アスクル株式会社インタビュー

“エコプラットフォーム”構築で進める脱炭素―
アスクルが進めるサプライヤーとの共創の取組

カーボンニュートラルの実現を目指す企業にとって、サプライヤーは単なる製品・サービスの供給者にとどまらず、排出削減という共通の目標に向けて価値を共創するパートナーです。アスクルはこうした考え方のもと、サプライヤーに一方的な要請を行うのではなく、排出削減に向けた目標を提示しつつ、情報共有や対話を重ね、具体的な取組を共に推進する関係の構築を進めています。

左から
梶川 伸一様(コーポレート本部 副本部長 SDGs担当 環境管理責任者)
綱木 佐代子様(リテール事業本部  品質・環境マネジメント グリーンプロダクトマネジメント)
立花 丈美様(コーポレート本部 コーポレートコミュニケーション ESG推進 技術士(環境部門))
田村 友尋様(コーポレート本部 コーポレートコミュニケーション ESG推進 部長)
渡辺 昭一郎様(リテール事業本部 品質・環境マネジメント グリーンプロダクトマネジメント 部長)

オフィス用品の通販大手として知られるアスクル株式会社は、「仕事場とくらしと地球の明日(あす)に、「うれしい」を届け続ける。」というパーパスのもと、社会に価値を提供してきました。環境分野にも早くから注力し取組を進めてきた同社は、サプライヤーとの連携を通じてどのようにScope3排出量の削減に挑戦しているのでしょうか。今回は、その具体的な取組と考え方についてお話を伺いました。

インタビュー実施日:2025年12月22日

外部の声に耳を傾け、改善を図る―アスクルの環境対応の原点

御社が脱炭素経営に本格的に取り組むようになった背景について教えてください。

立花様当社の環境意識の原点は、外部からの厳しいご指摘に真摯に向き合ってきた経験にあります。例えば、コピー用紙を大量に取り扱うことが熱帯林の伐採につながっているのではないかといったご指摘を環境NGOの方からいただいたり、配送時における過剰な緩衝材の使用についてのご批判をお客様からいただいたりすることもありました。こうした声を重く受け止め、原材料の産地であるインドネシアでの植林活動の実施や、梱包資材を極力使用しない配送方式への転換など、具体的な改善を積み重ねてきました。これらの取組を通じて、当社の中に環境配慮を重視する意識が着実に根付き、現在の取組へとつながっています。

さらに大きな転機となったのが、2014年に行われた、IPCCの報告書を執筆した科学者と当時のCEOとの対談です。「企業こそが本気で気候変動に取り組むべきだ」という強い思いを持った前CEOは、経済価値と環境・社会価値の両立を掲げ、気候変動対策に舵を切りました。この対談を契機に、環境対応は企業価値を高める重要な経営課題だとの認識が高まりました。

お客様に限らず、外部の声に耳を傾ける姿勢が印象的です。こうした姿勢はどのように醸成されてきたのでしょうか?

田村 友尋様(コーポレート本部 コーポレートコミュニケーション ESG推進 部長)

田村様当社の特徴として、お客様の声が直接届きやすいところが挙げられます。環境分野に限らず、商品開発を担う担当者が日常的に、率直な意見を伺いながら商品やサービスの改良を重ねています。また、当社はBtoB事業に加えてBtoC事業も展開しており、関わる全ての方がお客様になり得るという考え方が社内に根付いています。こうしたお客様起点の文化があるからこそ、外部の意見も素直に受け止め、「全方位にホスピタリティをもって接する」という姿勢が自然と共有されています。

野心的な目標が示す方向性 ― サプライヤーと共に進める脱炭素

では次に、御社の脱炭素経営の取組の全体像について教えてください。

立花様2016年に「2030年CO₂ゼロチャレンジ」を宣言した際、従来のように省エネ施策を積み上げる発想ではなく、ゴールを定めた上で逆算するバックキャストの考え方に基づく計画を示しました。翌年にはRE100とEV100※1に加盟し、2018年にはSBTに基づく短期目標を策定、2023年には2050年ネットゼロの長期目標も認定されています。

※1:企業に、2030 年までの電気自動車(EV)への移行もしくはコミットを促す国際イニシアチブのこと

非常に早い段階から野心の高い目標を掲げてこられたのですね。その中で、サプライヤーエンゲージメントはどのように位置づけているのでしょうか?

