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第8回 オングルカルベン島のペンギンルッカリー観察

2006年1月23日

オングルカルベン島のペンギンルッカリー

 昭和基地から西方6~7km離れた地点にオングルカルベンという島がある。周囲約3kmの小さな島で、なだらかな丘陵があり、最も高いところは標高35mである。
 この島には、アデリーペンギンの集団繁殖地(ルッカリー)が、島の北西端の斜面に1箇所(写真1)、北の内湾の奥にある小高い丘に1箇所(写真2)ある。その他、十数羽程度の小さな集団があった。
 写真のペンギンのうち、腹部が白で後背部が黒いのが成鳥、全身が黒色の羽で覆われているのはヒナである。
  オングルカルベン島におけるアデリーペンギンの観察記録によると、10月下旬に島に現れ始め、しだいに個体数が増加してルッカリーを形成し、つがいを作り、交尾を始める。11月中旬には産卵が始まり、その後、12月下旬にヒナが孵化し、親から餌を受けながら次第に換毛し、3月頃にルッカリーを離れて、冬を過ごすために北の海に移動する。
 オングルカルベン島を訪れた1月23日は、ヒナが親から餌を受けて、育てられている時期であった。

写真1:オングルカルベン島のペンギンルッカリー(1) 写真2:オングルカルベン島のペンギンルッカリー(2)

ペンギンの巣を覗いてみよう

 ペンギンの巣には、小石が敷き詰められている(写真3)。この巣にはおそらくつがいらしい2羽のペンギンがいた。この小石の上で卵を温め、ヒナをかえすのである。しばらく観察していると、近くから、小石を拾って巣に運んでいた(写真4)。おそらく、巣の補修をしているであろう。

写真3:ペンギンの巣 写真4:石をくわえるペンギン

ペンギンルッカリーの色

 ルッカリーの地面は赤みがかっているのが見える(写真5)。ペンギンはルッカリーにフンをするので、ルッカリーはたいてい乾燥したフンに覆われている。オングルカルベン島ではそのフンが赤色をしている。これは、ペンギンが餌にしたナンキョクオキアミの色素が、フンに混じって出てきているものと考えられる。


クレイシ(共同保育所)

 北の内湾の奥にある小高い丘にあるルッカリーから100m程度離れた場所にもペンギンの集団があった。写真を撮影した際は、11羽の幼鳥と2羽の成鳥がいた(写真6)。成鳥の数に対して、幼鳥の数が圧倒的に多い。 これは、おそらく「クレイシ」(共同保育所)であると考えられる。クレイシとは巣を離れたヒナが5~20羽程度の集団を作り、若鳥や繁殖に失敗した成鳥によって守られる集団である。これらのヒナの親鳥は、海で1日から数日の期間をかけて、ヒナのために餌を探しているという。

写真5:地面が赤いペンギンルッカリー 写真6:ヒナの集団

ヒナが襲われる

 ルッカリーのそばでナンキョクオオトウゾクカモメがルッカリーの様子をうかがっている(写真7)。その後わずか、15分程度後のことである。我々が別の場所に行っている間に、1羽のヒナがトウゾクカモメに食べられていた(写真8)。ルッカリーにいるペンギンたちも、なすすべはないようだ。ヒナは飢えの他、捕食者に対する危険にもさらされている。

写真7:ルッカリーの様子をうかがうオオトウゾクカモメ(左端) 写真8:ヒナを補食するオオトウゾクカモメ

ペンギンルッカリーの個体数調査

  南極地域観測隊では、海洋環境などの中長期的な変動とペンギンの個体数変化の関係を明らかにすることを目的として、再びペンギンがルッカリーを形成し始める今年の11月頃から、このオングルカルベン島を含む約10箇所のルッカリーで、個体数調査を実施する予定である。


【参考文献】
トニー・D・ウィリアムズ他 1999 『ペンギン大百科』平凡社
国立極地研究所編 1982 『南極の科学 7 生物』古今書院
藤原幸一 2002『ペンギンガイドブック』阪急コミュニケーションズ

(了)