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第1回 南の海の鳥たち

2005年12月9日

南極観測船しらせの揺れと船酔い

  南極観測船しらせは、第47次南極地域観測隊を乗せ、オーストラリア西海岸フリーマントル港を12月3日(土)10:00に南極昭和基地に向けて出航した(写真1、2)。しらせは外洋に出ると、波とうねりを受けて大きく揺れ始めた(写真3:揺れる船の様子)。特に4日(日)~5日(月)にかけての揺れが激しく、立っているのも大変で、船室にロープでくくりつけた荷物も軋んでいた。
  私はすぐに気持ち悪くなり、胃が縮まった。食欲がわかず、ご飯にお茶を注いでお茶漬けにしたが、今度はそのお茶が、船にあわせてゆらりと傾き、茶碗の縁からこぼれ落ちそうになったとたん、また反対側に揺戻される。なんと憎たらしいお茶漬けか。やりきれなくて窓の外を見る。しらせ隊員公室(※註1)の小さい丸い窓からは、船の動揺にあわせて、海が見え隠れしていた。
  その海は、ただただ、茫漠とし、のんべんだらりと続く何もない海であった。白い南極大陸にたどり着くまで、ずっとこのような調子かと思うと半ば絶望的になった。

写真1:停泊中のしらせ 写真2:しらせ出航


茫洋とした海での発見

 12月6日(火)13:00(日本時間同日15:00)に、しらせは南緯45度東経110度付近の地点に到着した。ここで、約3時間停船し、後方の甲板で海水の採取等の海洋観測がおこなわれる。ようやく、船酔いにようやくなれてきた私は、これを見学に行った(※註2)。
  甲板に出て、遠い海を見遣ると、視界にすぅーっと黒いモノが横切った。思いもよらなかった。鳥である。私は早速船室から双眼鏡を持って来て、この停船時間中、鳥の観察をすることにした。
  眺めていると船の周りには、常時5~6羽の鳥がおり、その羽や姿を間近にはっきりと見ることができた。
  最初に黒く見えた鳥、よく見るとくちばしはやや黄色い。おそらく、ノドジロクロミズナギドリ(写真4)であろう。常時3~4羽は船の周りを飛んでおり、最も多く観察できた。羽を休めるためだろうか、海に着水して水面に浮かんでいるものも見られた。
  こればかりではない。たまに、双眼鏡で見てみると羽が白黒まだら模様の特徴的な鳥も3~4羽観察することができた。調べて見ると、マダラフルカモメであると思われる(写真5)。
  そして、藍色の海に映える白い鳥は、ワタリアホウドリ(写真6)であると思われる。
  その他、撮影することができなかったが、腹が白く羽が黒い鳥、おそらくメグロシロハラミズナギドリもいた。また、夕方頃、小さな鳥の群れが船の横を通っていった。
  何もないと思っていた海に、少なくとも4種類の鳥をしかも、船の間近にみることができた(※注3)。鳥たちはもしかしたら、船の周りに餌にでもありつけるのではないかと思ってやってくるのかもしれない。

写真3:荒れた海を行くしらせ 写真4:ノドジロクロミズナギドリ
写真5:マダラフルカモメ
(山本道成隊員撮影)

写真6:ワタリアホウドリ


南極地域へ向けて

 この途方もなく広がり、一見何もないように思える海であっても、よく観察すると発見があるものである。観測も自然保護も、一見何でもないところでも、注意深く観察し、現実を直視したところに、新たな発見や解決策がある、しらせの周りを優雅に飛ぶ鳥たちにこのことを教えられたような気がする。
  南緯60度の南極地域に入るにはもう少し時間がかかる。しかし、今回観察できた鳥の分布を調べてみると、南極地域にも広く分布しており、南極地域が確実に近づいていることが分かる。
  これから、3月末まで南極地域の自然環境とそのすばらしさをできる限り多く配信したいと考えておりますので、今後も是非ごらんください。


【参考文献】

国立極地研究所編1983『南極海の海鳥類・鰭脚類・鯨類』


【注】
※注1…隊員公室とは、しらせにある隊員共有の船室。観測隊員が食事をとる場所となる他、各種ミーティングや隊員同士の情報交換の場として利用される。
※注2…しらせは、往路、復路とも定められた20地点に停泊し、海水の採取や観測ブイの投入などをして、海洋環境の状況を調査する。
※注3…鳥類の同定は、当職が図鑑を参照して行ったため、専門家の検討を経たものではない。もし、誤りがあれば、ご教示願いたい。

(了)