ミズノ株式会社インタビュー
理念を起点に、循環型ものづくりに挑む―
ミズノが描くサステナビリティ経営のかたち
ミズノの取組は、理念に根ざした経営と、現場での地道な実践、そしてパートナーとの協働によって支えられています。
創業以来受け継がれてきた「利益の利より道理の理」という価値観を原点に、取引先やパートナーとの協働を通じて実践を積み重ね、持続可能な未来に向けた確かな歩みを築いています。
左から 池永 浩一郎様(法務室 サステナビリティ推進課 エキスパート)
村上 喜弘様(執行役員)
染原 洋介様(ワークビジネス事業部 アパレル企画ソーシング・生産管理課 課長)
松田 智代様(法務室 サステナビリティ推進課 課長)
ミズノ株式会社は、創業以来受け継いできた価値観を原点に、サステナビリティを経営の中核に据えた取組を進めてきました。
社員一人ひとりへの継続的な教育や、サプライヤーとの対話を通じたエンゲージメントに加え、佐川急便株式会社、帝人フロンティア株式会社との協働による完全循環型リサイクルの実証など、三社協働で取組を展開しています。
今回は、スポーツやものづくりを通じて社会課題の解決に挑み続けるミズノのサステナビリティ経営と、その実践の現場についてお話を伺いました。
インタビュー実施日:2025年12月26日
『自分に何ができるか』を考える組織へ―ミズノの環境経営の歴史
村上 喜弘様(執行役員)
御社のサステナビリティ戦略の位置づけを教えてください。
村上様当社は、サステナビリティを単なる取組の一つではなく、経営の中核として位置付けています。
創業以来、当社には「利益の利より道理の理」という創業者の考え方があり、この価値観は現在も社員一人一人に受け継がれています。
その原点を踏まえながら、自社の技術やサービスを通じて社会課題の解決に貢献することで、ステークホルダーの期待に応えていくことを重視しています。
そのためにも、事業の持続可能な成長を目指すことが不可欠であり、その中心にサステナビリティの取組があります。中でも環境への対応は重要なテーマで、当社では1990年代前半から環境への取組を継続し、いつでも、誰もがスポーツを楽しめる地球環境を次世代に引き継ぐことを目指してきました。社員の行動や考え方に根付かせるため、社内浸透に向けた取組も実施しています。
今後も環境をはじめとするサステナビリティへの取組を、経営の重要な柱として位置付けていく考えです。
社内浸透に向けた取組はどのように行っているのでしょうか。
染原 洋介様(ワークビジネス事業部 アパレル企画ソーシング・生産管理課 課長)
村上様当社では月に2回、社員向けの教育の時間を設けており、「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する」というパーパスの理解促進や、ステークホルダーとの向き合い方、事業に関連する法制度や社会的要請など、様々なテーマについて学ぶ勉強会を実施しています。環境やサステナビリティに関するテーマも定期的に取入れ、社員一人一人が理解を深められるようにしています。
染原様私自身、入社以来こうした教育を受けてきたため、サステナビリティを意識することは特別なことではなく、日常の一部になっています。
「何かをやらなければならない」という意識よりも、日々の業務の中で「自分に何ができるか」を自然に考える姿勢が浸透していると感じています。
3社協働で挑む完全循環型リサイクル
御社が佐川急便株式会社様、帝人フロンティア株式会社様と連携して進められている完全循環型リサイクルシステム(※1)の実証について、詳しくお聞かせいただけますでしょうか。
染原様両社と共同で、佐川急便様の使用済みユニフォームを新たなユニフォームの原料へと循環させる「資源循環スキーム」のトライアルを開始しており、現在この取組は、将来的な本格展開を見据えた実証段階にあります。
もともと帝人フロンティア様は、ポリエステルのリサイクルにおいて高い技術力を有しており、当社も2023年から、ケミカルリサイクル素材を使用した定番商品を展開してきました。これらの商品はエコマークも取得しており、環境配慮型素材の実用化を着実に進めてきた経緯があります。
また、佐川急便様は弊社にとって長年にわたるロイヤルカスタマーであり、これまでの関係を背景に、同社から使用済みユニフォームのリサイクルに関するご相談をいただきました。
