西日本鋼管株式会社インタビュー
価格競争から抜け出す。
メーカーとエンドユーザーのハブとなり、
脱炭素をビジネスチャンスに変える西日本鋼管の挑戦
西日本鋼管株式会社は、鋼材販売を本業とする鉄鋼商社です。
現在は、メーカーが持つCO₂排出量のデータをお客様が活用できる形に見える化し、その結果を踏まえて低炭素鋼材を提案・提供するビジネスモデルを展開しています。
鋼材の販売にとどまらず、メーカーとエンドユーザーをつなぎ、脱炭素を新たな付加価値や事業機会へと結び付けています。
左から 藤木 明様(代表取締役)
久保田 要様(営業部 課長)
脱炭素経営に関心はあっても『何から始めればよいか分からない』『専門知識やコストが必要ではないか』『まだ急いで取り組む必要はないのではないか』と感じる中堅・中小企業も少なくありません。
西日本鋼管株式会社は、脱炭素を新たな事業機会へと結び付ける独自のビジネスモデルを展開していますが、最初から脱炭素の専門知識や現在のような事業モデルを持っていたわけではありません。
『価格競争から抜け出し、自社ならではの新しい価値をつくりたい』という意識を起点に、試行錯誤を重ねながらできることから取組を広げ、新たな事業機会へとつなげてきました。
既存設備を生かした段階的な導入や、外部の専門知識の活用など、中堅・中小企業でも始められる具体的な取組と考え方についてお話を伺いました。
インタビュー実施日:2026年7月30日
価格競争から抜け出したい。新たな付加価値を求めて始めた脱炭素
そもそも、なぜ脱炭素経営に取組もうと考えられたのでしょうか。
藤木様当社は鋼材販売を本業としていますが、鋼材は製品自体での差別化が難しく、価格競争に巻き込まれやすいという課題がありました。そこで、『価格だけで比べられない新しい価値をつくりたい』と考え、まず脱炭素に着目しました。
西日本鋼管株式会社のビジネスモデル
(同社HPより引用)
脱炭素を「対応すべき課題」ではなく、事業機会として捉えられたのですね。
藤木 明様(代表取締役)
藤木様脱炭素は、コストや負担として捉えられがちです。しかし当社では、製品に環境負荷の低減という新しい価値を加えることで、販路拡大や収益向上にもつなげられるのではないかと考えました。『脱炭素を負担ではなく、事業のチャンスにする』という考えのもと、脱炭素を事業の成長につなげようとしています。
また、お客様に脱炭素を提案する立場として、自社でも排出量の削減目標を設定し、SBT認定(企業が設定する温室効果ガス排出削減目標の国際的な認定)を取得するなど、排出削減に向けた取組も行っています。
脱炭素に向けた活動を始めた後、どのように現在の事業モデルへと発展していったのでしょうか。
藤木様お客様との対話を重ねる中で低炭素鋼材に着目しました。さらに、その削減効果を分かりやすく伝えるため、製品ごとのCO₂排出量の見える化も開始しました。
こうして、低炭素鋼材の提供とCO₂削減効果の見える化を組み合わせた現在の事業モデルへと発展していきました。
脱炭素経営の事業を進める中で専門知識の必要性が高まり、2025年10月から専任担当者を配置しました。
最初から十分な知識や体制をそろえていたのではなく、取組を進めながら必要な体制を整え、現在は蓄積した知識を営業活動にも活用しています。
CO₂排出量の見える化から、実際に「減らす」までも支援。商社だからこそできる脱炭素支援
久保田 要様(営業部 課長)
現在は、どのような形でお客様の脱炭素を支援されているのでしょうか。
久保田様当社では、メーカーから得たCO₂排出量のデータを活用して、お客様の製品のCO₂排出量を見える化し、その結果を踏まえて低炭素鋼材を提案・提供しています。
排出量の見える化だけで終わらず、実際の材料の切替えまで支援できることが、商社である当社の強みです。
低炭素鋼材を使用して製造されたパンフレットスタンド
黒い部品は低炭素鋼材を使用している
藤木様こうした役割を通じて、メーカーとお客様をつなぎ、具体的な排出削減や製品の付加価値につなげていきたいと考えています。
『メーカーとエンドユーザーのハブになる』ことが、当社の目指す姿です。
