宮城県南三陸町は「森 里 海 ひと いのちめぐるまち南三陸」をまちづくりのコンセプトに据え、2015年に生ごみやし尿汚泥を電気や液肥(液体肥料)に変換するバイオガスプラント「南三陸BIO」を開所。住民の熱心な協力のもと、地域の生ごみを資源・エネルギーに変換して循環させる取組を実施し大きな成果を上げています。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
地域循環システムの拠点!南三陸BIO
宮城県南三陸町は、県北東部の三陸海岸南部に位置する森・里・川・海の恵みが豊かな町です。しかし、東日本大震災の時、街の外の施設に依存していた電気・石油・ガスの入手が困難を極める事態になりました。その体験をもとに南三陸町は、「生きることに必要な最低限のものをできる限り地域内でまかなう」ことを目指して「南三陸町バイオマス産業都市構想」を定めたのです。 その中核を担うのが、リサイクル施設「南三陸BIO(ビオ)」です。以前の南三陸町は、生ごみを燃えるごみとして近隣の市に持っていって焼却し、焼却灰も近隣の町で埋め立てていました。その生ごみを資源に変え、地域の中で循環させるシステムを始動させたのです。
今回の取材では、地域の資源循環システムについて南三陸町の佐藤仁町長にお話を伺いました。
南三陸町 佐藤 仁町長
南三陸町で実施している資源循環の仕組では、各家庭や事業所で日々生まれてくる生ごみや「し尿」などを南三陸BIOに集めてメタン発酵させ、バイオガスと液肥(液体肥料)に変えています。バイオガスは電気に変換され、南三陸BIOの施設内で利用され、一部を電力会社に売電しています。液肥は地元の田畑に無料で配布し農業に活用されています。
南三陸町の資源循環システム
南三陸BIOの1日の処理能力は10.5トン。1日に集める生ごみは家庭から平均2.5トン、飲食施設や宿泊施設から平均1トン、合計3.5トンです。また、し尿などの処理残渣は1日に7トン受け入れています。
その作業工程を見てみると、まず各家庭や食堂、民宿などの事業所で分別された生ごみが集積所に集まってきます。それをトラックで南三陸BIOに運び、検査台で収集された生ごみからメタン菌で分解できない異物を取り除きます。
生ごみの収集
生ごみを南三陸BIOに搬入
異物を取り除く検査作業
分別された生ごみは破砕機で細かくし、し尿などの処理残渣は汚泥受け入れ口から入れます。それらを施設にある地下水槽に貯めて酸発酵させ、トロトロの状態になったらポンプでメタン発酵糟へと移します。 発酵糟の中の温度を35度に保ち、約25日間かけて分解。その分解するときに発生したガスは、コンテナの中のガスバックに貯められてバイオガスとなります。
ポンプ
メタン発酵糟
バイオガスは、発電機を通して電気に変わります。ここで作られた電気で施設自体を稼働させ、事務所の照明などにも使われます。発電能力は1日に600kWh(キロワットアワー)。一般家庭に換算すると約60世帯分にあたります。
発酵糟で分解されて出来た液肥は配管を通じて、液肥タンクで貯蔵されます。液肥の生産量は1年間で4500トン。これは田んぼ70ha(ヘクタール)の肥料となり活用されています。町では、この液体肥料を用いて栽培されたお米を「めぐりん米」と名付け、南三陸のブランド米として売り出されています。
メタン発酵液肥(無料で提供)
現在、注目を集めている「南三陸モデル」といわれる地域循環システムでは、このように従来は単にごみとして税金から費用をかけて処分されていた廃棄物が町の資源としてよみがえって活用されているのです。
活動のきっかけは?
震災を経験して、多くの人々が地域循環型社会の大切さを共有!