そこで、当社が帝人フロンティア様と進めてきたケミカルリサイクル素材の取組を紹介し、3社であれば、使用済みユニフォームを回収し、再び原料として循環させる仕組みに挑戦できるのではないか、という話になり、完全循環型リサイクルの実証に取組むこととなりました。
※1
「サステナブルな社会の実現に向け佐川急便×ミズノ×帝人フロンティアが連携」(物流業界では先進的な、完全循環型リサイクルによる ユニフォームのトライアル運用を開始|ミズノ株式会社)
この取組を進めていく中で、直面された課題はありますか。
染原様課題はいくつかあります。まず、3社それぞれで環境に対する捉え方や考え方、関連する法律に関するスタンスの違いがあるため、共通認識を持つためにすり合わせが必要です。
また、現在納品しているユニフォームの仕様がリサイクルに適応するかについては、実証実験を通じて確認を進めています。併せて、リサイクルに伴うコスト面も大きな検討事項です。環境配慮の取組であっても、コストが過度に増加することはこの取り組みを進めて行く上で大きな課題であり、どの水準であれば継続可能かを見極めています。
一方で、当社としては、リサイクルを前提とした場合であっても、ユニフォームとしての機能性や品質が損なわれてはならないと考えています。そのため、素材や仕様の検討においても妥協せず各社それぞれの課題を一つひとつ整理しながら、段階的に解決を図っています。
海外サプライヤーとも向き合うCFP算定
池永 浩一郎様(法務室 サステナビリティ推進課 エキスパート)
海外取引先とのコミュニケーションについてもお聞かせください。
まず、CFP(カーボンフットプリント)算定においては、海外取引先とのデータ連携はどのように進めていらっしゃるのでしょうか。
池永様CFPについては、4年ほど前から、排出量削減のための具体的なアクションにつなげていくため、算定を開始しました。製品仕様書におけるパーツの使用量などの情報を活用して当社の主要製品のCFPを算定し、その結果を基に年間の排出量を算出しています。
海外サプライヤーからの調達については、海外サプライヤーから直接排出量データの提供を一部受けています。
海外サプライヤーとの連携はハードルが高そうですが、難しさを感じている点はありますか。
池永様LCA(ライフサイクルアセスメント)・排出量算定への考え方やルールなどに違いがあることから、海外サプライヤーから提供されたデータの正確性や信頼性を確認するために説明を求める場面で難しさを感じることがあります。
提供されたデータをそのまま受取るのではなく、根拠の確認や第三者による保証の取得をお願いするなど、一定の確認プロセスを経た上で活用するようにしています。
その他に課題はありますか。
池永様当社の製品はパーツごとにサプライヤーが異なるため、取引先は非常に多岐にわたっています。
そのため、特定の一社だけが脱炭素の取組を進めても、製品全体のCFP削減や全社での排出量削減につながりにくいという課題があります。
排出量を実質的に減らしていくためには、複数のサプライヤーと幅広く連携し、取組を進めていく必要があります。その分、社内の担当者にとっては調整や働きかけの負担が大きくなりますが、サプライヤーエンゲージメントを通じて、まずは排出量への影響が大きい取引先などから連携していき、さらに複数サプライヤーとの取組も段階的に進めていくことが重要だと考えています。
資源循環の実践がもたらす社内外への効果
松田 智代様(法務室 サステナビリティ推進課 課長)
これまで携わってこられた施策の中で、特に印象に残っている取組があればお聞かせください。
村上様製品づくりの過程で生じる廃材や端材を、できる限り新たな価値として活かそうとする資源循環の取組です。
例えば、野球グラブの製造過程で発生する革の端材を活用し、財布や小物などの製品として再生する取組を継続的に行っています。
松田様他にも、野球の木バットについて、使用時に折れる可能性が高くなる“節”が製造工程で現れることがあり、通常廃棄されていたのですが、このようなバットの不適格材を有効活用する取り組みも進めています。木工職人の方々とのつながりを得て、フライパンの持ち手やテーブルウェアなどにアップサイクルすることや、動物園の鳥の止まり木や猿の渡木にするなど、こうした天然素材であるがゆえに強度や外観を満たせない素材を、廃棄することなく、アイデア1つで、役に立つ、価値のあるモノに繋げようと日々考えています。
廃棄物の削減だけでなく、素材そのものの価値を長く活かすことを目指しています。
