兼松サステックは、伝統工法と最新技術によって、蘇らせた間伐材を地盤改良に使う「環境パイル」のプロジェクトを幅広くオープンに展開しています。この環境パイル工法は、地盤改良工事においてCO₂削減に高い効果をあげ、国産木材の利用促進に繋がると共に、国内林業の活性化や森林の保全にも寄与する脱炭素社会に向けた総合的な取組になっています。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
新築の地盤補強に「木材」を使用する
環境パイル工法とは?
「ジオテック」「木材・住建」「CCTVカメラシステム」を主な事業とする東京の老舗企業、兼松サステックは、木材保存処理技術を使用し、約5年間の開発期間を経て独自に開発した「環境パイル工法」のプロジェクトを2009年から推進しています。 一般的に家を建てる前には地盤調査を行い、地盤が弱い場合には地盤改良を行います。その中で、従来のセメントや鋼材を使わず、木材の杭で家を支える工法が「環境パイル工法」です。この環境パイル工法は、古くから日本に伝わる技術を最新テクノロジーでアップデートした「温故知新」の技術で、従来の工法に比べてCO₂削減効果が非常に高く、環境にやさしいことが最大の特長です。
この工法が環境にやさしい理由は、まず間伐材の有効利用が挙げられます。間伐を効果的に行うことで森林全体がより健やかに成長でき、森に吸収されるCO₂が増えます。しかし、間伐された木は放っておくと腐っていく過程でCO₂が空気中に排出されてしまいます。環境パイル工法では、この間伐材を地中に打ち込むことで地盤改良に利用し、放っておくと放出されるはずであったCO₂を大きく減らすことができるのです。
このように、間伐による森林の生長促進と間伐材の有効利用の2つの観点から、環境パイル工法は、CO₂の低減に大きく貢献しています。地盤補強の工事で地中に埋め込む杭をセメントや鋼材から木材に置き換えた場合、1棟当たり約10tのCO₂を削減でき、高い効果を上げています。
活動のきっかけは?
セメントよりも優位性を発見!
杭に木材を使うイノベーション
兼松サステック株式会社ジオテック事業部統轄取締役 水谷羊介氏
今回、「環境パイルは脱炭素社会に向けた斬新なイノベーションではないか」と高く評価する藤野純一実行委員と共に、兼松サステック株式会社ジオテック事業部統轄取締役 水谷羊介氏を取材しました。まず、環境パイル工法開発のきっかけについて伺うと意外な答えが返ってきました。実はその開発は偶然の産物だったのです。
「従来の地盤改良はセメントや鋼材の杭を使った補強工事がメインでした。2005年にその実用性などを確認するため、より古くからあり当時は廃れてしまっていた木材の杭を打ち込む工法との比較実験を行いました。すると、驚いたことに同形状の場合ではセメントより木材の杭を使った方が、優位性が高いという結果が出たのです。当初は、実験ミスではないかと疑いましたが、実験を数回繰り返しても木の地盤補強の結果がよかったのです。 その理由としては、木と土の相性がとても良いのではないかと想定しました。」と語ってくれました。
当時、木の杭が使われなくなった理由には、設計が明確にできないことや耐久性の問題などがあげられていました。そこで兼松サステックでは、約5年間の開発期間を経て、それらの課題をクリアし、地盤補強に木の杭を打ち込むという、古くて新しい工法を生み出したのです。
成功のポイントは?
年間5,000棟!環境への関心の高まり&技術情報の開示!