立花 丈美様(コーポレート本部 コーポレートコミュニケーション ESG推進 技術士(環境部門))

立花様Scope3排出量の削減には、自社だけでなくサプライチェーン全体での取組が不可欠です。当社では、Scope3排出量の7割超をカテゴリ1(購入した製品・サービス)が占めており、自社内の努力だけでは限界があります。そこで、バリューチェーン全体を「エコプラットフォーム」と捉え、サプライヤーと一体となった取組を排出削減の中核に位置づけています。

ターゲットごとに差異化されたアプローチ―サプライヤーエンゲージメントの具体策

サプライヤーに対して、具体的にどのような支援を進めているのでしょうか。

立花様サプライヤーへの支援にあたっては、初めから全てのサプライヤーを一斉に巻き込むことは難しいことから、まずはScope3カテゴリ1排出量の上位90%を占める93社を対象にサステナビリティの取組に関するアンケート調査を行いました。その結果、21社は既にSBT認定を取得していることが分かりました。そこで、既にSBT認定を取得している21社は「グリーンサプライヤー」、残りの72社のうち、SBT目標設定の対象となる企業を「ブルーサプライヤー」、当社のプライベートブランド(以下、PB)商品を製造している企業を「オレンジサプライヤー」として、各々にあったコミュニケーションや支援を推進する目的で区分を行いました。

2024年5月にサプライヤー向け説明会を開催し、「なぜ脱炭素経営に取り組む必要があるのか」を共有したうえで、①SBT水準の排出削減目標を設定すること、②PB商品毎のCO2排出量算定、③当社が定める「商品環境基準」への賛同の3点について協力を依頼しました。外部講師を招いてSBTの基礎やサプライチェーン排出量の算定方法を解説し、終了後のアンケートで理解度や課題も把握しました。2025年6月には3回にわたる勉強会を開き、1回目でエンゲージメントの全体像や環境省事業※2の成果を共有し、2回目はScope1・2排出量の算定方法、3回目はScope3排出量の算定方法を独自の算定ツールや演習問題を用いて説明しました。

※2:バリューチェーン全体での脱炭素化推進モデル事業

実際にエンゲージメントに応じるサプライヤーの皆様は、どのようなステップで取組を進めていくのでしょうか。

立花様まず、サプライヤーの皆様に「通常版SBT」と「中小企業向けSBT」のどちらに該当するのかを確認いただきます。両者では求められる対応や負荷が大きく異なるため、サプライヤーの皆様にとっても、どちらに該当するのかはその後の取組にとって重要です。とはいえ、サプライヤーの皆様にとってはその確認が難しい場合もありますので、当社では判定を簡易に行える診断ツールを作成・配布し、初期負担の軽減を図っています。どちらに該当するのかご確認いただいた後は、Scope1・2排出量を算定し、(通常版SBT対象企業についてはScope3も算定)算定結果に基づきSBTに沿った削減目標を設定・実行していただく流れとなります。

充実した説明会や自作の算定ツールを活用した勉強会、SBT目標判定ツールの提供など、サプライヤーの皆様に寄り添った取組を実施されている点が印象的です。この他にも取り組まれていることはありますか?

商品環境スコアのイメージ
(アスクル株式会社 サステナビリティ報告書より引用)

渡辺様「商品環境基準」は、当社サイトで扱う商品について環境配慮の度合いを点数化して表示する仕組みです。脱炭素に加え、省資源、資源循環、生物多様性といった観点を取り入れ、「容器包装」「商品本体」「取組」の3点から評価しています。当初はPB商品を対象としていましたが、現在は主要なナショナルブランド商品※3においても展開が進み、PB商品よりも導入数が多くなっており、サプライヤーの皆様から賛同をいただけていると感じております。

