※この記事は、2023年12月2日に開催された第11回グッドライフアワード表彰式における環境大臣賞受賞プレゼンテーションおよび交流会インタビューに基づいて作成されています。
日本の農業に貢献する「おむすび権米衛」
株式会社イワイ「おむすび権米衛」の副社長の鈴木と申します。私たちが、おむすび屋を営んでいる理由は、この経営理念にあります。
「私たちは日本一おいしいおむすびをあたたかいおもてなしで提供します。そして、お米の消費拡大を通じて日本の農業に貢献します。」
「おむすび権米衛」を経営している株式会社イワイは、“日本の農業に貢献するためにおむすび専門店を経営している会社”だと知っていただければ嬉しいです。
お米というのは、皆さんもご承知の通り、2000年にわたって日本人がずっと食べてきた主食です。一人当たりのお米の年間消費量は、戦前150kgあったものが、今では3分の1の約50kgにまで減っています。年間10万トンずつお米の消費量が減っているというのが、この国の現状です。北海道で1年間を通じて作られている全てのお米が50万トンなので、あと5年もすれば北海道のお米が全てなくなるぐらいの速度で、お米の消費量が減っています。
私たちは日本人の主食であるお米を手軽に皆さんに食べていただいて、お米の消費拡大をしていきたい。農業を活性化させていきたい。そのような想いで、おむすび屋を営んでいます。今現在、おむすび権米衛は、首都圏を中心に国内51店舗、アメリカに2店舗、フランスに2店舗を構えています。
左手の写真を見ていただくと分かるように、おむすび権米衛のおむすびは、普通のおむすびの約1.5倍の大きさがあります。ショーケースの中にあるおむすびを見たお客様から『これ、2個、重なってないの?』という質問もいただきますが、このおいしいおむすびをたくさん食べていただきたいので、1個140gなのです。お茶碗1杯分ぐらいのお米を使って、おむすびにしています。白米だけではなく、玄米も食べていただきたいので、私たちは特にお薦めしています。右手の写真は、フランスのパリにある店舗です。
おむすびの “おいしさ”にこだわる
私たちがこだわっているのは、やはり“おいしさ”です。「精米したて」「炊きたて」「結びたて」そして「手渡し」で、お客様に提供しています。特に「精米したて」というのは、大事なポイントです。
スーパーで売られているほとんどのお米は、精米してからかなり日が経っています。バナナやリンゴなどの果物で言いますと、皮を向いた状態で陳列されているのと同じなので、やはり鮮度や風味が落ちてしまいます。
おむすび権米衛では、今日、店舗から農家さんに発注すると、そこから精米をして翌日に精米したてのお米が店舗に届きます。それを店舗の中で大きな五升釜(炊飯釜)で炊き上げ、炊きたてアツアツのお米を手でむすんでお客様に提供しています。
私たちは、一切「型」を使わないということにもこだわっています。「型」ではどうしてもふっくらとしたおむすびにならないので、こだわって全て手でお作りしています。
おむすびの中には、当然いろんな具材が入りますが、合成着色料や保存料は一切使用していません。私たちはセントラルキッチンを持たず、全て店舗の中で、鮭を焼いて、骨と身にほぐして、焼きたらこを焼いて…というように具材を作っています。
やはり手間ひまをかけて、手作りのできたてを提供すれば、保存料は必要ありません。買っていただくお客様の身体にとって悪いものは一切入れない。それが我々のポリシーであり、こだわりです。
一番肝心なところですが、お米に関しては、特別栽培米そして無農薬・無化学肥料米のみを使用しています。お米を食べていただきたいというのはもちろんですが、我々は継続的に食べていただきたいと思っています。それは、やはり自然から始まります。
農薬を使用することにより、手間ひまという点ではかなり軽減されます。しかし、自然の生態系を壊してしまい、農家さん自身の身体にも被害を及ぼします。作り手が、病気になってしまいます。だからこそ、私たちは、特別栽培米または無農薬・無化学肥料米を選んでいます。
【特別栽培米】農林水産省が策定した「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」に沿って栽培されたお米。生産する県や地域によって定められた慣行レベルと比べて、節減対象農薬の使用と、化学肥料の窒素成分量を5割以下に抑えて栽培される。
私たちは社員とアルバイトさんと一緒に、年に数回、農業研修をします。中でも、農家さんたちの草取りはすごく大変です。ほとんどが手作業なので、指が変形するほどです。
それでも、80歳の農家のおばあちゃんが「食べてくれる人が健康であれば、我々はこんなの苦でもなんでもない」という気持ちで草を取って下さっています。「私たちは、本当に、日本一おいしいおむすびを提供しなければいけない」と、私たちのやりがいや使命に繋がっていると思います。
経済面でも持続可能な農業にする
