※この記事は、2023年12月2日に開催された第11回グッドライフアワード表彰式における環境大臣賞受賞プレゼンテーションおよび交流会インタビューに基づいて作成されています。
20年かけて東近江で生み出した資源循環モデル
愛のまちエコ倶楽部は、2005年に設立した法人で、持続可能な地域を未来へつなぐというミッションを掲げたNPOです。滋賀県東近江市で活動しています。今から説明する「菜の花エコプロジェクト」は、私たちだけではなく、この東近江の地域で脈々と20年以上続いてきた取り組みです。
まず、滋賀県東近江市で回収する「使用済みの天ぷら油」を、ゴミではなく資源として活用して、粉せっけんの原料にしたり、バイオディーゼル燃料を製造したりしています。この燃料は、地域産エネルギーとして、バスや発電機で使っています。
さらに、東近江に広がる豊かな農地で、集落営農を中心にナタネを栽培してもらい、それを私たちNPOが丁寧に搾って風味豊かなナタネ油を製造しています。これを食用として多くの人に美味しく楽しんでもらい、それがまた廃食油になって返ってきたら、再びせっけんやバイオディーゼル燃料を精製します。
この取り組みは、1998年から始まっています。私たちNPOは、東近江市の施設「あいとうエコプラザ菜の花館」の指定管理者として、市と市民と協働でこの資源循環モデルを作り上げています。
脱炭素社会に貢献する
菜の花エコプロジクトの循環の中でも、廃食油から製造するバイオ燃料は、今まさに脱炭素社会に貢献するアクションとして再び注目を浴びています。東近江市の各地域の家庭や給食から集まる年間3万リットルの廃食油を軽油代替燃料として活用することで、年間約100トンのCO2削減に貢献しています。
強調したいのは、東近江市に合併する前、農村エリアの小さな町「愛東町」だった時代の1996年に、すでにバイオ燃料の製造が始まっていたことです。たとえ小さな単位でも、地域でエネルギーを自給するという試み自体が、革新的なことだったと思います。
さらに、もう1つ、脱炭素社会に貢献した取り組みとして注目いただきたいのは、土壌改良剤「もみ殻くん炭」です。あいとうエコプラザ菜の花館で、地域資源として「もみ殻」を回収し、それを炭化して土壌改良剤にしています。2021年、この「もみ殻くん炭」の炭素貯留効果が、Jクレジットの認証を受けました。農業分野では初めての認証となります。
プロジェクトを多くの人に知ってもらう
菜の花エコプロジェクトのことを多くの人に知ってもらい、持続可能な地域づくりの裾野を広げていくことも、私たちの大きな役割です。その心強いツールが、農家が大切に育てたナタネを私たちが丁寧に搾ったナタネ油「菜ばかり」です。手に取ってくれた人に、その背景にある東近江の菜の花エコプロジェクトのことを伝えてくれる大切な語り部として、私たちが愛して止まない商品になっています。
NPOならではのご縁を活かしながら、真面目なスタッフの営業努力で、売上も順調に伸びています。農家にもしっかりと種子代として還元するということを大切にしています。これをコミュニティビジネスとして、お金も回る仕組みにするように根気よく続けています。
そして、東近江市の取り組みとして、「菜ばかり」を使った給食の日「菜の花給食」があります。未来を担う子供たちに食べてもらうことで、資源循環や地産地消のことを知ってもらう大切な機会になっています。
また、あいとうエコプラザ菜の花館では 菜の花エコプロジェクトを広めるために、研修や環境学習の受け入れを行っています。廃食油から実験器具でバイオディーゼル燃料を精製して、それを実際にカートに入れて乗ってみる体験は、非常に人気のプログラムです。
SDGsを象徴する取り組みとして、学校だけではなく、企業研修や海外からの視察なども受け入れています。菜の花エコプロジェクトを1つのモデルとして、各地域で特色ある資源循環の仕組みが多彩に生まれることを目指し、力を入れている事業です。
農村資源と農の営みを未来へつなぐ
菜の花エコプロジェクトは、環境分野だけでなく、持続可能な暮らしづくりを通じた地域自立を目指した活動でもあります。特に、私たちのように農村エリアにフィールドを置くNPOにとっては、食の現場である農村自体が持続可能でなければ、未来はないと考えています。
農村資源とその営みをセットで未来へつなぐべく、今まで数多くの取り組みを展開してきました。スタートから18年目となる農業体験プログラムやエコツーリズム、そして就農希望者と後継者のいない農家をつなぐ新規就農支援、農村になりわいを生み出すために農家民泊のコーディネートもしています。
