GVCニュース
GVCニュース 第1号
脱炭素経営フォーラム(2025年度)開催報告
― バリューチェーン全体で進める、脱炭素経営の最前線 ―
2026年3月5日(木)、環境省主催の「脱炭素経営フォーラム(2025年度)」を、大手町三井ホール(東京・千代田区)にて対面とオンラインのハイブリッド形式で開催しました。令和7年度の環境省モデル事業の成果を、参加企業・自治体・業界団体等から報告し、バリューチェーン全体での脱炭素化に向けた実践的な議論が交わされました。
開会挨拶・基調講演
開会挨拶では、環境省 地球環境局長 関谷 毅史が、国内外の情勢が変化する中でも我が国の気候変動対策の方針に変わりはないことを強調。2050年ネットゼロおよび新たな2035年度60%・2040年度73%削減目標の達成に向け、官民を挙げてGXを進めていく方針を示しました。
続く基調講演「サステナビリティ情報開示の潮流について」では、ニッセイアセットマネジメント株式会社 執行役員チーフ・コーポレートガバナンス・オフィサーの井口 譲二 氏が登壇。2025年3月にSSBJが公表した日本初のサステナビリティ開示基準について、2027年3月期からの段階適用により、プライム上場市場の時価総額ベースで約8〜9割の企業がカバーされる規模となること、Scope3を含むGHG開示も対象となることが解説されました。投資家側はScope3について「完璧を求めず、できるところから着手し、対話を通じて段階的に拡充する」姿勢であり、本基準の対象企業のみならず、そのバリューチェーン上の中堅・中小企業にとっても重要な動きであることが共有されました。
セッション① バリューチェーン全体での脱炭素化支援事業
3年目を迎える本事業では、算定段階から削減フェーズへと支援対象がシフト。当日は企業3社・業界団体3団体が登壇しました。
■ 企業発表
株式会社アクタス
コクヨグループのインテリア企業として、SBT認定を機にサプライヤーエンゲージメントに本格着手。商社・木工家具・繊維系の3社と取り組む中で、海外拠点との意思疎通や経営層の理解確保が大きな課題となったと報告し、獲得したノウハウを業界全体に広げていく方針を示しました。
(発表資料:株式会社アクタス)
SMC株式会社
「Scope3を2030年までに33%削減」を目標に、サプライヤー4社と省エネ診断・合同講習会・費用対効果可視化のための『MACカーブ』を活用。サプライヤー4社で約8%の削減計画が積み上がり、横展開時のScope3 カテゴリ1(購入した製品・サービス)の削減ポテンシャルが確認されました。省エネ・省資源によるコスト削減との両立が、サプライヤーを動かす鍵と位置付けています。(発表資料:SMC株式会社)
三起商行株式会社
ホットスポットである染色加工に焦点を当て、専業メーカーと連携。染色3社との実証では、節水型染色機の導入により染料・助剤を約40%削減して同等品質を実現するなどの成果を得ました。業界全体のアライアンスにより、日本製品の付加価値を品質と環境価値の両面で高めていく必要性が示されました。(発表資料:三起商行株式会社)
■ 業界団体発表
全国農業協同組合連合会(JA全農)
畜産品を取り扱う企業のサステナビリティ部署メンバーで気候変動等の課題に共同で取り組む畜産酪農サステナビリティラウンドテーブルを組成し、生産者・サプライチェーン事業者の双方が活用しやすい算定ガイド・算定ツールを整備。家畜が棚卸資産・固定資産として計上される畜産業特有の事情に対応し、農林水産省の「みえるラベル」との連携も進めています。(発表資料:全国農業協同組合連合会)
一般社団法人日本衛生材料工業連合会
紙おむつメーカー9社・19名が参加し、業界共通のCO2算定基準・算定方法を策定。ホットスポット分析では不織布・吸水ポリマーの排出量が大きいことが判明し、サプライヤーである吸水性樹脂・不織布メーカーとのエンゲージメントへと展開しました。(発表資料:一般社団法人日本衛生材料工業連合会)
日本製薬工業協会
内資・外資13社が参加し、業界共通のエンゲージメント実践ガイドラインを策定。流通の複雑性、温度管理など医薬品特有の制約を踏まえ、カテゴリ1のみならずカテゴリ4(輸送)、カテゴリ10(販売した製品の加工)など医薬品特有のカテゴリも算定方法に取り上げました。
パネルディスカッションでは、業界として取り組むことが「業界共通のソリューション提供」「会員企業の意識醸成」「ビジネスパートナー側の負担軽減」につながり、CO2削減と業界振興を両立させる強いインセンティブとなる、との認識が報告されました。(発表資料:日本製薬工業協会)
セッション② 地域ぐるみでの脱炭素経営支援体制構築事業
本年度は、令和6年度に地域ぐるみでの脱炭素経営支援体制「今治モデル」を確立した愛媛県今治市と、その横展開先である内子町・八幡浜市の3地域が登壇。モデル地域から展開先地域への横展開という新たなチャレンジが報告されました。
今治市(モデル地域)
今治モデルは、①緩やかな連携、②意識変容→行動変容→行動サポートの一貫したプログラム、③修了者を市が「今治グリーンフェロー(バリグリ)」として認定する人材エンパワーメント、の3つの特徴を持ちます。本年度の事業ではマニュアル化に加え、横展開先の自治体に足繁く通い、現場に伴走する「人」と組み合わせることで初めて機能した、と振り返りました。(参考資料:今治市)