南三陸町は宮城県北東部に位置し、三陸海岸の南部に位置する、リアス海岸の豊かな景観を有し、三陸復興国立公園の一角を形成する、面積163.40km2、人口12,267人(令和3年8月末現在)の町です。
2011年3月に東日本大震災が発生した際には、南三陸町は甚大な被害を受け電気・石油・ガスの入手が困難を極めたことがこの「南三陸町バイオマス産業都市構想」誕生のきっかけとなり、南三陸BIOの資源・エネルギー循環システムが構築されていくのですが、その運営には、もともと瓦礫の処理のサポーターとして町に関わっていたアミタ株式会社とNECソリューションイノベータ株式会社が携わっています。
今回の取材では南三陸BIOの運営に携わるアミタの岡田修寛さんと、IT技術で運営をサポートしているNECソリューションイノベータの日室聡仁さんにもお話を伺いました。
NECソリューションイノベータ株式会社 日室 聡仁氏(左)
アミタ株式会社 南三陸BIO 岡田 修寛氏(右)
アミタが南三陸BIOの施設全体の運営を担い、NECソリューションイノベータはITと行動経済学を導入して、このシステムを全国に広げる取組を行っています。南三陸町は、全国にさきがけて先進的な生ごみの循環システムを作り上げており成功例として注目されています。特にNECソリューションイノベータが担当する「ICTを活用して生ごみ回収状況を把握するシステム」と明治大学と連携して実施している「行動経済学を活用した協力に対する感謝を住民に伝える仕組み」が住民に面倒な生ゴミの収集への協力を得る上で大きな効果を上げています。 お二人は、「現在、町の大切なインフラとなっている南三陸BIOの試みは、『南三陸モデル』として全国へと広がろうとしています。」と熱心に語ってくれました。
成功のポイントは?
南三陸町長
「地域循環の生ごみリサイクルは、
住民への丁寧な説明が欠かせません!」
南三陸町長 佐藤 仁氏 取材
南三陸BIOは、単なるリサイクル施設ではなく、住民が主体的に参加してはじめて実現できるプロジェクトです。そのため町役場は、全地区である64ヵ所で丁寧な住民説明会を行いました。なぜ細かい説明が必要なのかというと、家庭から出るすべての生ごみをBIOで処理できるわけではなく、貝殻や肉の骨、卵の殻などを分別しなければならないからです。 当初、家庭で細かく分別してもらうために分別用のパンフレットを作り説明していたのですが、生ごみをさらに細かく分けるのかと不評でした。そこで、町ではある程度の生ごみを受け入れることを決め、最終的な仕分け検査は南三陸BIOの現場において手作業で行うことになりました。
佐藤 仁町長は、全国にさきがけて生ごみによる資源・エネルギーの地域循環が成功した理由について、「それは住民が積極的に協力してくれたことにつきます。その実現のためには、職員が膝詰めで何度も説明会を行ったことが重要でした。それに町の規模感。これが市のレベルになると資源循環システムを構築するのはかなり時間がかかると思います。」と語ってくれました。
また、地元有志の方々がキャラクターや紙芝居、新聞などを作成し、普及啓発に協力いただいたこともあり、分別した生ごみの量の増加や異物混入率の減少へとつながり、バイオガス施設の安定操業が実現しています。
南三陸BIOの開所前には、南三陸町には可燃ごみ処理施設がなかったため、近隣自治体に年間約8,000万円を⽀払い可燃ごみを処理していました(平成19年実績)。 現在、年間約1,770トンの⽣ごみやし尿汚泥を再資源化し域内で循環させています。また、住民の環境問題に対する意識の変化もあり、可燃ごみ処理費も年間約5,300万円と大きく減少しています。(令和2年実績)
今後の展望
プロジェクトが目指している事、今後やりたい事
南三陸町の分別ごみ箱
宮城県南三陸町では、グッドライフアワードの受賞をきっかけに、全国の自治体などから生ごみの資源循環システムについての問い合わせや南三陸BIOの視察も増えているといいます。 今後は、生ごみ再資源化100%を目指して、行動経済学や心理学やICTなどの知見や技術を活用した状況をさらに改善するとともに、近隣自治体と連携してさらなる再資源化を目指しています。 また、「南三陸モデル」といわれる地域で生ごみを資源・エネルギーに循環させるシステムを全国へ普及させるための情報などを積極的に発信しています。 南三陸から全国へ「資源・エネルギーが循環するまちづくり」の動きが広がっていきそうです。