また、製造工程で発生する木くずについても資材として外部に買い取っていただくなど、廃棄物の削減と資源の有効活用の両立を図っています。
ミズノの制作した再生デニムバッグ
これまで廃棄されていたバットの不適格材や、プロ野球選手が使用して折れた木製バットを回収し、
粉砕加工して生地に再利用しているとのこと
村上様近年では、スポーツの大きな舞台とも連動した取組も進めています。再生素材を活用した製品を、より多くの方に知っていただく機会も広がっています。
例えば最近では、世界的な野球大会に関連して、日本代表チームのバッグを再生素材で製作する取組を行いました。
これらの取組は一過性の事例ではなく、今後も継続して力を入れていくものであり、ミズノのものづくりの姿勢を象徴する取組の一つだと考えています。
スポーツ業界全体が環境問題に関心を持つきっかけとなることも期待できそうですね。
こうした脱炭素やサステナビリティに向けた取組を通じて、得られた効果やメリットについて教えてください。
村上様まず社内にとっての大きな効果は、社員それぞれが「自分の立場で何ができるか」を日常的に考える風土が根付いてきたことです。
社内勉強会などを通じて、環境への配慮が特別な取組ではなく、日々の業務の延長線上にあるものとして受け止められるようになってきたと感じています。
また、法人や行政とのビジネスにおいては、環境を大切にしている姿勢そのものが大きな強みになっています。
一方で、取引先の環境意識が高いことで、私たち自身が環境に配慮した取組を進めていなければ、同じ土俵に立つことすらできない場面も増えてきました。
社会全体がそうした方向に進んでいる中で、エコマークの取得などは、特に法人・行政向けの分野において、環境配慮に関する一定の水準を満たしていることを客観的に示す指標となり、当社の信頼性を高める重要な要素になっていると感じています。
社内に根付き、サプライチェーンへ広がる環境への取組
サプライヤーエンゲージメントについて、現在の取組内容や進め方を教えてください。
池永様当社では、年に1回程度、サプライヤーの皆さまにお集まりいただき、ミズノの全体方針を調達部門より共有する機会を設けています。その中で、環境への取組についても当社の考え方や方向性をお伝えしています。
また、こうした説明会に加えて、サプライヤーごとにアンケート調査も実施し、現在の設備状況や、再生可能エネルギーの活用状況などを確認しています。このように、説明と調査を並行して実施することで、サプライヤーの実態把握に努めながら、エンゲージメントを進めています。
今後を見据えて、これからさらに取組んでいきたいことや、取組の展開に関する方針があればお聞かせいただけますでしょうか。
村上様これまで進めてきた取組を継続していくことは、まず前提として大切にしたいと考えています。
当社では環境をマテリアリティの一つとして位置付けており、それに基づいてKPIも設定していますので、定期的に見直しを行いながら、全社で着実に達成に近づけていきたいと考えています。
日々の地道な取組を積み重ねていくことが重要だと考えており、社会の動きや新たに取入れるべき考え方にも常にアンテナを張りながら、必要な対応を柔軟に進めていきたいと思っています。
メッセージ
最後に、脱炭素経営に挑戦しようとされている企業の皆様に向けて、メッセージをお願いします。
村上様脱炭素に向けた取組は、決して一朝一夕で成果が出るものではなく、地道な積み重ねが重要だと考えています。私たちは同じ地球で生きていく存在として、一人一人がその意味を理解しながら行動していくことが欠かせません。
すぐに大きな変化が生まれるわけではありませんが、日々の小さな努力が将来につながっていくと信じています。そうした考え方を共有しながら、スポーツができる地球環境を守るため、ともに取組んでいける仲間を少しずつ増やしていきたいと考えています。
最後に
ミズノのサステナビリティへの取組は、創業時からの価値観を大切にしながら、経営、社員一人ひとりの行動、そしてパートナーとの協働へと、社内外に着実に広がってきました。
廃材の再利用や循環型ものづくりといった実践からは、スポーツの分野を起点に、社会課題と真摯に向き合い続けてきた姿勢がうかがえます。
身近なところから始め、継続してきた取組が、結果として組織を動かし、取引先や社会へと波及しています。
さらに、こうしたミズノの取組が、脱炭素経営に取組む企業の皆様にとって、次の行動を考えるきっかけとなり、日々の業務や事業活動の中で取組を実行する後押しとなれば幸いです。