環境パイル工法が商品化されたのは、2009年。ちょうどその頃、地球温暖化防止京都会議における京都議定書の採択に「温室効果ガスを2008年から2012年の間に、1990年比で約5%削減すること」が話題となっており、環境問題への関心が国内でも大いに高まっていました。 水谷氏は「時代の後押しもあり、国の建築基準法をクリアし、土壌にやさしい環境パイル工法は徐々に評価が高まっていきました。その後のパリ協定やSDGsの一般化も影響していると思います。そして、2010年には大手のハウスメーカーが採用してくれました。現在では業界トップ10のうち、9社が環境パイル工法を採用しています。」と事業の好スタートを振り返ります。
また、「環境パイル工法を一社だけで独占して展開するのではなく、同業社を含めてソースコードを無料で開示して共有して展開したことも成功の大きなポイントでした。」とも語ってくれました。そのおかげで、この10年間で環境パイル工法は一気に普及しました。現在では全国で年間5,000棟、これまでに3万8,000棟の地盤改良を担っているそうです。
そんな環境パイル工法の4つのメリットをまとめてみました。
①長期耐久性
1つ目のメリットは長期耐久性に優れている点です。
木材には成形後に防腐・防蟻薬剤を加圧注入されます。これにより腐朽や白蟻を防ぐことができ、また長い年数がたってもその品質は持続します。ちなみに、この技術は木材を多用した新国立競技場や山手線の高輪ゲートウェイ駅の駅舎にも使われています。 使用する木材は、コンクリートと同程度の強度があり、10t以上の力で圧入しても折れません。この木材の品質はJAS性能区分やAQ(優良木質建材等認証)性能区分において屋外で高い耐久性があると認められています。また、土壌中の過酷な環境を想定した耐久性促進試験も行っており、処理済みの場合は、60年相当以上の耐久性を確認しています。
②安心・安全
2つ目のメリットは、安心、安全という点です。
環境パイル工法は、確実な品質と性能を証明する第三者認証を取得しています。また、使用している木材は環境にやさしい材料としてエコマークを取得しています。従来のセメントや鋼材に比べ、製造過程で発生するCO₂の抑制効果も大きく、間伐材有効利用として評価されています。
③CO₂削減
3つ目のメリットは、CO₂の低減に貢献する点です。
鋼材・セメントを用いた地盤改良では、材料の製造過程で1棟当たり約8tのCO₂が排出されます。一方、木材を用いた環境パイル工法では、木材の生育過程で約2tのCO₂が吸収され、鋼材・セメントを用いた地盤改良に比べ合計約10tのCO₂を低減できることになります。
④低コスト
4つ目のメリットは、低コストである点です。
環境パイル工法は、他工法に比べ施工期間が短いため、コストを低く抑えることができます。また、施工時に水を必要としないため、工事用水を用意するコストがかかりません。さらに残土が出ないため、残土処理費もかかりません。
今後の展望
プロジェクトが目指している事、今後やりたい事
最後に兼松サステックの水谷羊介氏と実行委員の藤野純一氏に、環境パイル工法の今後の展開と期待について語ってもらいました。
兼松サステック株式会社ジオテック事業部統轄取締役 水谷羊介氏
「今後は環境パイル工法の発展を通じて、地盤改良工事における環境問題だけでなく、間伐材の有効利用を推進することで国内の林業の発展に寄与できればと考えています。」
藤野純一実行委員(公益財団法人 地球環境戦略研究機関 上席研究員)
「環境パイル工法は、すごい工法ですね。木材保存の技術で蘇った間伐材がセメントや鋼材と同程度の強度をもって地盤改良に使われている。また、作るときにCO₂を出すのではなく吸収してしまう。それが毎年5,000棟の新築住宅に使われていて、日本の森林を元気にする素晴らしい技術でもある。ぜひ世界にもっと展開してもらいたいと思います。」
国土の約7割が森林の日本において、森林が地方創生に向けた貴重な産業創出の場として期待されています。その森林から生み出される木材による杭が地盤補強の工事で、セメント・鉄から置き換えた場合、1棟当たり10tのCO₂を削減できる高い効果を上げています。 国内の森林の活性化やサスティナブルな社会づくりに貢献する環境パイル工法は、グッドライフアワードの受賞をきっかけにハウスメーカーからの問い合わせも増しているそうです。