子供からお年寄りまで参加できる『スポGOMI』は、ゴミ拾いをスポーツとして楽しみながら環境問題に気付くことができる点が評価されて環境大臣賞を受賞しました。日本国内で開催される大会も増え、国境を越えて世界各地に「ゴミ拾いはスポーツだ!」という合い言葉が広がっています。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
環境美化とスポーツを融合した社会貢献イベント
『スポGOMI』とは「ゴミ拾いはスポーツだ!」を合い言葉に、チーム対抗の競技としてゴミ拾いを楽しむイベントのこと。自治体や企業などが主催者となる大会が多く、アイデアを考案し、競技としてのルールを策定した一般社団法人スポーツイニシアチブが運営を務めます。環境美化とスポーツを融合させて、気軽に楽しみながら参加できる「社会貢献活動」なのです。
3~5名でチームを組んで、競技時間は60分。拾い集めたゴミは、タバコの吸い殻、空き缶やペットボトルなどの資源ゴミ、燃えるゴミ、燃えないゴミなどに分別して計量し、集めた重さによってゴミの種類ごとに定められたポイントを獲得。合計獲得ポイントで勝者が決まります。チームのメンバー同士は10メートル以内の距離を保つこと。競技エリアが街の場合は「走らない(海岸や野山が会場の場合は状況次第)」こと。そして、スポーツマンシップに則ることというのが、スポGOMIのルールのあらましです。
スポGOMIには、子供からお年寄りまで誰でも気軽に参加できて、開会式などのスペースさえあれば街や自然のフィールドなどどこでも開催が可能。もともと、地域の自治体や企業、学校などでは社会貢献活動としてゴミ拾いを行う機会があったことから、地域を巻き込んだイベントとして参加者を集めやすいといった特長があります。
2008年に最初の大会を開催して以来、大会の開催数や参加人数は年々増加。2019年には1年間で139回の大会を開催し、活動開始からの累計参加人数はのべ10万人以上になりました。大会を主催するのは地方自治体や企業が中心ですが、学校が授業や地域との協働イベントとして実施するケースもあり、2019年に全国の地方大会を勝ち抜いた高校生が集結した『スポGOMI甲子園』のように、実行委員会を組織して開催するイベントも生まれてきました。
また、日本国内だけでなく、ロシア、韓国、ミャンマー、ベトナム、ハワイ、パナマなどからの要請もあってスポGOMI大会を開催するなど「ゴミ拾いはスポーツだ!」の理念は国境を越えて広がっています。
活動のきっかけは?
誰もが安全に楽しむためのルールを策定
スポGOMIのアイデアを考案したのは、現在もスポーツイニシアチブ代表を務める馬見塚健一さんです。2007年ごろのこと、当時、広告関係の事業をしていた馬見塚さんは、気分転換のために住んでいた横浜のみなとみらい地区で朝のランニングを始めます。すると、道ばたに落ちているゴミが気になって、自然にゴミ拾いをしながら走るのが習慣となりました。
しばらくゴミ拾いしながらのランニングを続けていると「道ばたに落ちているゴミがターゲットに見えてくる。慣れてくると、次は大腿筋を意識して拾ってみようとか、テーマを課してゴミ拾いをすることの楽しさに気が付いたんです」と馬見塚さん。「ゴミ拾いをスポーツにすると面白いんじゃないか」と発想し、仕事を通じて環境サークルの大学生と付き合いがあったことから、武蔵野大学の環境学部の学生とともに「ゴミ拾い×スポーツ」のルール作りを開始しました。
ルール作りで最も配慮したのは安全面への気配りです。最初は1チームの人数を10人ほどに設定しましたが、ことに街中での競技の場合、これでは人数が多すぎて危険ではないかということで、1チーム5名以下というルールが定まりました。また、単純に集めたゴミの量(重さ)を競うだけでは体力勝負になってしまって子供やお年寄りが参加しにくいことに気付いて、集めたゴミは分別して種類によってポイントを配分、タバコの吸い殻のポイントを高くするなど「誰でも参加できて競技性も損なわない」ポイント配分なども、試行錯誤の末に作り上げました。