例えば、当社の製造するパンフレットスタンドをお客様にご提案する際は、低炭素鋼材を使用した部分を黒、従来材の部分をシルバー又は白に色分けし、どの部分を切り替えたのかを一目で分かる見本をご用意しています。
全てを一度に変えるのではなく、切り替えやすい部分から始められることを、実物を提示しながらお客様に説明しています。
低炭素鋼材への切替えは、全ての部材を一度に変更する必要はありません。
当社では、部材ごとに分析し、比較的切り替えやすく、コスト上昇を抑えられる箇所から段階的に提案しています。
低炭素鋼材への切替えでは材料費が上がる場合もありますが、その増加分は製品全体では限定的です。CO₂削減という環境価値を販売価格に反映できれば、新たな利益につながる可能性があります。
<価格転嫁できた場合の試算例>
1台4kg・販売価格1万円の製品を例に試算します。
このうち2kgを低炭素鋼材へ切り替え、材料費が1kg当たり100円上昇した場合、追加コストは1台当たり200円となります。
この材料の切替えによって、製品1台当たりのCO₂排出量を40%削減できる場合、その環境価値を価格に反映し、販売価格を1万円から1万1,000円とすることができれば、追加コスト200円を差し引き、800円の利益増となる試算です。
環境価値を販売価格に反映した場合の
価格転嫁のイメージ
見えない価値を、どう伝えるか。コストの壁を、どう越えるか。
左から 藤木 明様(代表取締役)、
久保田 要様(営業部 課長)
低炭素鋼材の提案やCO₂排出量の見える化を進めていく中で、直面された課題はありますか。
久保田様脱炭素に関する事業を進める上では、大きく2つの課題がありました。1つ目は、低炭素製品は見た目では従来品との違いが分かりにくく、CO₂削減という付加価値がお客様に伝わりにくいことです。
2つ目は、低炭素鋼材は従来材より価格が上がるため、採用のハードルが生じることです。
お客様に低炭素製品の価値を伝えるために、どのような対応をされているのでしょうか。
藤木様『どれだけCO₂を減らせたのか』を具体的な数値で示し、目に見えない環境価値を分かりやすく伝えることを重視しています。
低炭素鋼材の認知度はこの1年で大きく高まり、脱炭素が求められる背景や必要性も以前より説明しやすくなりました。一方、認知度が高まるだけでは実際の採用にはつながらないため、CO₂削減効果や追加コストを具体的に示すことも重要です。
コスト面のハードルを下げ、実際の採用につなげるためには、どのような工夫をされているのでしょうか。
久保田様全てを一度に低炭素鋼材へ切り替えるのではなく、コスト上昇を抑えやすい一部の材料から始めることを提案しています。
既存設備や製造工程を変えず、材料を切り替えるだけでも大きな削減効果が期待できることを、具体的な数値でお伝えしています。当社のシミュレーションでは、原材料のみを低炭素鋼材へ切り替えることで、従来品比で約83%のCO₂削減効果が確認できました。
原材料を低炭素鋼材へ切り替えた場合の
CO₂削減効果シミュレーション
こうした数値を示すことで、原材料の切替えが、大規模な設備変更を伴わずに取組める削減方法の一つであることを具体的にお伝えしています。
低炭素鋼材の活用をより普及させていくためには、今後どのような対応が必要だとお考えですか。
久保田 要様(営業部 課長)
久保田様実際の採用を広げていくためには、まず一つでも具体的な事例をつくることが重要だと考えています。
実際に、業界に先駆けて低炭素製品を採用したいというお客様との案件も生まれています。こうした事例を積み重ねることで、脱炭素が企業の強みや差別化につながることを示していきたいと考えています。
藤木様また、お客様に効果を説明するだけでなく、自ら販売につながる事例をつくる必要があると考え、8月からパレット事業部を立ち上げます。
低炭素鋼材を使った製品を製造企業に生産いただき、当社が自ら販売する事業を始める計画です。
低炭素鋼材は、品質を維持したまま既存の設備や工程を活用でき、必要な量から試験的に導入できます。大規模な設備投資を伴わず、環境配慮型製品を生み出せる点も、お客様にお伝えしている利点の一つです。
