第2回 南極地域に突入!
南緯60度通過!南極地域へ
南極観測船「しらせ」は、その後平穏な航海を続け、12月9日(金)17時40分ころ、南緯60度東経107度の地点を通過した。
南緯60度より南の地域-これが「環境保護に関する南極条約議定書」に基づき、国際的に環境保護の取り組みが進められている「南極地域」である。我が国も「南極地域の環境の保護に関する法律」によってその環境を保護し、南極環境保護の国際的な取組みの一翼を担っている(※注1)。
甲板で身を切るような風に吹かれながら、このことを改めて確認して身が引き締まる思いがした。と、同時に保護対象となった理由-地球上に残された最大の原生自然地域であること、地球環境を解明するための科学的調査の場としてもかけがえのない地域であること-を思い返す。きっとすばらしい出来事に出会えるに違いない、とてもわくわくしてきた。
南極大陸に近づく海~氷の観察~船から見えるもの
「しらせ」はここから、昭和基地(南緯69度東経39度)に向けて、ひたすら西に向かっていく。これまでと違い、船から見える風景は刻々と変わる。まず、私たちの目の前に現れたのは、大海原にぽっかりと1つだけ浮かぶ氷山(写真1)。観測隊員も「氷山が見えた」とざわめく。氷山は光の加減によって、海との境目はその光をたたえて青白く輝く。
写真1:氷山(12月10日) |
最初は、1つ見える毎に興奮して見ていた氷山も、まわりに2つ、3つと見え始め、やがては船室の円い窓から外を眺めるとどこでも見えるようになった。
12日頃になると、海面に流氷が漂うようになった(写真2)。しかし、「しらせ」はこのくらいの氷であれば、ものともせずに進んでいく。13日(写真3)、14日(写真4)と海面を覆う流氷の割合が次第に高くなっていき、周囲に見える氷山の数も増える。たまに通りすぎる海氷の上にはアザラシがいたり(写真5)、空をひらりとユキドリ(写真6)が飛んでいたりする。南極大陸に生息している動物が、その姿を見せ始めたのである。
写真2:流氷(12月12日) | 写真3:流氷(12月13日) |
写真4:流氷(12月14日) | 写真5:アザラシ |
写真6:ユキドリ |
15日、ついに海一面を氷が覆った。「しらせ」は氷を割りながら進んでいく(写真7)。いったい次に何がくるのかと思ったら、まさかの不意打ちで、海は静寂、波一つない濃い青が限りなく広がった。まるで鏡の上を進んでいるようである(写真8)。おそらく、風がなく、外洋と氷で遮られているため、波が伝わってこないのであろう。
写真7:一面の流氷(12月15日) | 写真8:静寂の海 |
15日夕刻、ついに定着氷に到着した。定着氷とは、海岸に沿って固着した動かない海氷のことである(※注2)。これまでの流氷や氷山とは氷の量や規模が違い、とにかく海を覆う氷の量に圧倒される(定着氷の入り口は雪と氷は特に厚く3m程度にもなる。)。しかし、ここは間違いなく海である(写真9)。
写真9:定着氷 |
定着氷とペンギン
「しらせ」はここで一回停船し、昭和基地へ向かう準備をするという。船が止まってしばらくすると、アデリーペンギンの群れが隊列をなして、「しらせ」に近づいてきた。甲板から、そーっと覗いて見る。だいたい30m程、先の氷の上で、こちらの様子を伺っている(写真10)。そのうち、こちらには興味がなくなったのか、ペンギン同士鳴くもの、中には他のペンギンを追いかけ回したりしているものもいる。しばらくするとどのペンギンも腹ばいになって動かなくなった(写真11)。空は明るいが、気がつけばもう、もう夜なのである。ペンギンは白夜の傾きかけた日の光を浴びながら寝ているのだろう。
写真10:アデリーペンギン | 写真11:腹ばいのアデリーペンギン |
南極大陸に向けて
海と氷、そして鳥たち。南極地域に入ってからもまた目にする一つひとつが驚きである。しかし、ほんの南極地域の始まりにすぎない。現在、南緯68度東経38度の地点。昭和基地に至るまでは、この分厚い氷を、あと直線距離にして約42海里(約78km)進まなければならない。
【注】
※注1…法に基づく制度の詳細は、南極地域の環境の保護のホームページを参照。
※注2…町田他編1981年『地形学事典』二宮書店
(了)