計量の方法にも苦心したとのこと。最初は普通のヘルスメーター(体重計)にスタッフがゴミ袋を抱えて乗って計ったり、軽いものを計るためにスタッフが自宅からキッチンのはかりを持参して使ったりしたところ「あとでお母さんにすごく怒られた」ということもあったそうです。その後、寺岡精工という電子はかりなど業務用機器メーカーの協賛を得て、1gから30kg程度まで精密にはかれる計量器を調達。海外の大会にもこの正確な計量器は必須の持参品になっています。
また、スポGOMIで参加チームに配布(貸し出し)されるトングの『マジップ』は、新潟県三条市の永塚製作所の社長から相談を受け、ともに開発したゴミ拾い専用トングです。「普通の火バサミは先端が鋭利な金属なので危ないですが、マジップはグリップと先端がシリコン樹脂でコーティングされているので、誤って身体を突いても安全で、軽い力でもゴミを挟んで持ち上げやすい」ということで、スポGOMIでは公認トングとして採用しています。
成功のポイントは?
何よりも「楽しい」ことが一番の魅力
馬見塚さんが一般社団法人スポーツイニシアチブを設立して独立したのは2009年のことでした。前年、2008年5月、渋谷で開催した第1回のスポGOMI大会では、8つの大学の学生がチームを組んでの対抗戦として行って、日本女子体育大学バスケットボール部のチームが優勝。大会にはNHKの取材が来ており、優勝チームのインタビューでゴミ拾いに参加した理由を問われたメンバーが「スポーツとして仲間と一緒に楽しめるから」と答えているのを聞き、馬見塚さんは「スポGOMIの社会貢献イベントとしての可能性」にたしかな手応えを感じました。
その後、東京都荒川区で開催した大会では卒業記念で参加した小学6年生の女の子のチームが優勝して涙を流し、それを見守る親たちも泣き出してしまったことがあります。さらに、新潟県三条市での大会に参加した中学生がスポGOMIの楽しさを体感し「自分たちの学校でもやりたい」と発案。先生に相談して「安全のために校内でできることなら」となったのですが、校内にはそれほどゴミは落ちていません。では、校内で何かスポーツになる課題はないかと自分たちで考えて「スポーツ×落書き消し」のイベントを実施して、市長さんから感謝状をいただいたという知らせが届いたこともあるそうです。
ゴミ拾いという社会課題解決のために行動にスポーツというエッセンスを加えることで、楽しさやワクワク感、いい成績を収める喜びや、負ける悔しさなどを感じつつ、ゴミを通じて環境問題に対する「気付き」を得るきっかけにもなるのです。きちんとしたルール作りをしたことで、ゴミ拾いがちゃんとスポーツの競技として成立していることが、スポGOMIが世界に広がるほど支持されているひとつ目のポイントになっています。
スポGOMIの活動を始めた当初は「競技時間は1時間だけど、1~2分ならオーバーしても大目に見るか」と考えることもあったそうです。でも、神奈川県葉山町での大会の際、参加していたウィンドサーフィンのプロの方から「スポーツなら制限時間を守るのは当然」と指摘されて以来、制限時間は厳格に適用するのがスポGOMIのモットーになっているそうです。
もうひとつ、スポGOMIそのものがもつ「特長」が、多くの自治体や企業がスポGOMI大会に興味を示す理由になっています。まず、ゴミ拾いは環境問題であると同時に、スポーツという健康増進の側面があることで、自治体の複数の部署にとって開催する意義があるイベントになります。競技時間は1時間と定めているので、開会式や表彰式を含めたイベント全体でもおよそ3時間程度で簡潔に実施できるイベントであることも、多くの自治体がスポGOMI大会を開催しやすい理由といえます。
馬見塚さんにとってスポGOMIはビジネスでもありますが、マジップ(専用トング)や計量器などの備品を上手に使い回したりするなど工夫して、コンパクトな予算で運営を受託できる態勢を整えています。
チームを組んだり大会を構築したりする中で、関係者のコミュニケーションが深まるのもメリットのひとつ。エンタメ業界のライバル会社が集まって年に一度、スポGOMI大会に参加する会社の本社がある街を会場に持ち回りで開催したり、グループ企業が関係会社同士の交流を深めるためにスポGOMIを恒例行事にしたりしている例もあります。
レポート!
