野生動植物の保全と持続可能な利用

決議10.10(ゾウの標本の取引)の採択と概要

1976年の第1回ワシントン条約第1回締約国会議においてすべてのアフリカゾウが附属書Ⅱ(許可により商業目的の取引可能)に掲載されました。その後、1989年の第7回締約国会議において、全てのアフリカゾウが附属書Ⅱから附属書Ⅰ(非商業目的の取引は可能)に移されました。その後、1997年の第10回締約国会議において、絶滅のおそれがないとしてボツワナ、ナミビア及びジンバブエの個体群が附属書Ⅱに戻されることとなり、同時に「決議10.10ゾウ標本の取引」が採択されました。(標本の定義は条約本文参照(第1条(b)) [PDF 266KB])。続く2000年の第11回締約国会議では、南アフリカ共和国の個体群が附属書Ⅱに戻されました。これら4カ国の附属書Ⅱ掲載個体群には注釈がつけられており、実際にこれらの個体群に由来するゾウ標本の国際取引を行うためには条約が定める多くの条件 [PDF 1.1MB]を満たす必要があります。

現行の決議10.10(第18回締約国会議で改正)は、象牙の在庫や国内市場を有する国に対して、象牙とその製品の国内取引の規制や監視体制の確立、象牙在庫量の報告、合法状態や決議の実施に関する取組の報告などを求めています。またこの決議には付属文書として、付録1にゾウの違法取引を監視する仕組みであるETIS(ゾウ取引情報システム)の説明、付録2にゾウの違法捕殺を監視する仕組みであるMIKE(ゾウの違法捕殺監視)の説明、付録3にNIAP(国別象牙行動計画)プロセスに関するガイドラインが付されています。

象牙の国内市場をめぐる第17回及び18回締約国会議における決議10.10の改正

ワシントン条約の決議は、締約国会議において締約国から新たな決議案や既存の決議の改正案が提案され、これらが審議され採択された場合に、新規採択又は改正されます。現在の決議10.10は第10回締約国会議で採択されて以降、第11回、12回、14回、15回、17回及び18回締約国会議における改正を反映したものです。

2016年の第17回締約国会議[PDF 1.0MB]では、象牙の国内市場を全ての国で閉鎖することを求める新たな決議案と決議10.10の改正案が一部の国から提出され、審議されました。しかしながら、国際取引を対象とするワシントン条約が、締約国内の合法市場の全面的な閉鎖を求めることについて異論が示されたほか、ゾウ保全への影響に関わらず国内市場を一律閉鎖することへの反対意見などが述べられ、国内市場が密猟や違法取引に寄与しないようにすることの重要性が強調されたことなどから、審議の結果、各国に対しゾウの密猟又は象牙の違法取引に寄与している国内市場を閉鎖するための措置を講じるよう勧告する内容を既存の決議10.10(第16回締約国会議で改正)に含める形で決議10.10が改正されました。

2019年の第18回締約国会議[PDF 1.1MB]でも、国内象牙市場の存在が密猟や違法取引に寄与するとして、再度全ての国内象牙市場の閉鎖を求めるための決議10.10の改正案が一部の国から提出されました。しかしながら、これは第17回締約国会議における議論の繰り返しであり、また、同会議で改正された決議10.10を効果的に実施することを重視すべきであるとする意見が支持を集めたことから、改正案は採択されませんでした。一方で、ワシントン条約として国内市場がアフリカゾウの密猟や違法取引に寄与していないことを監視する必要性はあるとして、象牙の国内取引市場を有する締約国に対して、自国の市場が象牙の密猟や違法取引に寄与しないために講じている措置について条約事務局に報告することを求めることが、決議ではなく短期的な取り組みの指示である「決定」として採択されました。