今後は、ご協力いただける中堅・中小企業を増やし、脱炭素製品を継続的に展開できるサプライチェーンの構築を目指しています。
要請を待たない。中堅・中小企業でもできるところから始める
大手企業から具体的な要請を受ける前から、脱炭素経営に関するお取組を進めているのはなぜでしょうか。
藤木様大手企業から具体的な要請が来るのを待つのではなく、自分たちから先に動くことに価値があると考えています。
当社のような中堅・中小企業が先行して、製品ごとのCO₂排出量の算定・見える化に取組み、企業規模にかかわらず始められることを示したいと考えています。
実際に脱炭素経営を進める上では、専門的な知識やスキルの不足が課題になる企業も多いと思います。御社では、必要な知識をどのように補ってこられたのでしょうか。
藤木 明様(代表取締役)
藤木様まず最初に、自社が持っている強みと、不足している知識を整理しました。
私自身、製造業の経験があり、製品がどのような工程で作られるかについては理解していますが、脱炭素に関する専門知識は十分ではありませんでした。
そのため、製造に関する知見は自社で担い、脱炭素に関する専門的な部分は、外部サービスの力を借りることにしました。
全ての知識やスキルを自社だけでそろえる必要はないと考えています。
まず、自社に何ができ、何が不足しているかを把握した上で、不足する部分を外部の専門家やサービスによって補うことが重要です。
外部の知見を活用する取組の一つとして、環境省の「バリューチェーン全体での脱炭素化推進モデル事業」にも参画されていますね。
参画された背景を教えてください。
藤木様そうですね。モデル事業には、外部の知見を取入れ、自社の事業モデルをさらに発展させたいという考えから参画しました。専門的な助言を得ながら現在の事業推進の妥当性を検証し、より実効性を高めたいと考えています。
※西日本鋼管株式会社は環境省「令和8年度 バリューチェーン全体での脱炭素化推進モデル事業」に参画(「バリューチェーン全体での脱炭素化推進モデル事業」への参加企業・支援機関及び業界団体等の決定について | 報道発表資料 | 環境省)
脱炭素から広がった、新たな成長の可能性
脱炭素を事業に取り入れたことで、事業面ではどのような変化がありましたか。
藤木様これまで接点のなかった企業との商談や、新しい連携の話が増え、『景色が変わってきた』と感じています。こうした新たな機会を今後の事業成長につなげていきたいと考えています。
脱炭素を成長戦略の一つとして位置付け、その延長として、将来的には売上高の更なる増加を目指しています。
金融機関等からも、脱炭素事業を成長戦略の柱とすることで、事業拡大に具体性が生まれるとの評価をいただいています。
今後も、脱炭素を事業機会として捉え、持続的な成長につなげていきたいと考えています。
メッセージ
最後に、脱炭素経営に挑戦しようとされている企業の皆様に向けて、メッセージをお願いします。
藤木 明様(代表取締役)
藤木様脱炭素は、難しい制度対応やコスト負担として捉えられがちですが、価格競争から抜け出し、新しい付加価値を生み出す事業機会にもなります。
当社も、できることから始め、不足する知識は外部の力も借りながら進めてきました。
企業規模にかかわらず、脱炭素を成長や差別化につなげる機会はあります。
まずは一歩踏み出し、事業の可能性を広げていただきたいと思います。
最後に
西日本鋼管株式会社では、メーカーから提供されたCO₂排出量のデータをお客様が活用できる形に整理し、低炭素鋼材による削減効果を見える化することで、脱炭素を製品の新たな価値や事業機会へとつなげています。
自社内に十分な専門知識がなくても、不足する知識は外部の力を活用して補うことで、既存設備を生かしてできるところから一歩ずつ進めることができます。
西日本鋼管株式会社の事例は、中堅・中小企業にとっても、自社がすでに持っている技術、製品、顧客接点、サプライチェーン上の情報に、脱炭素の視点を加えることで、新たな価値や強みを生み出し、事業の成長につなげられる可能性を示しています。