チームワークと戦略が勝利のポイント
2020年2月16日(日)、東京都墨田区の江戸東京博物館で開催された『スポGOMI大会 in 両国~江戸のリサイクルから学ぼう』を現地で取材してきました。主催は東京都環境局。東京都環境局では、ゴミ問題や環境問題への都民の理解を深めるために、年に5回程度開催している『環境学習講座』のプログラムとして、近年、スポGOMIを実施しています。
この日のスポGOMI大会は、2008年から数えて記念すべき第800回大会でした。朝からあいにくの雨模様でしたが、22チーム、83名が参加。1時間で約35kgのゴミを拾うことができました。
さて、実際に競技が始まると、参加チームのみなさんは江戸東京博物館を中心としたかなり広いエリアに散らばります。そこで取材班は、ソーシャル活動を応援するプロジェクトに関わる仲間が集まった『チーム KIYOME』というチームに密着させていただきました。競技スタート前の作戦会議では衛星写真アプリを活用して周辺の街並みをチェック。近くの両国駅前の繁華街を中心に「ほかのチームが行かない場所を狙う」という作戦が決定しました。
降りしきる雨の中、競技が始まると『KIYOME』のメンバーは全員がパワフルに移動しながら、次々と道ばたのゴミを拾っていきます。街中なので走るのはルール違反ですが、雨対策でポンチョを着込んでいたこともあり、写真を撮りながら付いていくだけでこちらも汗だくになってしまうほど。「なるほど、これはスポーツだ」と実感することができました。
計量の結果、『KIYOME』の5人が集めたゴミはなんと9.07kg(1チームで全体の3割近い量。発表の瞬間は会場がどよめきました)で優勝でした。5人それぞれが集めるゴミの種類を分担し、繁華街に的を絞った作戦が大成功でした。スポGOMIで好成績を挙げるための大切なポイントを伺うと、「なんといってもチームワークですね。サッカーのポジションのように役割分担したり、狙いを定めて効率的に動いたりするチームが強いと思います」と馬見塚さん。その言葉を裏付けるような『KIYOME』の圧勝でした。
大会には「何度も参加している」というご家族などが何チームもいらしたことも印象的でした。「小学校2年生の時に参加して、3年生になった今年も参加しました。スポGOMIに参加してから、通学途中などでもゴミが落ちている街が気になるようになりました」(世田谷区から参加の小学生)というように何度も参加する人が多く、また、参加して体験した人が「今度はうちの会社で開催したい」と新たなスポGOMI大会を企画するなど、体験や口コミで広がっていくのもスポGOMIが楽しいからこそのことです。
一般社団法人ソーシャルスポーツイニシアチブでは、スポGOMIだけではなく『スポーツ雪かき』や『スポーツ落ち葉拾い』など「スポーツ×社会貢献活動」の幅を広げています。
「スポGOMIの究極の目標は世界中の街から落ちているゴミをなくすること。そうなるとスポGOMIはできなくなるわけですが、いつかそんな日が実現できることを信じて、もっともっと多くの方と一緒にスポGOMIを楽しんでいきたいですね」(馬見塚さん)
楽しみながら環境問題に気付き、社会課題解決に貢献する。スポGOMIの楽しさが、グッドライフな輪をさらに広げてくれることに期待しています。
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