神奈川県横浜市の太陽光発電システム設置販売や住宅リノベーションを手掛ける会社が、地域の困りごとにもなっている空き家を借り上げ、市民参加のDIYでリフォームして再生。地域コミュニティが「つながりの場」などとして活用する『solar crew』プロジェクトを展開しています。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください。
どんな活動?
空き家をリフォームして地域の拠点を創出
横浜市磯子区の拠点『Yワイひろば』
太陽住建は神奈川県横浜市を拠点に、太陽光発電システムの設置や販売、住宅のリフォーム、リノベーションを手掛ける会社です。今回、環境大臣賞を受賞した「空き家×太陽光発電から始まる地域循環共生圏」は『solar crew(ソーラークルー)』と名付けた体験型空き家再生プロジェクトを軸とした取り組みです。
地域に点在する空き家は、防犯や防災などの観点から地域の「困りごと」になっているケースが少なくありません。太陽住建のsolar crewプロジェクトでは、自治体や地域のコミュニティと連携。空き家となっている物件を所有者と交渉して借り上げて、太陽光発電システムの設置や、防災シェルターとしての強化などのリフォーム(リノベーション)を行います。
リフォームの作業は、solar crewの活動に賛同する市民や、地域コミュニティの方々が参加して、太陽住建のプロが指導するワークショップのようなスタイルで実施。リフォーム後の空き家は、地域のコミュニティスペースやコワーキングスペースとして活用するほか、災害時には太陽光発電を備えた地域の防災拠点に変えていくことを目指しています。
DIYなどの作業に多くの人が参加して「つながり」を生み出しながら、空き家という地域課題を解決すると同時に、地域の新しい活力を生み出す場を創出しているのです。
2018年、プロジェクトの第一弾として手掛けたのが、横浜市磯子区にある空き家のリノベーションでした。「Yワイひろば」と名付けられた拠点では何度もイベントやワークショップを開催し、DIYによるリフォームはほぼ完成。地域住民のコミュニティスペースとなっているほか、地域課題解決に取り組む地元の市民団体「磯子杉田リビングラボ」の活動拠点として活用されています。
その後も神奈川県内を中心に拠点を増やし、2022年3月現在、8カ所の「空き家」での活動が進められています。太陽住建ではsolar crewプロジェクトの特設サイト(https://solarcrew.jp/)も開設し、DIYイベントなどに参加する個人会員(会費無料)や、趣旨に賛同してともに地域の課題解決に取り組む企業パートナーなどを募集しています。
DIYでシェアオフィスや耐震シェルターに再生(横浜市磯子区)
横浜のご当地アイドルも参加してDIYイベント開催(横浜市中区)
活動のきっかけは?
地域密着型企業として持続可能な地域社会貢献を決意
各拠点では地域のみなさん主導で「つながり」を生み出すさまざまなイベントが開催されています。
現在も代表である河原勇輝さんが太陽住建を設立したのは2010年、河原さんが24歳の時でした。それまで、リフォームや外構工事の職人として経験を積んでいた河原さんが、先輩などとの人間関係を活かして自立しようと「勢いだけで起業した」そうです。とはいえ、当初はなかなか業績が上がりません。
経営者として悩み続け、ピンチに陥った原因として思い当たったのが「地元の仕事が少ない」ことでした。地元での仕事を生み出すために何をすればいいのか。河原さんは、自らが早朝に会社の周辺のゴミ拾いを行うことから行動を起こします。
太陽住建の河原勇輝社長
家族連れで参加した子どもとコミュニケーション。河原さん自身、5人の子どもの父親です
町のゴミ拾いを続けていると、散歩をする地元の方と出会い言葉を交わすようになりました。町内会の副会長を務める方と親しくなって、地域の餅つき大会に呼んでもらったりする中で、地域では「空き家が困りごとになっている」ことを知りました。また、家のリフォームや太陽光発電設備設置の相談などを受けるようにもなっていきます。リフォームの相談などを通じて、地域住民の電気料金の状況などを深く理解できるようにもなって「太陽光発電の時代が来るぞ」と確信。太陽住建を、太陽光発電とリフォームを軸にした地域密着型企業とすることを決意します。
折しも、2011年には東日本大震災が発生。太陽光発電への問い合わせが急増します。さらに「2033年の日本では、3軒に1軒が空き家になってしまう」という予測があることも知りました。
地域とつながり、地域の課題を知ることからsolar crewの活動は始まりました。そして、広く社会の課題解決に貢献するために、リフォームを手掛ける企業として「地域の困りごとになる空き家をリフォーム、地域の活動拠点として再生しつつ、太陽光発電を備えた防災拠点にしていくことを目指す」という活動の指針が固まっていったのです。
成功のポイントは?
