再生可能エネルギーの発電所を消費者が選んで応援できる「顔の見える電力」を提供。発電者と消費者とをつなぐ新しいライフスタイルを推進し、地域循環共生圏*の担い手となっている取り組みが、環境大臣賞最優秀賞に輝きました。2019年には個人住宅へのサービス内容も拡大。再生可能エネルギー利用拡大の仕組みがさらに広がりつつあります。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
ブロックチェーンで消費者が
発電所を選べるサービスを実現
多くの市民が参加する発電所見学ツアーも恒例行事。
みんな電力株式会社は「顔の見える電力」をキャッチフレーズとして事業を展開する電力会社です。全国各地に存在する太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー発電所と連携し、電力の消費者は応援したい発電事業者を自由に選ぶことができます。
消費者と発電事業者を結びつけるサービスは、暗号化された取引情報を的確に管理する「ブロックチェーン」を組み込んだ『エネクション2.0』をいうシステムを完成させたことで可能になりました。このシステムによって発電量と需要の量をマッチングさせ、契約した消費者は自分がどの発電所からどんな電気をどれだけ買っているのかを明確に知ることができます。
2016年の自由化とともに、電力小売り事業に本格参入。2020年3月現在、およそ200カ所の発電所をネットワークして、最大50万kWhの電力を調達し供給しています。サービス開始以来、まずは法人を中心に需要を広げ、供給先は3500件以上。供給先の企業には、丸井グループ、TBS、三菱自動車工業、ビームス、パタゴニア日本支社などの著名な企業が名を連ねています。
また、グッドライフアワード環境大臣賞受賞も契機として、これからは個人の住宅への供給を広げていくことにも意欲的に取り組んでいます。現状ではまだ個人にはブロックチェーンによる電力トレーサビリティの提供は行っていませんが「2020年中にも個人契約の方にも利用いただけるようにしたい」(大石英司社長)ということです。さらに、2019年からは個人住宅の太陽光発電の固定買い取り価格制度期限が終了する、いわゆる「卒FIT」電力をみんな電力が買い取るプラットフォームの提供を始めるなど、急進する再生可能エネルギーシフトの実情を見据えて、次々と新しいチャレンジも始めているのです。
再生可能エネルギーの普及に取り組む各地の発電事業者のほとんどが、地域振興への深い思いも抱いています。電力供給を通じて、電気を生み出す各地の物産などと消費者を結びつけ、地域振興を応援するのもみんな電力の目標のひとつです。たとえば、神奈川県横浜市と下北半島にある青森県横浜町(人口約4200人)を結びつける「横横プロジェクト」が2019年9月にスタートしました。
おもに風力発電所で作った電気を横浜市内の中小企業などが使用する取り組みですが、同時に横浜市内で多くの人が訪れる山下公園の『氷川丸』でも、横浜町の風力発電の電力を使用していることを現地の看板やウェブサイトなどでアピールしています。さらに、丸井グループが自社の「自然エネルギー利用1周年」を記念して、下北半島の特産品を紹介する『電気と食の物産展』を開催しました。知名度を広げるという意味でも、本州北端に近い小さな町にとっては横浜市との連携が力強い「応援」となっているのです。
ファッショナブルなセレクトブランドであるビームスジャパンでは東京都内の3店舗でみんな電力を通じて主に福島県南相馬市の野馬土発電所の電力を使用しています。さらに、みんな電力が供給する地方産の自然エネルギー由来の電気とともに各地の物産を陳列し販売する、いわば「電気のセレクトショップ」コーナーを開設(2019年に新宿のショップで実施)するなど、発電事業者だけでなく、利用する企業などの「消費者」も連携した取り組みが広がっています。
世界に先んじて実用化した電力のブロックチェーン技術を礎として「顔の見える電力だけでなく、旬の特産品をはじめ、衣食住すべてにおいて顔の見えるライフスタイルを構築したい」(大石社長)というのが、みんな電力が目指しているグッドライフなのです。
ソーラーシェアリングなど地域に貢献する発電所が多いのも特徴です。写真は神奈川県小田原市の『おひるねみかん発電所』。
山形県米沢市の『みつばち発電所』。
ビームス店舗の特設コーナー。
電力トレーサビリティグラフの表示例。
活動のきっかけは?
