地産地消の家づくりを通じて、東京の木“多摩産材”を使うことで、 東京の森、東京の林業の一助となる仕組み。地元の木という産地証明だけでなく、独自の品質基準を設けてつくりあげたのが株式会社小嶋工務店の「TOKYO WOOD」という取組です。地域の循環型社会を形成し、環境に配慮した地産地消の家づくりを展開している点が高く評価され環境大臣賞優秀賞を受賞しました。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
東京の森を、山を、そして環境を守る!ビジネス性・ソーシャル性を兼ね備えた取組です
東京都の森林
日本の森林面積は国土の67%に当たる約2,500万ヘクタールにものぼり、世界有数の森林大国です。
戦後には復興等のため木材需要が急増し、政府は急速に植林を行いましたが、やがて木材利用の多くを安価な輸入材に頼るようになってしまいました。 近年、資源の循環利用やSDGsなどの観点から、建築物に木材を使おうという機運も高まっている一方、日本の豊かな森林資源が有効活用できていないことが指摘されています。
このような状況を背景に「TOKYO WOOD」のプロジェクトは誕生しました。
「東京の森を、山を、そして環境を守る」という理念のもと、多摩エリアの林業会社、 製材所、プレカット工場、工務店、建築士などがワンチームとなり、TOKYO WOODブランドによる家づくりを推進。地域の循環型社会形成をめざし、ビジネス性・ソーシャル性を兼ね備えたビジネスモデルを展開している点がグッドライフアワード実行委員会の審査でも高く評価されました。
TOKYO WOODの活動は13年を超え、既に600棟を超える着工数があり、地産地消の家造りを通じて「森林の健全なサイクル」「CO2排出量削減」という環境に寄与した家造りに取組んでいます。
活動のきっかけは?
自分の家の木が、どこ産の木か知っている人はまずいない!
小嶋工務店 小嶋智明社長
「TOKYO WOOD」のプロジェクトを立ち上げたのが、東京・小金井市を拠点に地産地消の家づくりを手掛ける小嶋工務店の小嶋智明社長です。
大手ハウスメーカーに勤務していた小嶋社長は、父の事業を引き継ぐため、会社を退職して工務店の経営に携わりました。そして、工務店を経営する中で、多摩の森の杉や檜を使って地元のお客様に満足のいく家を建てたいという想いが強くなっていったのです。そのモットーは、「ウソのない家づくり」「根拠のある家づくり」。しかし、その理想を持つと同時に、東京の森林の現状を知ることになります。
日本の林業は、低い収益性や後継者不足など数多くの課題を抱えています。また、戦後に植林された木は今使うべき時を迎えているのに、伐採されずに放置されている森林が多くあると言われています。東京・多摩エリアの森林も例外ではありませんでした。
そこで、小嶋社長は、多摩エリアの林業従事者の方々に「東京の木を使って品質の良い家づくりをするため、協力してもらえませんか?」と声をかけますが、当初はなかなか信頼関係が築けなかったそうです。しかし、小嶋社長は諦めず粘り強く、「自分の家の柱が、どこ産の木か知っている人はまずいない。森で木を切る人がいて、木を加工する人がいて、家を建てる人がいる・・・それが家づくりの基本。柱一本一本を大切にした家づくりをやりましょう!」と説得し続けました。やがて小嶋社長の理想に共鳴した森林や材木のプロたちの賛同を得るようになり、プロジェクトの輪がどんどん広がっていったそうです。
成功のポイントは?
東京100年の森を未来の子供たちへ! メンバーみんなが目的を一つにフラットな関係でプロジェクトを推進
TOKYO WOOD 檜材
小嶋社長は、プロジェクトを成功させるため、元請けや下請けという上下関係を取り払いました。TOKYO WOODに参加する面々は、それぞれ一国一城の主。小嶋社長はあえてトップに立たず、チームは皆フラットな関係だといいます。
「家を建てることで、森を育み、そして経済が回ります。取り組みが始まり10年が経ち、今のビジネスモデルが完成しました」と感慨深げに答えてくれました。
小嶋社長がTOKYO WOODに込める想いは、”良い家をつくり、長持ちさせる” というシンプルな考え。東京で家を建てる、東京で暮らすということ。その住まいに隣り合わせの自然環境・気候風土に向き合い、快適な住まいを追求してきました。
また、利益がちゃんと出ないと、プロジェクトは頓挫してしまいます。それに後継者がいなければ、その会社が近い将来、廃業することになってしまいます。
小嶋社長は言います。「TOKYO WOODの頂上を目指す中で、今はまだ5合目だと思っています。この先の50年を見据えるのであれば、林業、製材業、私たち工務店、それぞれの後継者を育てていかないといけません。そのためにも二世会をつくりたいと考えています。」「もともと多くの人に、森の木を伐採することは良くないという刷り込みがあった。しかし、花粉が飛ぶ前の50年で木を切って花粉が飛ばないようにして、そこにちゃんと木を植え、30年たったらまたその木を使うというサイクルをつくりたい」と。
東京100年の森を未来の子供たちに繋げていきたいと考えているのです。
レポート!
森をみて、家を想う TOKYO WOOD バスツアー
TOKYO WOODバスツアー
大葉ナナコ実行委員と小嶋社長
グッドライフアワード実行委員会のお1人、大葉ナナコさん(一般社団法人 Design of Your Life 代表理事) と共に、TOKYO WOODのメンバーの皆さんの仕事ぶりを現地で体験できるバスツアーに参加しました。
自分の家に使われる木が林業家によってどのように育てられ、伐採現場、原木市場を経て、製材業者で加工されていく過程を、間近に見て、聞いて、触れることができます。林業の仕事に携わる方々から直接お話が聞けるツアーです。
森の案内役には 第5回グッドライフアワードで環境大臣賞優秀賞を受賞された東京チェンソーズの青木亮輔代表も参加
東京と言えばビルが立ち並び、緑とは無縁なイメージですが、実際には4割も森林が占めているのです。間伐材を含めた多摩産材の利用が広がれば、植林や育林の経費が生まれて、新たな森林をつくることができます。
植えた若い木は、よりたくさんの二酸化炭素を吸収しながら、大きな木に成長していきます。伐採した木材は住宅や木製品として利用することで、長期間炭素を貯蔵し続けるそうです。
また、多くの人工林では木材価格の下落などにより林業の採算性が悪化し、間伐が十分に行われなくなりました。森が荒廃すると、保水力がなくなり、豪雨時に雨水を短時間で大量 に下流域へ流出させてしまうなど、洪水や土砂流出による被害が大きくなる恐れがあることも学びました。
山から伐り出された丸太は、原木市場へ集まります。どの木も同じように見えますが、それぞれに違いがあり、目利きのポイントがあるそうです。
TOKYO WOODの柱は、強くしなやかにするために天然乾燥でじっくり時間をかけて 乾燥させていきます。天日干しで仕上げた檜は油分を含んでおり、とてもいい香りがするそうです。柱は強度検査を実施しており、十分に乾燥した粘り強く、しなやかな柱だけが出荷されます。
バスツアーを通じて、TOKYO WOODを使って家を建てたいと考えている家族の皆さんも、森の大切さを実感しているようでした。大葉実行委員は「TOKYO WOODの柱は、誰が植えて、誰が伐って、誰が加工したかがわかる、まさにトレーサビリティの木材なんですね!」と感想を述べています。
株式会社小嶋工務店のTOKYO WOODの取組は、東京の木を使い、東京の森を守り、東京の産業を促し、東京の環境にも配慮したサスティブナルな社会形成を目指しています。