廃校となった小学校跡地を利用して生ごみ・し尿・浄化槽汚泥から電力や熱を取りだし液肥を生み出すバイオマスセンターを建設。旧校舎を地域住民が集う場所として再生し、液肥で育てた地元農作物の生産販売を推進するなど、資源循環型のまちづくりに取り組んでいます。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
バイオマスセンターを拠点に循環のまちづくり
みやま市バイオマスセンター『ルフラン』は、2016年に廃校となった旧山川南部小学校の校庭だった場所に建てられています。バイオマスセンターとは、生ごみなどをバイオマス資源として活かし、メタン発酵させることで電力や熱を取り出す施設です。
ルフランに運び込まれた生ごみなどは下処理を経てメタン発酵槽へ送られます。ここで発生したメタンガスは、発電と熱利用を併用するコージェネレーション発電設備によって、施設内の電力や温水として利用されています。
発酵の際に精製される液肥『みのるん』は地域の農家や家庭菜園を楽しむ市民に無料で提供されて、田んぼや畑の優れた有機質の肥料として活用しています。地域の生ごみなどから電気や温水、液肥が生まれ、その液肥で育てた地元産の農産物が学校給食や家庭の食卓に並び、資源循環の環(わ)を織りなしているのです。
「ルフラン」は、フランス語で「refrain=繰り返し」を意味する言葉です。今までは焼却していた生ごみなどを資源として繰り返し活用し、地域循環の街づくりを実践して、生み出される液肥を通じて地産地消の推進にも結びつけていこうとする取組を象徴する施設になっています。
小学校の元校舎は、地元住民が気軽に活用できる研修室などとして活用されています。職員室にはこのプロジェクトを担当するみやま市環境衛生課のオフィスが設置され、校長室や保健室は食品加工所やカフェに生まれ変わりました。カフェスペースでは地域の有志の方が日替わりで出店し、手軽で安価に地産地消のおいしい料理を楽しめるようになっています。また、料理教室や音楽ライブなども開催されて、地域住民が集うスペースとしても活用されています。
運び込まれた生ごみは不適切な混入物がないか丁寧にチェックされます。
微破砕された生ごみは浄化槽汚泥などとともにメタン発酵槽に送られます。
メタン発酵槽(右)と、処理から生まれた液肥を蓄える消化液貯留槽(左)。
液肥『みのるん』は地産地消の農作物を育てるために活用されます。
液肥の散布風景。
市内各所に液肥ステーションが設置され、市民は家庭菜園などに無料で利用できます。
活動のきっかけは?
再生可能エネルギー活用の模索から発展
地域の住民にとっては懐かしいかつての小学校跡を活用。
バイオマスセンター『ルフラン』を軸にした「資源循環のまちづくり」が構想されたのは、2011年の東日本大震災と津波による原子力発電所事故が発端となりました。日本全国で地域分散型の再生可能エネルギー活用の機運が高まり、みやま市でも環境政策の転換を見据えて、太陽光、風力、小水力、バイオマスなど地域の再生可能エネルギー導入可能性調査を実施。未利用資源である生ごみ・し尿・浄化槽汚泥によるメタン発酵発電(バイオマス)による資源循環プロジェクトに着目したのです。
地域の住民にとっては懐かしいかつての小学校跡を活用。
メタン発酵発電による資源循環プロジェクトの選択には、実は身近な「先例」がありました。同じ筑後地区にある大木町で、『ルフラン』と同じバイオマス発電施設である『おおき循環センター くるるん』(第8回グッドライフアワード 優秀賞を受賞しました)が平成18年(2006年)から運用されて、効果的な実績を挙げていたのです。
周辺には一般住宅も多い小学校跡地に生ごみ・し尿・浄化槽汚泥を資源化する施設を建設する計画には、少なからず住民から疑問や反対の声もありました。でも、メタン発酵によるバイオマス施設では、施設外に気になる臭いが広がるようなことはなく、大木町の「くるるん」も町の中心部に位置する『道の駅おおき』に隣接しています。
「臭いがするのではないかと気になる人は大木町の施設を見てください。廃校になった小学校をバイオマス循環施設として活用することで、懐かしい校舎が市民のための憩いの場として生き返るのです」
当時の市長はそんな言葉で『ルフラン』の意義を説明し、住民の理解を得ることができました。
地域の住民にとっては懐かしいかつての小学校跡を活用。
成功のポイントは?
