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第13回 昭和基地をきれいに!~環境保全の取組み(2)

2006年2月9日

東オングル島一斉清掃

 1月25日と2月4日、観測隊員としらせ乗組員の参加で、昭和基地まわりの清掃が実施された(写真1)。環境保全隊員がリーダーとなりグループに分かれて、水汲み沢、推薬庫、検潮所などで回収を行った。これらの箇所は、遠くから見ると目立った廃棄物はないが、近くで足下を見ると、強風で飛ばされたと思われる一斗缶や鉄くずなどが落ちている。それらをゴミ袋に入れたり、背負子で回収したりする。この2回の清掃で、2トントラック14台分の廃棄物を回収することができた(写真2)。

写真1:清掃活動の様子 写真2:回収された廃棄物

アンテナ島の雪上車の回収

 昭和基地の対岸にある「アンテナ島」には使用されなくなった雪上車が19台と部品類が置かれていた。これは、越冬期間中の平成17年(2005年)5~10月に、46次越冬隊員が、一部氷漬けになっているのを掘起こして回収作業を行い(写真3、4)、19台すべてを迷子沢まで移動した。
 さらに、今年2月4日には、47次隊員12名、しらせ乗員12名が、残っていた雪上車の残骸部品をドラム缶にとりまとめた(写真5)。
 今後越冬期間中に海氷の厚さが増し、アンテナ島まで雪上車で渡ることができるようになってから、引き上げを行う予定である。
 

写真3:アンテナ島からの雪上車の回収 写真4:46次越冬隊の環境保全担当藤井隊員(左)と張替隊員(右)
写真5:アンテナ島での作業の様子  

廃油ドラム缶の油水分離作業

 また、今年度は、迷子沢に置かれていた油と水が完全に混合してしまった廃油が入ったドラム缶(写真6、7)の処理も行った。
これらのドラム缶を廃棄物保管庫に集めて、水と油を分離する装置を通し、油は日本に持ち帰えるため、新しいドラム缶に詰める。廃油ドラム缶はつぶして処理(写真8)。処理後の水はコンクリートの材料などとして使用した。
 その結果、約500本のドラム缶を処理して、水を取除いた油はドラム缶約50本に達した。

写真6:廃油ドラム缶 写真7:油水分離装置
写真8:処理したドラム缶  

持ち帰りを待つ廃棄物

 日本に廃棄物を持帰る努力により、通称「デポ山」と呼ばれる廃棄物が野積みされている光景は、昭和基地では、現在では見られなくなった。
現在、屋外の廃棄物の多くは、持帰りを待って並べられているものである。アンテナ島に置いてあった雪上車6台が日本に持ち帰るためしらせに積込まれ、残り13台は迷子沢で日本に持ち帰られるのを待っている(写真9)。廃油ドラム缶の持ち帰りも来年以降に行われる。
 昭和基地から日本に持帰ることのできる廃棄物の量は、昭和基地からしらせに運ぶことができる量(※注1)、しらせに積むことができる量、日本で廃棄物を処理するために確保した費用などの要因に規定される。
 そのため、一回ですべて持ち帰ることができないが、その年の自然状況に応じて、持帰る量を最大限に引き上げる努力と、来年以降、持ち帰る廃棄物の適切な管理が重要である。

写真9:迷子沢の雪上車

昭和基地をきれいに

 野外調査の対象となっている露岩地域ばかりではなく、昭和基地も含めて南極地域全体が等しく貴重な自然環境である。
だからこそ、生活や活動の拠点で周囲への環境負荷を与えやすい昭和基地では、環境保全隊員を中心に隊全体として特に環境保全への努力が払われており、今後もそれを継続することが大切だ。
 私も、島内清掃、アンテナ島清掃、油水分離作業、そして廃棄物解体梱包作業の一部に参加したが、一緒に活動した隊員やしらせ乗組員の熱心な清掃の姿を見ていると、環境保護への関心や意識が高いという印象を受けた。これは隊が代り、人が変わっても、継続して欲しいと思う。
 作業に参加してもう1点感じたことは、廃棄物解体梱包作業は、作業量が多く、重労働であることだ。廃棄物の発生を抑制するような物資の選択や管理、梱包を今後の検討課題としてあげられるのではないかと思った。
  なお、過去の廃棄物を除去は、日本以外の多くの国が抱える国際的な問題でもあり、各国がそれぞれ取組みを進めている(※注2)。


【注】
※注1…しらせは昭和基地の沖の海氷上に停泊している。特に、ヘリコプターで積み込むことのできない大型の廃棄物は、雪上車で牽引してしらせに搬入する。そのため、海氷の状況が悪い年になると、こうした輸送ができないこともある。
※注2…残置廃棄物については、各国で除去が進められており、毎年開催される南極条約協議国会議環境保護委員会で、その状況報告がなされている。
主なものでは、2003年には、アルゼンチン(マランビオ基地周辺の38箇所の廃棄物撤去の経過報告)、2004年には、イギリス(南極半島アレクサンダー島、フォッシル絶壁基地付近に放置された廃棄物の除去の結果報告)及びオーストラリア(ケーシー基地付近のThela谷に埋められた2000立米廃棄物の掘起こしと除去作業報告)がそれぞれ発表されている。
日本も2005年6月に開催された南極条約協議国会議で「クリーンアップ4カ年計画」の取組を発表した。南極地域からの残置廃棄物の一掃まではもっと多くの時間がかかると考えられるが、各国ともできるところからこつこつと、取組んでいる。
 

【関係地図】

(了)