誰でも電気を作れる時代になったら面白い!
2019年9月、マルイファミリー溝口店(神奈川県川崎市)での『電気と食の物産展』風景。
大石英司社長が「電気のビジネスをやってみよう」という着想を得たきっかけは2007年ごろのことでした。当時、大石社長は印刷会社の会社員として電子書籍関連の新規事業開発を担当していました。ある日、電車の中で携帯電話の電池が切れそうになった時、目の前に立っている女性がソーラーパネル式の携帯電話充電器をキーホルダーで鞄にぶら下げているのを目にしたのです。
「この女性が作った電気なら、携帯電話の充電1回200円で買ってもいいなと思ったんです」と大石社長。思いを巡らせるうちに「それまで大手電力会社から電気を買うのが常識とされていましたが、誰でも電気が作れてそれを使える時代になったら面白い」という発想へと広がり、再生可能エネルギー発電や電気に関するビジネスの準備を進めていました。会社設立は2011年5月。東日本大震災の直後であったのは、運命的な偶然と言えるかもしれません。
ベンチャー企業としてスタートを切ったものの、具体的なビジネスモデルは手探り状態だったそうですが、エコ検定の合格者コミュニティを運営している友人から、エコ民謡で環境意識の啓蒙活動をしているエネギャルこと、永峯恵さんを紹介されて、創業メンバーとして一緒に活動を始めます。
すると、週刊誌が見開きで特集してくれて、その記事に注目した世田谷区から再生可能エネルギー啓発活動への協力依頼が舞い込みました。一方で、産業用太陽光発電事業も始め大型太陽光発電所設置案件などの受注が増加。世田谷区とは太陽光発電施設設置のコンサルティングや、区の施設への電力供給などにも協業が広がり、みんな電力の事業は徐々に軌道に乗っていきます。
エコ民謡で啓蒙活動を続ける永峯恵さん。
実は、起業当初から現在の「顔の見える電力」小売り事業を構想していたわけではありません。大きな転機となったのが、2016年の電力小売り自由化でした。みんな電力では電力小売り事業への参入を企図して、2015年にはベンチャーキャピタルからの出資を得て『エネクション』の独自開発に着手。当初、外注のベンダーに製作を依頼しようとしましたが、費用が高く、開発期間も掛かりすぎるなどの壁に阻まれます。
でも、前職時代から新規事業開発のプロフェッショナルとして、誰も手を付けたことのない白紙の上に、どうやって新しいビジネスモデルを描いていくかというノウハウに精通していていた大石社長は、急遽、フリーランスで有能なアプリケーション開発者と直接契約し、なんとか、2016年の自由化にシステム開発を間に合わせることができました。
まずは法人への電力供給事業がスタートすると、2016年6月には『銀座のサヱグサ』(第6回グッドライフアワード環境大臣賞企業部門受賞)がみんな電力を選択、その紹介で『アップルストア銀座』にも電力供給が始まりました。その後も、伊勢神宮の『おかげ横丁』、丸井グループ、ビームス、TBSラジオ(TBSホールディングス)など、著名な企業などが続々と趣旨に共鳴、みんな電力の供給先ネットワークが広がっていったのです。
創業直後に発売した手のひらはつでんグッズ。
世田谷区上祖師谷には自社で太陽光発電所を設置。
永峯さんによる世田谷区内での講演風景(2012年)。
成功のポイントは?