ゴミ焼却などとのコストメリットを創出
生ゴミの収集日は地域ごとに週2日。
『ルフラン』のバイオマス発電は、施設内で使用する電力の約6割を賄っています。当初、地域分散型の再生可能エネルギー活用導入の手段として検討が始まったのですが、電力供給という点だけにこだわっていないことが、この取組が実現した大切なポイントになったといえるでしょう。
バイオマスセンターの計画に当たって、みやま市では「現状のし尿処理施設を残して焼却施設を新設」するケースと「生ごみを分別し、し尿処理施設を廃止して循環施設(バイオマスセンター)と小規模な焼却施設を新設」するケースを想定してトータルのコストを試算。バイオマスセンターを新設するプランのほうが、初期コストで約10億円、毎年の運用経費でも約1.7億円近く節減できることがわかりました。
さらに、『みやま市バイオマス産業都市構想』を策定し、環境活動に理解が深い市民エコサポーターと環境衛生課の職員が協力して『ルフラン』計画の説明会を実施。生ごみ分別の仕組みや、「資源循環のまちづくり」が目指す方向性などについての理解を広げていきました。
可燃ごみの焼却施設の老朽化は、みやま市にとって深刻な懸案でした。最終的に、隣接する柳川市と共同で運用する焼却施設を新設することとなり、令和4年(2022年)春の稼働開始を目指して建設が進んでいます。新しい焼却施設の建設費は、令和4年の焼却ごみ排出量(重さ)で負担割合が決まることになっているのですが、生ごみを分別することで焼却ゴミの重さが格段に減ることで、負担額が小さくなるというメリットも予測されています。
脱炭素、持続可能な地域社会づくりを考えるとき、再生可能エネルギーによる地域電力の創出や、エネルギー地産地消の仕組みは大切です。でも「資源循環のまちづくり」、すなわち地域循環共生圏の実現へと視野を広げると、地域が目指すべき方向の選択肢が広がるのです。行政としてのコストを俯瞰して、地域住民と理念を共有し、合理的なプロジェクトとして取組を構築したことが、成功のポイントとなっているのです。
生ごみステーションに専用の蓋付きポリバケツを配置。
収集車で『ルフラン』へ運びます。
レポート!
生ゴミ分別を通じて暮らしの「当たり前」を変革
かつての教室の一部は研修室などとして活用。
取材ではもちろん『ルフラン』を訪問。収集された生ごみが処理される様子のほか、旧校舎を有効に活用している現場を拝見し、計画段階から市民への理解を広げるために協力し、キーパーソンとなった方々にお話しを伺うことができました。
みやま市液肥利用者協議会の会長である山田一昭さんは、『ルフラン』で生産される液肥『みのるん』を有効活用する方法を実践的に模索してきました。もともと、肥沃な筑後平野に位置するみやま市で農業は基幹産業です。山田さんは、稲を収穫したあとの田んぼで液肥を使って菜の花を育て、菜種を収穫し、収穫後の茎や根はすき込んで米や麦や大豆を育てる方法を考案。「早春の菜の花畑をみやまの新しい風物詩にしたい」と、液肥を活用した農業の輪を広げる取組を続けています。
みやま市液肥利用協議会会長の山田一昭さん。
みやま市農業委員会会長の徳永順子さん。
『ルフラン』の計画当時、市の環境審議会委員に就任、現在はみやま市農業委員会会長を務める徳永順子さんは、市内の耕作放棄地で液肥を使った菜の花栽培を推奨し、その菜種から搾油した菜の花オイルをブランド化して、地元の道の駅などで販売する取組を進めています。
液肥『みのるん』は、地域の農産物である水稲、麦、ナス、菜種、レンコン、筍などの栽培に広く活用され、住民による食味テストでも「液肥を使った野菜や米はおいしい」という評価を得ています。六次産業化や、施設などでの雇用創出など、『ルフラン』は「循環」だけではない効果をもたらしているのです。
実際に、生ごみが収集される様子も見学しました。生ごみを収集する専用の蓋付きの桶が地域の決められた場所に置かれ、地域毎に決められた週2日、収集車が生ゴミを集めていきます。
住民は家庭内で生ごみを分別して収集日まで保管したり、プラスチックや金属類など生ごみ以外が混入しないようにしたり、食品類であっても卵の殻や貝殻などメタン発酵を阻害するものは取り除く必要があるなど、それなりの手間が掛かります。
でも、もちろん市民のみなさんは『ルフラン』と「資源循環のまちづくり」の意義と目標を理解して協力しています。『ルフラン』の処理施設では運び込まれた生ごみから不適切なものを取り除く作業を見学しましたが、野菜の大きな塊などを細かくするといった作業が中心で、プラスチック類など不適切なゴミの混入はほとんど見られませんでした。
『ルフラン』が稼働を始めたのは2018年12月。それからおおむね2年が経過して、市民の「当たり前」が変わってきていることを感じました。本当に持続可能な社会を実現するためには、毎日の「当たり前」を、循環型社会に見合ったライフスタイルに変革することが重要です。生ごみから電気や液肥を生み出すだけでなく、多くの市民の当たり前を変えていく、この取組の意義を実感できる取材となりました。
旧校舎の1階にはカフェスペースも。
地域の有志が日替わりで出店しています。
市内の道の駅みやまでは、液肥を使って栽培した菜の花オイルなどを販売。
プロジェクトの立ち上げ当初から熱意をもって取り組むみやま市環境衛生課の松尾和久課長。グッドライフな取組の進展には、キーパーソンの存在も大切です。
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