観音寺信用金庫インタビュー

地域とともに育む脱炭素の輪―
持続可能な未来を支える観音寺信用金庫の地域密着型の取組

地域社会に密接に寄り添い、日々の暮らしと企業経営を支えてきた観音寺信用金庫。金融機関としての責務を果たす中で長年にわたり築いてきた地域からの確かな信頼を礎に、持続可能な地域の未来をともに創るパートナーとして、その役割を着実に広げています。

右から 北野 丈晴様(常勤理事 総務部長 事務部長)
大平 真弘様(常勤理事 経営支援部 部長)

観音寺信用金庫は、地域の中小企業に伴走するとともに、一般社団法人三観広域カーボンニュートラル協議会の設立を主導するなど、行政や地域団体と一体となって地域全体の脱炭素に向けた取組を推進してきました。
今回は、脱炭素の推進を通じて新たな価値創造に挑む観音寺信用金庫の取組と、その背景にある思いについてお話を伺いました。

インタビュー実施日:2025年11月17日

持続可能な地域金融のかたち―本業としてのサステナビリティ

まず、御金庫ではサステナビリティの取組をどのように位置づけているのか、教えていただけますでしょうか。

大平 真弘様(常勤理事 経営支援部 部長)

大平様私たちのサステナビリティの取組は、単なる付加的な業務に留まらず、地域金融機関としての本業の延長線上にあります。つまり「お金を集めて産業や地域に循環させる」という金融機関の根幹業務と、脱炭素経営は切り離せない関係にあると捉えています。

背景には、金融行政の方針や経済情勢の変化があります。行政においても持続可能な地域経済の形成が重要なテーマとして掲げられ、私たちもその方向性に合わせて自らの業務を再定義してきました。
サステナビリティの取組は、単なる社会貢献ではなく、むしろ金融機関としての存在意義を維持するために不可欠な要素だと考えています。

サステナビリティの取組を本業と不可分のものとして捉え、金融機関としての役割に結び付けていらっしゃる点が非常に印象的です。

大平様この十数年、地域経済の縮小や環境問題の深刻化を肌で感じる中で、「自分たちがどう存続していくのか」を真剣に考えてきました。今後も従来と同様の業務運営を続けていたら、大手金融機関やデジタルバンクなどの新しい金融サービスに淘汰され、やがて自然消滅してしまうかもしれないという危機感を抱いていました。
だからこそ、脱炭素やサステナビリティの取組を経営の中核に据え、地域の持続的発展に貢献することを本気で進めています。

これは決して一過性の取組ではなく、当金庫が「これからも地域に必要とされる存在」であるための根幹的な挑戦です。

地域とともに歩む金融機関としての使命と責任

御金庫は、環境省のモデル事業への参画をはじめ、地域全体を巻き込んだ環境活動を進めておられますが、何が動機となっているのでしょうか。

大平様私たちの取組の根底にあるのは、地域に根差した金融機関としての使命感です。
日頃から、預金や融資などの基本業務を通じてお客さまと信頼関係を築き、その積み重ねが地域の金融機関としての信用を支えています。
つまり、地域に寄り添いながら持続可能な経済を支えることこそが、私たちの存在意義だと考えています。

地域のために情熱を持って活動されていること、その思いを原動力に取組を進めてこられたことがとても伝わってきました。

大平様当金庫は地域密着型の金融機関として、地域の人々や企業とともに発展してきました。地域に根ざした組織として、地域経済を支える役割を担っています。その使命感がサステナビリティや脱炭素の取組にも自然とつながっているのです。

こうした姿勢は信用金庫業界全体にも広がりつつあり、ここ数年は行政とも連携しながら、脱炭素経営支援の体制を整えてきました。

脱炭素を支援している現場では、職員の皆様はどのような意識で地域企業と向き合っているのでしょうか。

大平様地域企業にとって脱炭素に向けた投資は決して容易な判断ではありませんが、当金庫の職員一人ひとりが「地域の未来を守る」という意識を持ち、提案や支援を行っています。

地域には家族や友人、自治会など、私たちと密接に関わる人々が多くいます。その暮らしを支える使命感が、信用金庫としての行動の原動力です。
こうした思いを体現する職員を次代のリーダーとして育てながら、地域と共に成長していきたいと考えています。