参加者のつながりが活動の幅を広げていく
大井松田市の空き家は、EVカーシェアリングの拠点としても協業
solar crew(空き家再生活用)のプロジェクトで、河原さんが目指したのは「地域の課題を地域で解決する。そして、その活動がきちんとビジネスとして回っていく。そんなつながりを創出していく」ということでした。
拠点としてDIYリフォームするための物件の情報も、町内会や行政、地域課題解決に取り組む市民団体などとの「つながり」によって広く入ってくるようになりました。各拠点での活動は、それぞれの地域で活動する「crew=活動に参加するメンバー」が主体的に実施しています。solar crewのウェブサイトには、そのコンセプトとして、次の3つの言葉が掲げられています。
「つくって、つながる」
地域に点在する空き家をDIYでリノベーションし、太陽光パネルや蓄電池、防災シェルターの設置などを通じて地域の中に防災機能を兼ね備えたコミュニティスペースを増やしていきます。このまちづくり体験を通じて地域の人々とつながるきっかけを提供します。
「つかって、つながる」
DIYでリノベーションした空き家は、「遊・学・働」が融合した地域のためのコミュニティスペースとして活用します。地域の人が集まるイベントや、SDGsについて学ぶ場、コワーキングスペースなど、様々な体験を通じて地域の中に新たなつながりを生み出します。
「つながって、解決する」
solar crewの目的は、こうしたつながりを通じて地域が抱える課題を解決することです。crewとして関わる個人や、地域の企業、行政、住民など様々な人がつながることで、一人では解決が難しい地域の課題に立ち向かい、持続可能なまちづくりに貢献します。
地域社会には、介護や福祉、教育、治安、雇用など、多様な課題が存在します。solar crewで再生した空き家が、それぞれの地域で活躍する、さまざまなスキルや知恵をもった人たちが語り合いつながる場所となることで、課題解決のためのアイデアやアクションが生まれていくようになっています。
活動が「ビジネスとして回っていく」ことを目指すといっても、空き家のリフォームや管理で収益を上げるわけではありません。まず、SDGsの実践にも注力している太陽住建として、CSR的なブランディング活動となっています。もちろん、地域との密接なつながりが、本業の新たな仕事に結びつくことは少なくありません。
法人会員(企業パートナー)は有料として、空き家のDIY体験、シェアオフィス利用(ネーミングライツ)、イベント参加などを提供しています。空き家のオーナーとは太陽住建が交渉して契約。おおむね「固定資産税程度の年額」で借り受けて運営する仕組みとしています。太陽住建は社員数10名に満たないいわゆる中小企業ではありますが、solar crewは、コストは抑えながらも真摯にSDGsを実践するアクションとなっているのです。
DIYイベントの様子は動画で発信も(画像はYouTubeから引用)
プロであるスタッフの指導で参加者が本格的なリフォームにチャレンジ
空き家だった空間を、みんなのための有意義な場所へ変えていきます
レポート!
箱根町の拠点で開催されたDIYイベント
2021年4月、神奈川県箱根町の拠点で開催された、太陽光発電パネル組立のDIYイベントの取材に伺いました。芦ノ湖にも近い元箱根、かつては宿泊施設を営んでいた「空き家」です。ここでは、屋根への太陽光発電パネル設置など本格的なDIYは「まだまだこれから」という段階でした。
新型コロナウィルスの感染対策で人数を絞ったために参加者は10名程度。あいにく小雨交じりの天気だったこともあり、室内で太陽光発電パネルの解説や組立、工事用の足場を組み上げる作業などの体験が行われました。
電動ドライバーに挑戦!
パネルの裏側に脚を取り付けて……
ソーラーパネルのテーブルを組み立てました
室内で足場を組み立てる体験も
印象的だったのは、講師として参加する太陽住建社員のみなさんもイベントを楽しんでいることでした。安全には配慮しながらも堅苦しさはなく、スタッフがともに楽しみ、参加者のみなさんが自発的に作業にチャレンジする様子に「参加者のつながりで広がっていく」というsolar crewの活動の「雰囲気」を垣間見ることができたと感じます。
太陽住建では、solar crewのプロジェクトを中心に「本業を通じて社会課題解決を目指す」目標を掲げ、よりサステナブルな事業活動を模索するために関係者が集まって意見を出し合う「ローカルSDGs会議」を開催しています。2020年の会議では「ビジネスとして成り立ち、活動を継続するための仕組みや工夫が必要」といった厳しい意見や、「ペットと一緒に避難できる避難所を」といったアイデアが多く生まれたそうです。
DIY、まさに手作りで活動を広げ、続けているsolar crewは、まだまだ発展途上の活動です。河原社長をはじめとする太陽住建社員のみなさん、そして参加するcrewや地域社会の力がつながり、より大きく持続可能な取り組みとなっていくことを期待しています。
※株式会社太陽住建は、諸事情により2022年2月に法人を解散し事業を終了しましたが、受賞対象となった取り組みである『solar crew』は別法人として活動を継続しています。(2022年4月26日)
宿泊施設が空き家となった元箱根の拠点
テラスの柵のペイントはDIYの成果です
完成したソーラーテーブルでスマホを充電
足場の組立は次回イベントで高所の塗装をするための準備でした。これは、次回もぜひ参加したくなりますね