内子町(横展開先)
人口約1万4千人の小規模自治体。脱炭素推進体制の構築途上にある中、内子町の深刻な担い手不足という地域課題と組み合わせ「脱炭素経営と人材獲得」をテーマに展開。参加企業から「コスト削減と脱炭素経営の関係が理解できた」との声を得るとともに、地域事業者への働きかけ不足という課題の解像度を高めることができました。(参考資料:内子町)
八幡浜市(横展開先)
人口約3万人、柑橘栽培・漁業が盛んで温暖化の影響が基幹産業に直結する地域。各支援機関のトップが集まる「やわたはま脱炭素推進コンソーシアム」を設立し、中堅・若手職員も同じプログラムに参加することで、来年度以降の自走に向けた体制を構築しました。
パネルディスカッションでは、「全てをそのまま取り入れず、地域に合う部分を見極めて取捨選択する」(八幡浜市)、「広域自治体(愛媛県)との連携により県内水平展開の可能性が現実味を帯びている」(今治市)といった示唆が報告されました。(参考資料:八幡浜市)
セッション③ 製品・サービスのライフサイクルを通じた温室効果ガス排出量算定・表示推進事業
4年目となる本事業では、本年度『中学生からわかるCFP』『CFP人材育成ガイド』『CFP共通ルール策定ガイド』『算定報告書掲載プラットフォーム』など、初学者から実務者まで幅広い層に届く成果物の整備が進められました。
■ 業界発表
TOPPAN株式会社/プラスチック容器包装業界
ZACROS・大日本印刷・東洋製罐・TOPPANの4社と2団体で、プラスチック製容器包装のCFP算定ルールを策定。算定ルール本体に加えて『解説書』、具体的な算定事例、顧客向け『情報提供シート』を整備し、初学者でも使えるよう工夫しました。プラスチック容器包装リサイクル推進協議会HPおよびGVCプラットフォームで公開しています。(参考資料:TOPPAN株式会社)
日本化粧品工業会
会員8社・15名が参加し、業界統一の化粧品CFP算定ルールを策定。必須要件と推奨要件を区別した汎用性の高い設計とし、化粧品全般を対象とする代表的な使用・輸送・廃棄処理シナリオを整備、海外ルールとの整合性も確保しました。2026年2月に発行済みで、今後は算定事例集・Q&Aリスト・ワークショップ等へ展開予定です。(参考資料:日本化粧品工業会)
株式会社I-ne
昨年度のCFP算定モデル事業をベースに、本年度は主力商品『BOTANIST モイストシャンプー』のボトル・パウチへのCFP表示と消費者反応の実証実験を実施。Webアンケート調査では、CFPを「知らない/聞いたことはある」層ではブランド好意度が、「内容まで知っている」層では購買意欲が、それぞれ最も大きく向上しました。CFPは数値の表示だけでなく、企業が取り組む背景や文脈とともに伝えることが重要との示唆が得られました。(参考資料:株式会社I-ne(ゲスト登壇))
■ 地域発表
しずおかカーボンニュートラル金融コンソーシアム
静岡県内の地域金融機関・経済団体・行政機関等で構成する官民連携組織。CFPへの取組を「守りのCFP」と「攻めのCFP」に整理し、後者を強調することで企業の前向きな取組を引き出す手応えを得ました。アルミ缶リサイクルの山一金属の事例では、再生アルミ箔原料のインゴットのCFPが既存商品より大幅に削減できる見込みを確認しています。(参考資料:しずおかカーボンニュートラル金融コンソーシアム)
SAGA COLLECTIVE協同組合
佐賀県の伝統産業10種・11社からなる協同組合。Scope1・2は3年間で約25%削減し、残余分を地元の自然由来カーボンクレジットでオフセットする『カーボンクレジット地産地消モデル』を確立。本年度は6社のCFPを算定し、家具のコーヒーテーブルでは佐賀県産材使用品が米国輸入材使用品と比べ約8kg- CO2の削減効果があることを数値で実証しました。(参考資料:SAGA COLLECTIVE協同組合)
各省庁による施策紹介
閉会挨拶 ― 環境省の今後の取組
環境省 脱炭素ビジネス推進室 小野 裕永より、モデル事業を通じて見えてきた構造的課題と、今後の取組方針が示されました。素材由来のCO2が排出の大きな部分を占める一方、その脱炭素化はコストアップを伴うケースが多いという課題に対し、環境省では今後、①消費者の行動変容を促す普及啓発、②バリューチェーン連携の強化(大企業が中堅・中小サプライヤーを技術的・人的に支援するメニュー整備、関連ガイドライン整備等)の取組を進め、原価低減と脱炭素投資の両立を実現する仕組みづくりを推進していく考えを示しました。(参考資料: 環境省)
資料・アーカイブ動画
本フォーラムのプログラム詳細、登壇者のプレゼンテーション資料、アーカイブ動画は、環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」内『勉強会・イベント資料』ページよりご覧いただけます。
なお、2026年度はGVC会員交流イベントを2回(7月、12月)、脱炭素経営フォーラムを1回(3月)開催予定です。詳細は本ウェブサイトのほか会員向けのメール等でご案内予定です。今後も会員の皆様とともに、バリューチェーン全体での脱炭素化に向けた取組を推進してまいります。