伴走支援が後押しした富士印刷の脱炭素経営

地域のための活動を続けてこられた中で、特に印象に残っている取組がありましたら、お聞かせください。

大平様印象に残っている取組の一つは、地域の皆様がポストコロナ経営を模索されていた2021年頃に私が営業店長として担当していた、株式会社富士印刷様への脱炭素経営支援です。
社長から「これからの時代、脱炭素や気候変動への対応が必要だが、何から始めればよいのか。」と相談を受けたことがきっかけでした。当時は私自身、脱炭素経営に関する知見を有していなかったため、十分な回答ができず恥じ入る気持ちに駆られました。

その状況を打破するべく、自ら様々な媒体を調べ、結果的に環境省のホームページで「ESG地域金融実践ガイド」(※1)に掲載されていた手順を見つけ、これを参考に富士印刷様に伴走して取組を始めました。

大平 真弘様(常勤理事 経営支援部 部長)

まさにこの経験が、脱炭素を本業と一体に捉え始める契機となり、試行錯誤しながらのスタートだったことがよく分かります。

大平様はい。まずは「測ることから」という方針のもと、活動を開始したものの、最初は費用面などに対する不安もありました。
そこで何かできないかと模索していたところ、行政による算定支援の募集が行われていたため、そちらをご案内し、ご参画いただきました。当金庫は、算定から公表に至るまでのプロセスについて継続的に支援を行いました。

それ以降も富士印刷様は、専門家派遣による省エネルギー診断や、環境省Green Value Chain促進ネットワークへの加盟など、経営者自らのリーダーシップの下で段階的に取組を進められました。

脱炭素化に向け必要となる設備がある程度明確になってきた段階で、その設備導入に対する公的支援策への紐付けや資金面での調整を当金庫が担いました。この部分に関しては金融実務として過去の補助金支援の経験から比較的容易に対処できました。

その後、サプライチェーン排出量やエンゲージメント、情報公開などを話し合っていくうちに自然と従業員の皆様の意識も高まり、結果的に、「令和6年度かがわ脱炭素促進事業者表彰事業」において「優秀賞」を受賞、さらに、2025年7月には、中小企業版SBT認定(※2)も取得されました。


この経験から、地域企業の脱炭素経営を地域金融機関が伴走支援することの大切さを改めて実感しました。

脱炭素経営支援を担う人材を育てる組織づくり

北野 丈晴様(常勤理事 総務部長 事務部長)

職員の皆様が脱炭素経営を理解し、地域企業と対話していくための体制づくりについて教えてください。

北野様当金庫では、もともと2011年から経済産業省の「ものづくり補助金」などを通じて中小企業の設備投資支援に携わり、企業の経営課題に寄り添う伴走支援の経験を積んできました。

コロナ禍で地域経済が停滞した時期には、融資だけでなく企業の再生や事業継続のための支援の必要性を強く意識しました。その流れの中で、環境省が推進する「脱炭素アドバイザー資格の認定制度」(※3)に注目し、職員の育成を進めることにしました。現在は26名の職員が脱炭素アドバイザーとして認定を受けており、受講料などの費用はすべて当金庫が負担しています。

職員の皆様が脱炭素アドバイザーとしての知識を持つことの重要性を認識し、組織として支援を行っている点は非常に先進的ですね。

北野様この制度を通じて、営業現場でも脱炭素やサステナビリティの知識を持った職員が企業の経営相談に応じられる体制を整備しました。今ではこうした人材が地域の中小企業の頼れるパートナーとして活躍し、金融機関としての差別化にもつながっていると感じています。

こうした取組は、御金庫全体の方針として進められたのでしょうか。

北野様はい。脱炭素やサステナビリティの取組をトップダウンとボトムアップの両面で進めてきました。現場レベルの体制を強化しつつ、トップレベルでも取組の重要性を共有していることは大きな原動力になっています。

様々なレベルで対話を重ねる中で企業経営者の皆様から「脱炭素経営について詳しく教えてほしい」と声をかけていただくことも増え、地域ぐるみで学び、実践を広げる流れが生まれていきました。

行政との連携を核に進める、地域脱炭素の仕組みづくり

観音寺信用金庫100周年記念事業の一環として、2019年に、地域と一体となり「どっかーんと観音寺を盛り上げ隊」を発足。おいしいかんおんじ物産展の開催のほか、「この土地の文化を多くの人と共有したい」という理念のもと、地域ブランドの向上に取組んでいる。