特に、農家民泊は10年続けて、今では40件もの家庭が受け入れに協力してくれています。コロナが明けて活動が復活したので、修学旅行生の農業体験や宿泊の受け入れを進めていきたいと思います。都市部から来た生徒が、農業体験をして「面白かった」「楽しかった」などと感動を農家に伝えてくれると、農家の意識も変わります。
農家民泊の他にも活動は多岐にわたりますが、事務局6人でたくさんの事業を回しています。農村の新たな担い手やなりわいづくりに焦点を当てて、農村の活性化に取り組んでいるというところが私たちの特徴です。
外から来てくれた方々と農家との間で交流が生まれると、高齢者世帯でも楽しみや励みになります。この活動を地道に続けることで、地域の人たちが誇りを持ち、地域にお金もまわり、活性化につながると思っています。
その結果、外から見て、東近江は「面白いまちだな」「ここに住みたいな」と思ってもらえれば、自然と持続可能な地域が生まれていくと信じています。
持続可能な暮らしを提案・創造する
今後、私たちが力を入れていきたいこととして、2つの展開を描いています。
1つは、バイオディーゼル燃料のカーボンニュートラルと、「もみ殻くん炭」のカーボンマイナスという2つの強みで、農業分野のCO2削減にもっともっと貢献していくことです。耕地面積が近畿で 1位という東近江市で取り組むことで、農産物のイメージアップにもつがる取り組みになるはずです。
2つ目は、空き家をリノベーションしてオープンさせた新拠点『だれんち』で、農村資源を活かしたなりわい創出や移住・新規就農支援をさらに進めていくことです。環境と農業の分野の両輪で、私たちならば持続可能な新しい暮らし方を提案、創造できると思っています。
菜の花で作る資源循環という地域モデルとともに、農村そのものがしっかりと持続できるように、地域の人たちと一緒に農村資源を活用しながら、新規就農、空き家対策、農村のなりわいづくりを進めていく必要があります。農村でマイナスと言われている資源が、都市部にとってはプラスの資源になる。そこをしっかりと認識して、地域にお金が落ちる仕組みづくりにも挑戦をしていきます。
そして、菜の花エコプロジェクトを継続・発展させながら、大きな理念としている「食とエネルギーの地産地消」を通じて、着実に地域の自立を図っていきたいと思います。
地域の皆さんや、東近江市、滋賀県、そしてNPOである私たち「愛のまちエコ倶楽部」、たくさんの方々との協働があったからこそ、20年以上も続く菜の花エコプロジェクトがあると考えています。これからも歩みを止めず進んでいこうと思います。
環境大臣政務官 朝日健太郎氏(左)から表彰されたNPO法人愛のまちエコ倶楽部の野村正次氏(中央左)、園田由未子氏(中央右)、坂本良哉氏(右)
【受賞取組の現場訪問】
グッドライフアワードでは、2024年4月22日(月)にNPO法人愛のまちエコ倶楽部の活動現場に訪問させていただきました。
この活動は赤潮が発生した琵琶湖を守るために、住民主導により自分たちの生活を見直し、リンを含む合成洗剤ではなく生分解性に優れているせっけんを使おうという運動がルーツとなり、環境にやさしい地域づくりが始まったとのこと。
家庭から出る廃食油を回収し、リサイクルせっけんの生造、バイオディーゼル燃料の精製、菜の花の栽培から収穫・菜種油の生産を住民、行政、農家、学校等が連携し、市全体で菜の花をキーワードに、廃食油を再生可能なエネルギーとして生まれ変わらせることで、循環型サイクルが成り立っているところが大きな特徴であり印象的でした。
菜の花エコプロジェクトが目指す地域内での資源循環型社会の構築は、私達が日々の暮らしの中で資源の循環を少し意識することで、目標に近づくことができるのではないでしょうか。地球環境に優しい資源の利用を心掛け、日々の生活を見直す人が増えていく世の中になればいいなと思います。
また、地域雇用の創出、新たな商品開発による新産業の創出、高齢者の生き甲斐づくりもされていて、いつまでも地域で住民たちが地域の特性を活かして地域づくりに関わる仕組みづくりがされており、より一段と魅力的で持続可能な地域づくりをされていることに感銘をうけました。
最後、菜の花畑へご案内していただいて、目の前に広がる菜の花畑が私には、次世代を担う子どもの明るい未来を守りたいという地域の象徴に見えました。
環境省 地域政策課