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第11回 南極環境保護モニタリング技術指針作成の予備調査

2006年2月8日

基地活動の環境モニタリング

 今回、私が47次南極地域観測隊に参加した目的の1つは、基地活動による周辺環境への影響をモニタリングする技術指針を作成するための準備作業として、昭和基地周辺環境の状況を把握するための調査を行うことである。
 基地活動による周辺環境への影響をモニタリングする計画を立案すべきことは、第15回南極条約協議国会議で勧告として採択され(1989年、「人間が南極環境に及ぼす影響:南極地域における環境モニタリング」)、すべての協議国が勧告を承認して発効すると(※注1)義務となるため、我が国も勧告に対応したモニタリング計画を立て、実施する必要がある。


昭和基地の環境調査

 しかし、一口に「計画を立てる」と言っても、昭和基地での活動内容や周辺の自然環境の特徴を踏まえたものとし、また、観測事業を実施する上で過度な負担にならないような効率的なものとする必要があり、さらに、データや成果を他の国々と交換し、国際的に共有することも視野に入れなければならない。
 そこで、計画を立てるのに必要な指針を作成するため、まずは、基地活動が周辺環境に与える影響の指標になると考えられる環境要素の網羅的な基礎調査を行うのである。今回は、昭和基地で行った主な調査の様子を紹介したい。
 

土壌サンプリング

 物資・廃棄物の集積場として利用されていた跡地、海岸添いなど、基地での活動が周辺に与える影響を把握できると予想される地点で、土壌を採取した。プラスチック製のスコップで、1つの場所について5点丁寧に採取し、それぞれの状況を写真にとる(写真1)。昭和基地の地面は主に片麻岩という岩石に覆われているが、実際には、こうしたものが風化した細かい砂や泥状となっており、容易に採取できた。

写真1:土壌環境調査の様子

魚類サンプリング

 昭和基地西側の海域「西の浦」では、魚のサンプリングを行った。昭和基地に到着した当初は、西の浦は海氷に覆われていたが、その後、氷が融け始めたことに加え、1月15~16日に吹いた強風で氷が沖に流され、海水面が開いたため、無事サンプリングできる状態となった。魚かごに餌を入れて海底に沈め、1日~2日後に引き上げると、ショウワギスやライギョダマシが入っていた(写真2、3)。

写真2:採取した魚の様子 写真3:表面には独特のぬめりがある。

排水サンプリング

 昭和基地の生活排水は、基地の主要部の汚水処理棟と第1夏隊宿舎の2箇所から排出されている。排出口において、これらの排水を採取した。汚水処理棟からの排水については、pHなど6項目を昭和基地で毎月計測しているが、今回は、日本に持ち帰り、含まれている物質を網羅的に分析する予定である(写真4)。

写真4:汚水処理棟放流水の採取

定点撮影

 昭和基地にある小高い丘など、基地を広く見渡すことができる場所から、写真撮影を行った。撮影場所は、第40次南極地域観測隊(1998年度)に、環境省職員が参加した際に撮影した箇所を中心に行った(写真5、6)。
 昭和基地は施設や利用箇所が分散しているため、広範囲に活動状況を把握できる写真による利用状況のモニタリングは、基地の活動状況を把握する上で有効であると考えられる。

写真5:定点撮影の状況 写真6:定点撮影地点での様子を記録する。

モニタリング技術指針作成に向けて

 今後、採取したサンプルに含まれる物質の分析を日本で行い、その他は資料としてとりまとめ、技術指針作成のための基礎資料とする予定である。
 なお、南極地域に新しく建設される基地では、モニタリング計画を立案することが、あらかじめ環境影響評価書の中で明記されている場合が多い(※注2)。南極で活動をする国々が、それぞれ自国の基地活動から生じる影響を適切に把握することが、1989年の勧告採択以降、現実のものとなってきている。
 

【注】
※注1…遅くとも3年後には発効することが見込まれる。
※注2…例えば、ベルギー作成の包括的環境影響評価書もその例の1つ。同評価書の概要版(環境省作成)5ページ「7.モニタリングと検証」の項目参照。

(了)