スマートフォンアプリを通じて飲食店や利用者が参加しやすく、フードロス削減という社会課題解決への具体的アクションを広げていることが評価され、環境大臣賞優秀賞を受賞しました。ユニークなビジネスでサステイナブルな社会への変革を目指す取り組みは『地域循環共生圏*』の実現に向けて意欲的な事例です。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
スマホアプリで飲食店で廃棄される食品をレスキュー
『TABETE(タベテ)』とは、フードロスを削減するためにスマートフォン用アプリケーションを活用して(ウェブサイトでも利用可能)提供されているサービスです。登録している飲食店が、今まであれば廃棄するしかなかった「おいしくてまだ安全にいただける食品」を、お得なセットなど独自のメニュー商品として出品。利用者はアプリ上でクレジットカードによる決済をした上で、購入した商品を店舗で受け取るという仕組みになっています。
店頭に並べて販売するため、毎日の営業でどうしても余ってしまうパンやお弁当などの「中食」系食品。また、レストランで急なキャンセルが出たり、ビュッフェで提供した料理が余ったりするケースなど、料理や食品を扱う店舗や飲食店では日常的に少なくない量の食品廃棄を行っているのが現実です。
『TABETE』のサービスを活用することで、飲食店としてはフードロスを減らして追加の売上を獲得できます。利用者としては、お得においしい食品を購入しながら、フードロス削減という社会課題解決に貢献できます。飲食店と利用者、どちらにとってもメリットがある点、社会課題を解決するために有効な具体的なサービスである点、さらに店舗側もユーザーも手軽に利用しやすい点が、グッドライフを実現するための取り組みとして高く評価されたポイントです。
2018年4月のサービス開始から約3年。ベータ版(試験的サービス)開始時に10店ほどだった登録店舗数は、2019年末で約510店舗に、2018年12月に8万人だった利用者数は約20万5000人にまで広がっています。サービス開始から2020年3月までの約2年間で、レスキューした食品(利用件数)は約2万食になりました。登録している店舗の場所は東京都内が中心ですが、金沢、名古屋、浜松、大阪など全国各地へ拡大中。2020年3月からは、兵庫県神戸市と連携して神戸でのサービスも開始されました。
活動のきっかけは?
啓蒙活動だけではアクションは広がりにくい
『TABETE』を運営している株式会社コークッキングは、料理をテーマにした企業研修やワークショップなどの運営をしている会社です。代表取締役の川越一磨さんは、学生時代から和食料理店でアルバイトとして働き始め、4年間継続して料理人としての修行を積み、2014年に大学を卒業後、大手チェーン飲食店に就職して飲食店運営のノウハウを学びます。その後退職し、学生時代の専攻であった「まちづくり」の研究で縁が深かった山梨県富士吉田市に移住、空き家をリノベーションしたコミュニティカフェなどを立ち上げながら、2015年12月、株式会社コークッキングを起業しました。
2016年ごろからはスローフード(地産地消や地域の食文化を大切にする)の活動に参加、フードロス削減の啓蒙活動にも携わるようになりました。とはいえ「啓蒙啓発活動だけではなかなか具体的なアクションは広がらない」ことを痛感。何かいい方法はないものかと調べる中で、デンマークで始まり、ヨーロッパを中心に12カ国ほどで展開している『Too Good To Go(トゥー・グッド・トゥー・ゴー)』というサービスの存在を知りました。「Too Good To Go」を日本語にすると「捨てるにはもったいない」といった意味になります。Too Good To Go は、そのままでは捨てるしかない食品をスマホアプリを通じて消費者がお得に購入できるシステムの草分けです。川越さんは「これを日本でも実現したい!」と決意して、『TABETE』のアプリケーション開発に着手したのです。
アプリ開発を始めたのは2017年の春ごろのこと。最初はアプリケーションの制作会社に外注して、2017年9月にはベータ版を公開します。ところが、思ったような使い勝手になっておらず、改良を加えていこうとすると思わぬほどのコストや期間を求められました。
「新しいサービスを構築するには、小回りの効く開発で改善を繰り返すことが大切です。でも、外注による開発ではそれが難しかった。スタートアップに外注という方法は合わないと痛感しましたね」と川越さん。有能なフリーランスのエンジニアと出会えた好運もあり、その後はそのエンジニアを自社のスタッフとして内部での開発態勢を確立。きめ細かなアップデートを重ね、2018年4月に本格的なサービスを開始することができました。
サービス開始時の登録店舗数は100店舗ほどでした。あらかじめ参加してくれることを約束した大手チェーンがあったわけではありません。川越さんをはじめとする数名のコークッキングスタックが、都内を中心とした個人経営の飲食店に電話してアポイントを取り、一軒一軒を訪ね歩き説明して参加を呼びかけていったそうです。
また、当初はアプリの利用手数料を一件につき「販売金額の35%」に設定していましたが、手頃な価格設定の商品を出品しやすくするために「一律1件150円」に変更するなど、アプリや仕組みを改善しながら、登録店舗や利用ユーザーを広げつつあります。
成功のポイントは?
