南米チリに漂着した海藻を利用して天然の食物繊維「アルギン酸」を生産する会社です。アルギン酸は、様々な食品や医薬品に使われ、多くの人の健康で豊かな暮らしに貢献しています。また、チリの漁民から海藻を買い取り続けることで投機的な海藻乱獲を抑制し、漁民の貧困の解消に貢献しています。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
海藻由来の天然成分「アルギン酸」を製造する日本唯一のメーカー
株式会社キミカ
株式会社キミカは、海藻由来の天然成分「アルギン酸」を製造する日本唯一のメーカーです。 社員数は200名に満たない中小企業が、千葉県富津市、チリ、中国の三拠点で工場を操業し、食と医療の分野で業界の世界トップシェアを誇り、2021年には創業80周年を迎えました。
アルギン酸とは、海藻から抽出される天然の食物繊維。海藻の“ネバネバ”の元となっている多糖類で、食品や医薬品、化粧品、繊維染色、鉄鋼などの幅広い分野で物性改良剤などとして利用されています。
自然の摂理にあった形での事業を長年展開し、環太平洋といった地球規模での「森里川海のつながりが生み出す自然の恵み」がグッドライフアワード実行委員会の審査でも高く評価されました。
活動のきっかけは?
様々な食品や医薬品で利用されている「アルギン酸」とは?
アルギン酸
今回、お話を伺ったのは、株式会社キミカ プロジェクト推進室の笠原善太郎氏。 このプロジェクトの主役である「アルギン酸」についてお聞きしました。
株式会社キミカ プロジェクト推進室 笠原善太郎氏
「アルギン酸が使われている代表的な製品には、コンビニエンスストアなどで販売されているサンドイッチがあります。長時間冷蔵してもパサパサにならず、水分を多く含んだ生野菜をはさんでいるのに、パン生地はべっとりとしない。これは、アルギン酸の持つ保湿性と弾力性による効果です。」と笠原氏。さらに「歯磨き粉にも使用されています。歯磨き粉が適度な固形性を保ちながらも、口の中では溶けて水でゆすぐとパッと取れる。その立役者もアルギン酸です。」
このほかにもアルギン酸は、即席麺のしこしこ感を出したり、ビールの泡持ちを良くしたり、垂らした目薬を目の表面に留まりやすくしたり、歯科治療で歯型をとる材料に配合されたりするなど、様々な食品、化粧品、医薬品に使われています。
実は意外に身近な存在であるアルギン酸。キミカが開発するようになったのはどのような経緯なのでしょうか。
キミカは、現社長の笠原文善氏の父、文雄氏によって1941年に設立された君津化学研究所に由来します。当時、海岸に漂着する海藻を利用できないかと研究を重ね、海藻からアルギン酸を分離するのに、重力(比重差)を利用した 「浮上沈降分離法」という独自の製法を考案。特殊な処理をした海藻抽出液をタンクに静置しておくだけでアルギン酸を分離できるエコな方法を生み出しました。そして、戦後も一貫して「漂着海藻」からアルギン酸を抽出しています。
これは、利用されず朽ち果て大気に二酸化炭素を放出するだけの存在であった漂着海藻を「資源」に生まれ変わらせるビジネスモデルです。競合企業の多くは、「生きた海藻」を刈り取って利用するなか、環境に優しいだけでなく、キミカの競争力の原点となっているそうです。
成功のポイントは?
南米チリでサステナブルなビジネスモデルを確立
キミカは、もともとは創業の地である千葉県に漂着した海藻を利用していましたが、埋立工事が進んだため、長い間世界各地で優れた原材料の採取地を探した末、南米チリに漂着した海藻を利用することになります。 1980年代にチリに拠点を構え、30年以上、現地の漁民から直接海藻を買い取り続けて います。その量は年間12万トン(20億円相当)に及び、海藻を収集する漁民の生活を支えています。 かつて海辺の掘立小屋で貧しい暮らしを送っていた漁民たちは、いまでは街中に家を建て、子息を大学に通わせることもできるようになりました。
他国の競合他社が大型船で海藻を根こそぎ刈り取ってしまう方法を使っていることに比べて、キミカはライフサイクルを終え自然に海底から離れ浜に漂着した海藻を人の手でひとつひとつ拾い集める方法を採用、大きな手間とコストを掛けて海藻資源を保ちながら事業を行っています。しかし、キミカは、様々な工夫によって製造コストを抑制して競争力を強化し、サステナブルなビジネスモデルを確立したのです。
海藻からアルギン酸を分離する工程には高価な大型機械と大量の化学薬品を用いることが一般的ですが、キミカは独自に開発した「浮遊分離法」により、鉱物質のろ過助剤、大きな電力、大規模なろ過装置を使わない低コストで環境負荷の低い製造方法を実践しています。
この製造方法では、工場から出る海藻残渣(海藻のカス) に化学薬品がほとんど混ざっていないため、肥料として大地に還元することができます。 海洋成分を豊富に含む肥料は、農地へのミネラル補給に最適で、農作物の収量向上に大きく貢献します。
この肥料の一部は、地元チリの近隣の農家に無償で提供されているほか、ワイン用のブドウ栽培にも活用されており地元のサーキュラーエコノミーの実践に生かされています。
海藻残渣は 肥料として近隣の農家に無償で提供し 収穫量の向上に貢献
また、濡れた海藻は腐りやすいため、すぐに乾燥させる必要があります。漂着したばかりの新鮮な海藻は重量の9割が水分で、人為的に乾燥させようとすれば石油や電力などの膨大なエネルギーが必要です。 しかし、キミカは、チリの砂漠気候を利用した天日乾燥法により、化石燃料を消費することなく海藻を乾燥させています。この方法で、環境負荷を低減するだけでなく、コスト競争力も高めています。
海藻残渣を自然乾燥
今後の展望
医療分野などの研究開発に力を入れていく!
株式会社キミカ プロジェクト推進室の笠原善太郎氏
プロジェクト推進室の笠原善太郎氏によると、キミカは、グッドライフアワード環境大臣賞を受賞したことによって、メディアに取り上げられることも増えたそうです。アルギン酸が環境に優しい海藻由来の天然成分であることが知られるようになったおかげで大豆ミートなどのサステナブルフーズの開発に活用される機会も増えているといいます。また「“うちの会社は環境に貢献している”と社員自体の士気があがり、環境問題に関心をもつ大学生から就活のエントリーが増えてきた」と実感しているそう。
さらにこれからは、医薬品の分野などで、人々の健康に寄与する付加価値の高いアルギン酸の用途の開発を目指して、その為の研究にも力を入れていくそうです。
キミカは、こうして本業で環境価値と経済価値を両立してきました。SDGsの目標達成に貢献する傍ら世界トップメーカーの地位を確立した実績は日本政府からも「国際的なロールモデル」として評価されており、SDGsに取組むフロントランナー企業として注目を集めています。