※3:全国規模で展開され、メーカーが自社名やブランド名で企画・製造・販売する一般的に広く認知された商品・ブランド

梶川 伸一様(コーポレート本部 副本部長 SDGs担当 環境管理責任者)

アスクル商品環境基準
(アスクル株式会社 サステナビリティ報告書より引用)

梶川様「商品環境基準」の採点基準はすべて公開し、自由に活用できる形で運用しています。すべての基準達成を求める環境ラベルと異なり、環境配慮の取組を一つでも実施すれば、その内容に応じてスコアが段階的にアップする仕組みとすることで、環境配慮への「最初の一歩」を踏み出しやすくしています。サプライヤーの皆様には、自社商品で改善可能な項目から段階的にトライしていただくことを期待しています。

基準が可視化されていることで、サプライヤー側も商品開発の場面で「次はどこを改善すべきか」といった具体的なアクションにつなげやすいと感じました。

渡辺様「商品環境基準」はサプライヤーエンゲージメントとも連動させており、24年9月からは採点基準にSBT認定取得の有無を組み込み、従来の「GHG排出量算定」は10点でしたが、SBT認定を取得した場合は、加点を40点に引き上げました。

当社は2028年度までにエンゲージメント対象サプライヤーがSBTに準じた目標を設定し、また2030年度までにPB商品を取り扱うサプライヤーもSBT目標を有する状態を目指しています。これにより、お客様がアスクルの商品を選ぶことで、意識せずともサプライチェーン全体の脱炭素に貢献できる状態を目指しています。

共通言語が行動を変える ― エンゲージメントが生んだ実践的な効果

エンゲージメントを進める中で、どのような効果や変化が生まれていますか?

渡辺様最も大きな効果は、説明会や勉強会を通じてサプライヤーとの間に「共通言語」が生まれたことです。事前にSBTの意義を共有していたことで、商品環境スコアへの反映も円滑に進み、共に取り組む基盤が整いました。

また、当社の取組が浸透していることを実感する場面も増えており、CFP(カーボンフットプリント)算定を依頼した際に一部のサプライヤーより「いずれ来ると思っていた」と受け止められたことは、象徴的な出来事でした。

取組を通じて理解が深まっていたからこそ、御社の働きかけが受け入れられているのですね。他にも、サプライヤーの皆様の意識が醸成されてきたと感じる場面はありましたか。

綱木 佐代子様(リテール事業本部 品質・環境マネジメント グリーンプロダクトマネジメント)

綱木様脱炭素経営に関する個別の問い合わせが増えており、最近ではScope3排出量算定の進め方など、より具体的な相談を受ける機会が増えています。現場レベルでも意識の変化が見られ、環境配慮型インクへの切り替えやラベルレス包装など、サプライヤーから前向きな提案が増えています。技術やコストの課題はあるものの、こうした相談が増えてきたこと自体を大きな変化と捉えています。

渡辺様SBT認定の取得などを通じて脱炭素への姿勢を示すことは、当社以外の取引先からの評価向上や新たな商機に繋がる可能性があり、サプライヤーの皆様にとってもメリットがあると考えています。取組の早期着手が将来的な競争力や信頼関係の強化につながり、結果として取引拡大やコスト低減となれば、アスクルとサプライヤー、双方にとってWin-Winな環境を生み出すと考えています。

ともに取組を進めていく上で、自社の都合だけでなく、サプライヤーの皆様の成長と競争力向上まで見据えるというのは、大変素晴らしい考え方だと思います。一方で、エンゲージメントを進める中で見えてきた課題はありますか?

立花様最大の課題は、サプライチェーン排出量算定そのものの難しさです。説明会等を通じてScope3の理解は進んできましたが、各社が自社で算定し、さらに目標や削減策の設定に進むには高いハードルがあります。現状、説明会や個別対応で支援に努めていますが、当社だけで担える範囲にも限界があります。当社として、各社が算定するデータの正確性をどう判断するかも課題です。

また、サプライヤーのグループ分けについても見直しが必要だと感じています。目標設定済みと回答があってもSBTに準拠していない例や、算定バウンダリが不十分な例が見られました。こうした状況を踏まえ、改めてアンケートを実施し、実態に即した分類と支援策の検討を進めていく予定です。

誰ひとり取り残さない — 伴走で進めるアスクルのコミュニケーション

今後、どのような展開をお考えですか?

