野生動植物の保全と持続可能な利用

日本の象牙利用の歴史

象牙製の根付の写真:前掛けをした恰幅のよいカエルがラッパ型の長い楽器を尺八のように吹いている様子が着色していない象牙に彫られている作品。
象牙製品(根付)

日本では奈良時代には象牙が使用されていたと考えられ、奈良時代に使用されたといわれる「紅牙撥鏤尺(こうげばちるのしゃく)」という象牙でできた物差しが正倉院に納められています。また、『日本書紀』にも「象牙(きさのき)」という言葉が登場することから、古代より日本にゾウや象牙の認識があったことが伺えます。

日本書紀の原書の写真:オレンジ色がかった日本書紀の原書の1ページが拡大され、毛筆にて漢文で書かれた文章の中に、象と牙の二文字が読み取れる。著作権は国立国会図書館で転載不可。

日本において象牙の工芸品が一般的になったのは江戸時代頃からと言われています。元禄3年(1690年)に刊行された「人倫訓蒙図彙(じんりんくんもうずい)」には「角細工」が象牙を鋸で切断する図と共に紹介され、さまざまな工芸品が作られていました。象牙は三味線のバチや、印籠や巾着などを提げるための装身具・根付などに、ごく一般的に使用されていました。特に根付はその芸術性の高さから美術作品として、大英博物館やメトロポリタン美術館などの海外の美術館でも所蔵されています。

明治時代以降は洋装が普及し根付は身近に使用されなくなっていきますが、それまでに培われた牙彫(象牙彫刻)の技術を活かして多くの置物が制作され、一時は外国向けの輸出工芸品の花形とも言われる時期もあったともいわれています。一方、象牙を材料とした印章が広く普及し、日本における象牙の主な用途となっていきました。現在も独自の彫刻技術を通じて、邦楽器、美術品、印章などに使用されています。