏が能勢分校の生徒に環境問題やまちづくりについてインタビューを行いました。
「地域魅力化クラブ」メンバー
「地域魅力化クラブ」メンバー3人にお話をうかがいました。能勢分校の制度である里山留学(下宿)をしている2人と自宅から通う生徒です。E‐Bikeで通学し、積極的に能勢町との取組に参加しています。廃校にあった太陽光パネルをリユースするときには掃除・設置の活動などを行ったそうです。
環境大臣賞受賞を伝えるMORI委員
実は、能勢町がグッドライフアワードの環境大臣賞を受賞したことを知らず、MORI氏から「おめでとうございます!」と伝えると、大変喜んでいました。この大臣賞は、日ごろから環境問題や地域との協働に取り組む能勢分校の生徒への賞でもあるからです
大学への進学が決まっている3年生
もう一人、大学で環境について学ぶこととなっている3年生は、「確かに能勢町では、再生可能エネルギーについて学ぶ機会が多いと思います。町役場の方からアドバイスを受けられ、協力もしてくれます。また、自らが地域の課題を見つけ、1年をかけて解決していく『課題探究~グローカル・スタディ~』で、能勢町のまちづくりに密接に関わることができました。」と笑顔で語ってくれました。
最後に、実行委員のAMIY MORI氏は、生徒に皆さんに環境大臣賞受賞を誇りに思って今後に生かしてほしいとエールを送りました。