地域や企業のキーパーソンとともにサービスを拡大中
環境省による『地域循環共生圏』の提唱や、国連で採択された『SDGs(持続可能な開発目標)』達成に対する社会的機運の高まりが、フードロス解決を目指す『TABETE』の追い風になっています。各地の自治体や企業にもSDGsへの取り組みに真摯なキーパーソンが存在し、そうした人や組織との繫がりが、『TABETE』に参加する飲食店や「街」の広がりに結びついているのです。
たとえば、石川県金沢市でサービスを開始したのは、メディアに紹介された『TABETE』を知った金沢市の担当者から川越さんに「金沢でもサービスを始められないか」と問い合わせがあったことがきっかけでした。まだ社内のリソースに余裕がないことを伝えると、数か月後、再びその担当者から「登録店舗や利用者を募る作業は金沢市内の代理店に委託する予算を計上できた」と連絡があり、サービスを立ち上げることができました。
何度かは川越さんやコークッキングのスタッフが金沢へ出向いて打ち合わせなどを行ったものの、サービスが軌道に乗ってからは週に何度かネットを通じた定例ミーティングを行うことで、高いマッチング率(出品された食品をユーザーが購入すること)でサービスの利用者が広がっています。新しく進出する地域で飲食店の参加誘致や利用者募集などは自治体やで現地のパートナー企業と力を合わせる方法は、今後、『TABETE』の登録店舗エリアを拡大していくためにも活用できるケーススタディとなるでしょう。
2020年1~2月には、JR東日本との協業プロジェクトとして、東京駅のエキナカ(鉄道駅構内の商業スペース)施設『グランスタ』などで、飲食店の営業終了後にまだ食べられる食品を駅で働く従業員のみなさんに販売する『レスキューデリ』と名付けた実証実験を行って好評でした。
実証実験はいったん2月で終了しましたが、エキナカの飲食店は、一般の利用者が『TABETE』を利用する際にも利便性が高く、より利用率の高いサービスを展開できる特長があります。コークッキングでは、JRに限らず「私鉄関連のデベロッパー各社とも連携できるようプロジェクトの可能性を拡げていきたい」(川越さん)と、エキナカでの『TABETE』登録店舗拡大に取り組んでいます。
アプリのローンチ(サービス開始)からまだわずか2年ほどしか経っていません。「飲食店のフードロスはビジネスとして利益を追求する中で生じている課題です。それを解決するためには、ビジネスとしてきちんとマネタイズできる仕組みとして『TABETE』を広げていくことが大切だと考えています」という川越さんのビジョンからすると、『TABETE』の現状を「成功」と定義するのはまだ早すぎるのかも知れません。
コークッキングと川越さんにとって、現在はまだベンチャーキャピタルなどから資金を調達しながら『TABETE』を育てている途上です。2021年夏ごろまでに、登録店舗数を1万店舗の規模にして、ビジネスとして軌道に乗せることが目標です。さらに『TABETE』のプラットフォームを世界に広げ、2025年までにはアジア各国の主要都市でサービスを展開することを構想しています。
『TABETE』が理念として掲げているのが「お店よし、食べ手(利用者)よし、地球よし」で「みんながハッピーになる社会派のサービス」であることです。まずは、サービスの利用者とレスキューする食品を増やし、フードロス削減により貢献していくためにも、店舗が登録しやすいサービスであることが重要です。コークッキングにとってもビジネスなので前述の手数料(1件150円)は必要ですが、初期費用や月額費用、クレジットカードの決済費用などは全て無料でサービスを提供しています。
川越さんをはじめするコークッキングのスタッフはもとより、登録店舗や協業する自治体や企業のキーパーソン、そして利用者それぞれの「フードロスを減らす」という目的への思いこそが、これからも『TABETE』を成長させていく原動力となっていくのでしょう。
レポート!