面白くて、儲かることだけをやる
『みつばち発電所』(山形県米沢市)にて。
みんな電力の取り組みが順調に広がってきた背景には、東日本大震災と福島第一原子力発電所の事故を受けた日本国内の再生可能エネルギーシフトへの機運の高まりや、世界的なESG投資(環境=Environment・社会=Social・ガバナンス=Governance に配慮した企業の投資)への注目度の拡大、2015年に国連で採択された「SDGs」にコミットする企業のニーズなど、まさに時代に後押しされた側面があることは間違いないでしょう。
とはいえ、時代の後押しだけではビジネスを広げることはできません。まず、大石社長が明言するのは「面白くて、儲かることをやる」というモットーです。ソーシャルな取り組みと向き合うとき、ついつい「いいことなのだから採算は度外視で」と考えてしまうことがあるのではないかと思いますが、ベンチャーキャピタルや多くの出資者から資金を集めたビジネスですから「儲かる」ことが大前提となるのは当然のことです。また、どんなに「いいこと」であっても、適切な利益を得られるビジネスモデルになっていなければ、持続可能とは言えません。
ただし、自分が儲かるだけではこれだけ多くの企業が電力供給先に名を連ねるほどの共感を広げることはできません。たとえば「再生可能エネルギー100%の顔の見える電力」という面白い「価値」を提供しているからこそ、ほんの数年で、これだけ多くの企業が連携し、ひいてはそれぞれの企業が率先して「みんな電力の再生可能エネルギーを使っている」ことをアピールするようになったといえます。
みんな電力のサービスは、みんな電力が事業を持続する利益を生み出すだけでなく、提携する発電所、利用する電力供給先の企業や個人にも「価値」という「儲け」を提供しているからこそ、支持が広がっているのです。
また、ベンチャー企業らしいフットワークの軽さとチャレンジングスピリットも、みんな電力の強みになっています。「テクノロジー側の言い訳には聞く耳を持たない。お客様の要望に気を配り、できることを着実に実現していく。お客様にやってほしいといわれることが、私たちにとっての正義です」と大石社長。短期間でのシステム開発の成功を起点として、前述の『横横プロジェクト』や卒FITプラットフォームをはじめ、個人向けに低圧電力契約でも再生可能エネルギー100%の「顔の見える電力」を使えるプランを始めるなど、環境大臣賞受賞からほんの数か月の間にも、次々と新しいプロジェクトやサービスが立ち上がっています。
個人の家庭にとって新電力への切り替えは「電気料金が安くなるなら」といったケースが多いでしょう。でも、大石社長は「価格競争はせず、価値で選んでいただけるようにしていきたい」と明言します。たとえば、円谷プロと連携した『かいじゅうのでんき』は、環境に優しい自然エネルギーの電力を使うと、オリジナルの怪獣グッズなどの特典を得ることができる個人向けのサービスです。
価格競争をしないのは、闇雲に最安値を競わないということであり、みんな電力の価格が高くてもよいということではありません。従来の電力料金に比べればお得である上に、気候変動対策という意義はもちろんのこと、「面白い」と多くの人が感じるユニークな「価値」を提供するということです。
大石社長自らTBSラジオに出演。メディアにも注目されています。
発電所では再生可能エネルギー普及と地域の社会課題解決に取り組む人が頑張っています。『みさき太陽光発電所』(福島県南相馬市)にて。
レポート!