地域脱炭素の取組を進める中で、どのような課題を感じられましたか。

北野様課題として感じたのは、行政をはじめとするステークホルダーとの連携のあり方でした。行政では脱炭素関連の支援事業が数多く展開されていますが、個々の事業はテーマが明確に定められており、独自の取組を進めることや、幅広い連携が難しいという課題もありました。

そこで私たちは、「産官学民金」の連携を促進する組織として、一般社団法人三観広域カーボンニュートラル協議会を立ち上げました。幅広いステークホルダーの情報やノウハウの共有、取組支援の場として活用していきます。継続的に運営していくためには予算面などの課題もありますが、「地域で自走できる仕組みを築く」という方針のもと、地道に取組を続けています。

限られた予算の中で仕組みをつくり、自走していくために、今後どのような対応を検討されていますか。

北野様まず、地域行政との連携強化を重視しています。当金庫と観音寺市は「一心同体」として地域発展を支えるパートナーであると捉えており、地域イベントや産業振興の取組など、幅広く連携しています。

地域の企業や生産者の皆様と連携して開催している「おいしいかんおんじ物産展」はその一例です。これは当金庫の創立100周年事業の一環として始まったもので、地域の特産品を広く発信し、地域経済を盛り上げることを目的としています。企業間の交流やコラボレーションを生み出す場として定着してきました。

地域への貢献に真摯に取り組まれている姿勢が伝わっているのですね。

北野様こうした活動が地域の方々にも広く認知され、「地域のために貢献している信用金庫」としての信頼や共感が採用活動にも良い影響を与えています。地域とともに歩み、皆でつくり上げていく姿勢を今後も大切にしていきたいと考えています。

北野 丈晴様(常勤理事 総務部長 事務部長)

地域行政や観音寺市、さらには地域の企業や団体など多くの関係者と連携される際、どのような点を重視されているのでしょうか。

北野様地域行政や観音寺市との連携においては、まず「人と人とのつながり」を大切にしています。中学・高校の同窓といった地域ならではの人的なつながりが多く、共通の話題や信頼関係を基盤に協力体制を築けていることが強みです。

市の将来構想やイベント計画などについても早い段階から情報を共有し、共に方向性を検討しています。例えば、2028年度に中四国最大となる道の駅が観音寺市に新設される予定があり、そのプロジェクトにも市と連携しながら参画しています。

このように、行政・民間・金融機関が一体となって地域の未来を見据える体制は、結果的に地域での高い信頼とシェアの維持につながっていると感じています。

メッセージ

右から 北野 丈晴様(常勤理事 総務部長 事務部長)
大平 真弘様(常勤理事 経営支援部 部長)

最後に、脱炭素経営に挑戦しようとされている企業の皆様に向けて、メッセージをお願いします。

大平様我々は今後も脱炭素をはじめとしたサステナビリティの取組を継続的に推進してまいります。地域の企業の皆様が自社内で体制を構築し、持続的に取組を進められるよう、引き続き伴走支援を行っていく所存です。

北野様当金庫では、脱炭素経営を本業と切り離すのではなく、地域企業の付加価値向上につなげていくことを重視しています。
今後も、地域行政や関係機関と連携しながら、地域の企業が自ら脱炭素の流れを実践できるよう伴走支援を続けてまいります。サステナビリティの取組を通じて地域経済を活性化させ、持続可能な地域社会の実現に貢献していきたいと考えています。

最後に

今回のインタビューから、観音寺信用金庫が地域金融機関としての使命を軸に、脱炭素やサステナビリティの取組を通じて地域経済の持続的な発展を支えている姿勢を強く感じました。
地域の企業や行政からの強い信頼を背景に、地域の脱炭素を前進させる重要なパートナーとしての役割を果たすべく、体制整備を着実に進められています。
観音寺信用金庫の実践には、地域で脱炭素経営に取り組む企業の皆さまにとって、自社の取組を考える際に役立つ学びが数多く詰まっています。
この取組をぜひ参考にしながら、皆さま自身の持続可能な未来につながる一歩を踏み出していただければ幸いです。

※1
「ESG地域金融実践ガイド」(「ESG地域金融実践ガイド3.0」の公表について | 報道発表資料 | 環境省

※2
【参考】株式会社富士印刷「SBT申請プロジェクト」(SBT申請プロジェクト|株式会社富士印刷

※3
「脱炭素アドバイザー資格の認定制度」(脱炭素アドバイザー資格の認定制度|環境省