手軽に活用できるサービスであることを実感
2020年2月、東京都内で実際に『TABETE』に登録している飲食店の現地取材を行いました。
最初に伺ったのは、世田谷区の東京農業大学のキャンパス内で生活協同組合が運営する学生食堂『カフェテリア グリーン』です。このお店では、ランチタイムなどにビュッフェ形式で料理を提供しています。そこで余った揚げ物をスタッフがパッケージに詰め直し、『ミックスフライ盛り合わせ』として『TABETE』に出品していました。学生食堂なのでもともと安価ではありますが、この『ミックスフライ盛り合わせ』は800円相当の料理を350円で提供し、学生のみなさんに喜ばれています。
「そもそも廃棄を少なくするように計画調理はしているのですが、どうしても余ってしまう料理が出ます。『TABETE』を活用することで、学生の利用者にも喜んでいただきながら、フードロスを減らせるメリットを感じています。また、店のスタッフはもちろん、学生のみなさんにとっても、『TABETE』のサービスを知ることがフードロスをはじめとする社会課題への意識をより高めてくれています」(店長の中村牧穂さん)
テーブルに置かれたPOPには、学生たちのフードロスなどに対する意識調査アンケートを行う特設サイトにアクセスできる二次元バーコードが掲示されていました。社会課題を学生の「自分ごと」にしていくためにも、学食が『TABETE』に参加する意義は大きいと感じます。コークッキングでは、大学の学生食堂などへのネットワーク拡大にも注力しています。
続いて訪ねたのは、前述の『レスキューデリ』の舞台ともなった東京駅構内の『グランスタ』です。東京駅のエキナカには数多くの飲食店があり、『TABETE』にも多くの店舗が登録しています。
今回の取材では、ベーカリー『BURDIGALA EXPRESS(ブルディガラ・エクスプレス)』、サンドイッチやスイーツも人気のセレクトショップ『DEAN & DELUCA(ディーン・アンド・デルーカ)』、タイ料理をテイクアウトできる『マンゴツリーキッチン ガパオ』と『マンゴツリーキッチン パッタイ』、ベーカリー『ブランジェ浅野屋』、同じくベーカリーの『デイジイ東京』と、6店舗を訪問。エキナカの飲食店なので、気軽にテイクアウトできるパンやお弁当を中心に、『TABETE』でレスキューされる食品のバリエーションの豊富さを実感することができました。
取材に伺った『ブルディガラ・エクスプレス』では、「フィナンシェ&フロランタン 4個セット」が650円で出品されていたので、実際にレスキューしてみました。
スマホの『TABETE』アプリで表示されている店舗名を選び、「現在レスキュー待ちの商品」が表示されたら、引取予定時間や購入個数を記入、「お会計してレスキューに向かう」をクリックすると、アプリ上でクレジットカード決済をします。店舗に到着したらアプリ内の受け取り画面を提示して「レスキューを完了する」ボタンを店員さんにクリックしてもらって商品を受け取るという流れです。使ってみると、とても簡単で便利なサービスであることが実感できました。
ただし、利用者は実際に商品を受け取るため店舗へ足を運ぶ必要があります。日常的な行動エリア内に多くの『TABETE』登録店舗があることが、『TABETE』のサービスがより広がっていくための必須条件になるであろうことを感じました。また、そのままでは廃棄される食品を出品するのですから、ひとつの店舗から毎日のように大量の出品があるのも好ましいとはいえません。より多くの店舗と利用者が参加して、『TABETE』のサービスを上手に活用していくことが大切です。
飲食業の世界ではともすれば「必要悪」として見過ごされてきたフードロスを削減するための具体的なアクションとして、『TABETE』の利用者、そして登録店舗がますます増えていくことに期待しています。
フォトギャラリー
『TABETE』アプリ
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