千葉県のソーラーシェアリング発電所を訪ねました
広い耕作放棄地にソーラーシェアリングの発電所がいくつも設置されていました。
取材ではまず、東京都世田谷区内にある本社オフィスを訪ねました。業務拡大に伴い2019年3月に移転したオフィスにも、さまざまな「面白さ」が表現されていました。
まず、エントランスホールの壁面は社名ロゴの背後にコンセントがびっしりと敷き詰められて並んでいます。もちろん、すべて通電しており、スマホの充電もできるそうです。コンセントびっしりの壁面には「コンセントの先を考えたことがありますか?」という、みんな電力からのメッセージが込められています。
本社エントランスの壁面コンセントは実際に使うことができます。
本社内に設置された『スナック 再生』はコミュニケーションスペース。
グッドライフアワードの益田実行委員長もみんな電力本社を訪ねました。
打ち合わせスペースの一角には、ちゃぶ台と縁側がある昭和レトロなスペースが設えられており、近くに設置された飲料の自動販売機のボタンには飲み物の産地が表示されています。紙コップは間伐材を原料にしたものを使用。会社の目標である「顔の見えるライフスタイル」を具現化した空間になっているのです。
さらに、みんな電力らしさの真骨頂ともいえるのが、昭和レトロな空間となっている『スナック 再生』と名付けられた一室です。室内(店内?)にはカウンター、さらにはミラーボールが回り、本物の昭和なスナックの雰囲気が演出されています。ラックには全国各地にある発電所近郊地域特産のお酒が並んでいます。
社内にスナックを作ってしまったのは、コミュニケーション円滑化のため。社員同士はもちろん、取引先や顧客のみなさんとも打ち解けて幅広い本音の意見を交換することが、新たな「面白さ」の発見に繫がるということでしょう。この『スナック 再生』は、お客様の要望が正義と断言する大石社長の思いが詰まった空間ともいえそうです。
スナックの席でさらにお話しを伺うと、「みんな電力のアセット(資産)は、ITシステムと人材、そして新しいチャレンジへのアイデアとノウハウです」と大石社長。ちなみに、「ノウハウ」について補足しておくと、限られた人材で先駆的なチャレンジに突っ走る中で、複雑な事務処理などを効率的にこなしていくためのノウハウが期せずして磨かれていくとのことでした。
本社でお話しを伺った後には、電力調達先の発電所のひとつを見学しました。伺ったのは、千葉県匝瑳市の『市民エネルギーちば』が設置して運営するソーラーシェアリング発電所です。
市民エネルギー千葉では、2014年ごろからパネルオーナーを募って複数のソーラーシェアリング発電所を設置、2017年には別会社を設立してAC出力1000kW(DC1200KW)の『匝瑳メガソーラーシェアリング第一発電所』などを開設しています。みんな電力と連携しているのは『パタゴニア×みんエネ 低圧1号機』という設備容量AC出力49.9Kw(DC61.6kW)の発電所。みんな電力を通じてパタゴニアのショップに電力を供給する仕組みです。
現地では、代表の東光弘さんと、ともに代表を務める椿茂雄さんがお話しを聞かせてくださいました。広大な農地を開墾したものの、諸事情から近年は耕作放棄地の増加が深刻な課題だったとのことで、日本で考案されたソーラーシェアリングは地元の農家の方々にとっても期待のプロジェクト。固定価格買取制度はいずれなくなることも予測できるので、みんな電力との連携でパタゴニアのような世界的企業との関係を構築し、広げていけることには大きな意義があります。
短時間の取材(見学)ではありましたが、東さんや椿さんの地域振興、そして再生可能エネルギー普及に取り組む熱い思いを感じることができました。みんな電力の電力調達先は200カ所以上。つまり、全国各地のこうした発電所に、お2人のように真摯に取り組むキーパーソンが存在していて、みんな電力のネットワークで繫がっているということです。
もちろん、供給先の企業にも同じように脱炭素社会への決意を秘めたキーパーソンがいらっしゃるはずです。大石社長がアセットのひとつとして挙げた「人材」には、自社の社員ばかりでなく、こうした発電所や供給先企業の環境意識の高い人材ネットワークという意味が含まれているに違いありません。
「1000カ所の発電所と、1000社のメジャーな企業クライアントを繋げば、強力なネットワークが構築できると思いませんか」と大石社長。さらに今後は、多くの個人ユーザーがみんな電力の価値に共感する応援者として加わります。みんな電力のネットワークの広がりが、日本の再生可能エネルギーシフトの原動力になっていくことに期待しています。
フォトギャラリー
市民エネルギー千葉(千葉県匝瑳市)の東光弘さん
本社オフィス内の飲料自販機には飲料の産地が表記されています。
オフィスロビーには、人力発電のマシンも!
縁側のあるお座敷にちゃぶ台が置かれた打ち合わせスペース。
プロモーションビデオ