渡辺 昭一郎様(リテール事業本部 品質・環境マネジメント グリーンプロダクトマネジメント 部長)

渡辺様2026年1月には、サプライヤー向けコミュニケーションポータルサイトを立ち上げました。説明会案内や資料が十分に行き届かず情報格差が生じてしまっている現状を踏まえ、説明会情報、資料・ツール、アンケート、補助金情報などを一元的に提供します。あわせて、各サプライヤーが自社の区分(例:ブルーサプライヤー、オレンジサプライヤー)や必要なSBTに関する対応を確認できる仕組みも整備します。また、問い合わせ対応もポータルサイト上で集約し、ノウハウの蓄積やFAQ整備につなげることで、サプライヤー側の担当者変更時でも円滑に情報を把握できる環境を目指します。

また商品環境基準についても、現在はスコアの表示に留まっていますが、将来的には環境配慮度の高い商品が検索結果でフィルタリングされるなど、サプライヤーが実務上のメリットを実感できる仕組みを検討しています。

一元的なプラットフォームがあれば、サプライヤーの皆様に情報をより確実に届けることができ、取組から取り残されてしまう可能性を減らせそうですね。まさに「誰ひとり取り残さない」という姿勢を体現されていると感じます。

渡辺様サプライヤーとは過去からパートナーシップを共創するという形で、環境以外のところでも関係性を作ってきていることもあり、「ともに進む」という企業風土があります。そのため、SBT認定取得を取引条件として課すのではなく、サプライヤーと伴走する姿勢を重視しています。アライアンスの変更は必ずしも脱炭素の前進につながりません。だからこそ、共に取り組める仕組みを整えていきたいと考えています。

そのためにも、今後も説明会や勉強会、対面での意見交換を大切にすることで、書面やアンケートだけでは見えにくい課題を把握しながら支援を継続していきます。あわせて、取組成果の評価・表彰や、成功事例を共有する場の創出により、モチベーションづくりの機会も生み出していきたいです。

メッセージ

最後に、読者に向けて皆様からメッセージをお願いします。

立花様中小企業にとって重要なのは、脱炭素に取り組む「意義」を実感できることです。要請やプレッシャーだけでなく、省エネ・再エネによるコスト削減や企業評価の向上といったメリットに目を向けていただきたいと考えています。当社としても実例を示しながら、「なぜ取り組むのか」を共有していきたいと思います。

田村様私は他部署から異動してきた身であり、当初は専門知識への不安もありました。しかし、実際に手を動かすことで理解が進み、「まずはやってみる」ことの重要性を実感しました。一方で、サプライヤーの皆様の負担は大きいと感じており、業界横断でのフォーマットや基準の標準化が進むことを期待しています。当社としても、その実現に向けて働きかけを続けていきます。

渡辺様まずは小さなことからで構いません。自社オフィスのエネルギー使用量を集計してみる、といったことでも、とにかく一歩踏み出してデータを見てみると新たな発見があります。現状を把握することが、脱炭素経営のスタートラインだとつくづく感じます。完璧を目指すより、できる範囲から一歩を踏み出してみていただきたいと思います。

綱木様近年、猛暑や異常気象など、気候変動の影響を身近に感じる場面が増えています。脱炭素への取組は、日々の業務を通じて、こうした地球規模の課題解決に貢献していることを実感できる取組でもあります。このような視点で捉えることで、脱炭素に取り組む意義への理解が深まり、継続的な取組へのモチベーションにもつながっていくのではないでしょうか。

最後に

アスクルは、サプライヤーエンゲージメントの取組において「伴走」を重視しており、説明会や算定ツール、商品環境スコアといった具体的な仕組みを通じて、サプライヤーが主体的に行動変容を進められるよう後押ししています。こうした真摯な説明と支援を通じて、サプライチェーン排出量に関する共通言語を形成し、一枚岩となって削減意識を高めていくアプローチは、多くの企業にとって示唆に富む取組と言えるでしょう。