そして、持続可能というのは、やはり経済面でもしっかりと持続ができなければなりません。『農業を継ぎたい』『農業をしたい』と思う方たちは、今、農業をしている人たちの生活を見て、憧れたり、やってみようと思うのだと思います。
弊社は2024年に創業25周年を迎えますが、買い取り価格は変動する市場価格にとらわれず、市場よりも高い一定価格で、お米を買い取らせていただいています。これは農家さんの先行投資ができるということに繋がっています。
来年どうなるか分からないという不安がある状態ではなくて、『来年にもこれだけ収入があるのだから、今のうちに機械を入れよう。人を入れよう。』というように、未来に向けた投資ができることも1つ特徴だと思います。今、数多くの若手の農家さんが、私たちに賛同して下さっています。
食育を通じて持続可能な未来を創造する
皆さんもご承知の通り、人間は、5歳から10歳、よく食べたもので、生涯の食の嗜好が決まると言われています。大体、小学生の時によく食べていたもので、生涯の食の嗜好が決まります。パンが好きな人は、パンが好きになります。お米が好きな人は、お米が好きになります。これが、小学生で決まります。
そこで、私たちは米の生産地である秋田県能代市二ツ井町の小学校に行かせていただいて、『お米って、おいしいんだよ』『皆さんの地域でとれるお米って、最高においしいんだよ』ということを伝えています。みんなで一緒に、おむすびを手で作っていただいています。とても楽しんで、作って下さいます。
何よりも素晴らしいのは、お子さんと一緒に親御さんも参加して興味を持って下さいます。『パンじゃなくて、お米を食べようかな』という気持ちになって下さいます。要は、ご飯を作る親が、『これからは、子どもにお米を食べさせよう」と意識が変わることによって、お米が好きな子どもが育ってくれる。だから、農業は、どんどん活性化していく。このような食育活動も大事だと思って取り組んでおります。
2万トンのお米で4,000ヘクタールの農地を再生したい
海外の店舗であっても、私たちのやり方は変わりません。お米は玄米の状態で冷蔵船(リーファー)で輸出をして、現地の店舗の中で精米をして、日本と同じように「精米したて」「炊きたて」「結びたて」でお客様に提供しています。
おむすび権米衛の海外店舗は、たくさんの多国籍のスタッフで構成されています。身長2mを超えるようなバスケットボール選手をはじめ、いろんな方が働いてくれています。『あんなに大きな手で、よく三角形にしてくれるなあ』と感心するくらい、本当にみんなが手むすびをして下さっています。
このように、私たちは、おむすびという形にして、お米の消費拡大をしています。お茶碗だったら3杯食べられなくても、おむすびだったら3つ食べられる。おむすびには、そのような特徴があると思っています。
この活動を通じて、今後、2万トンのお米を使用していきたいという構想があります。日本全国で、もともと田んぼだった土地が、野原になってしまっている… 2万トンのお米を使用できるようになったら、野原になってしまった日本の土地を再生することができる。4,000ヘクタールの農地再生ができる。
私たちは、これを夢ではなくて現実にしようとしているおむすび屋です。一歩ずつ確実に進んでいきたいと思います。
環境大臣政務官 朝日健太郎氏(左)から表彰された株式会社イワイ「おむすび権米衛」の鈴木直人氏(中央)と長田沙規子氏(右)
【受賞取組の現場訪問】
グッドライフアワードでは、2024年2月20日(火)に株式会社イワイを訪問し、会社の取組やおむすび権米衛の1号店である大崎ニューシティ店の様子を見学いたしました。
食文化の多様化により、主食の選択肢が増えたこと、日本の人口減少に伴い日本のお米の消費量が減り続けていることを非常に危惧されており、安心、安全なお米を食べることの重要性に感銘を受けました。
おむすび(ごはんを「握る」のではなく、愛情を込めて「むすぶ」ので、「おにぎり」ではなく「おむすび」と呼んでいるそうです)に使用しているお米は無農薬、特別栽培米であることの安心・安全性はもちろん、Webサイト及び店舗で生産者の顔が見えるのは、消費者の視点からも安心して食べることができます。 また、契約農家からお米を市場価格よりも高値で買い取り、店舗ごとに契約している1農家のお米だけを使用することで、自分が一生懸命作ったお米がこのお店を支えているというモチベーション向上にもつながるだけでなく、後継者問題も同時に解決しているのだと実感しました。
上記のお米の買取価格だけでなく、本社は、立派なオフィスにお金をかけるなら、契約農家さんやお客様に還元すべきという考えから、創業当時から同じマンションの一室。おむすびの販売価格も、コンビニおむすびと同程度なのに量は1.5倍で、店内調理。代表取締役の岩井氏が世のため人のためになることをしたい、お米の消費拡大を通じて日本の農業に貢献したいというブレない想いが、至るところに顕れていました。
環境省 地域政策課