都市開発が進むさいたま市の美園地区に、自治体と地元のハウスメーカーなどが協力して太陽光発電を備えエネルギーを効率的に利用するスマートホームがおよそ100戸以上集まるコミュニティを整備。2021年度に竣工した第3期の街区では、電気自動車などを活用した大型蓄電設備を備え、コミュニティ全体のエネルギー地産地消を進展させました。
*グッドライフアワードは、環境省が提唱する地域循環共生圏の理念を具現化する取組を表彰し認知を広げるためのプロジェクトです。詳しくはこちらをご覧ください
どんな活動?
官民学の連携でサステナブルなスマートシティを構築
日本最大のサッカー専用スタジアムとして知られる『埼玉スタジアム2〇〇2』の最寄り駅、2001年に開業した埼玉高速鉄道の『浦和美園駅』から徒歩圏内で、大規模な都市開発が進むさいたま市美園地区に、脱炭素なライフスタイルを実現し、災害時のレジリエンス(適応力、回復力などの意)を備えた住宅街区「スマートホーム・コミュニティ」を構築するプロジェクトです。
脱炭素や災害への強靱化に向けた課題を解決するために、行政だけで進めるのではなく、地元企業の活力や大学などの知見を取り入れた「公民+学」の連携を構築。先進技術を活用した新しい住宅街の建設を進めてきました。『E-FOREST』と名付けられた「スマートホーム・コミュニティ」の住宅の建築を担当したのは、株式会社中央住宅、株式会社高砂建設、株式会社アキュラホームの、県内のハウスメーカー3社です。
2015年12月にさいたま市と3社の協定が締結されて事業が本格的に始まって、2017年3月には第1期モデル街区の33戸が完成。地域の電力供給網を担う東電タウンプランニング株式会社とも協力しながら、電線の地中化を実現しています。
2019年に完成した第2期モデル街区(45戸)では、各住宅の屋根や、近隣商業施設などに設置された太陽光発電設備をネットワーク、ブロックチェーン技術を活用したデジタルグリッドプラットフォームを構築し、エネルギー(電力)の地産地消を進めています。
2021年度に完成した第3期モデル街区(51戸)では、小売電気事業者である株式会社Looop(ループ)がプロジェクトに参加。各住宅のソーラーパネルで発電された電気を集約し、一戸分の区画を活用して設けられた「チャージエリア」に、125kWhの大容量蓄電池と、日産リーフ(40kWh)2台を配置して蓄電、街区全体の電力自給自足を進めるとともに、休日などは蓄電にも活用している電気自動車(リーフ)のカーシェアサービスを提供しています。
第1期から第3期までの、総戸数129戸は完成とともに完売する人気でした。『E-FOREST』ではすでに多くの住民のみなさんの最先端で快適な暮らしが始まっています。また、緑豊かな植栽などに彩られたコミュニティスペースを活用して住民参加のワークショップを開催するなど、「スマートホーム・コミュニティ」ならではの空間を活かしたコミュニケーションが広がっています。
街区入口のプレート
電線地中化のための配電設備
活動のきっかけは?
東日本大震災を契機として3つの重点プロジェクトを推進
さいたま市では、2011年3月に発生した東日本大震災を契機として、災害時にも安定した市民生活を継続する地域の強靱化と市内企業の事業継続性(BCP)向上を図り、社会の脱炭素化を両立することを目指して、3つの重点プロジェクトを推進してきました。
ひとつ目の重点プロジェクトは「ハイパーエネルギーステーション」です。災害発生時にも次世代自動車の燃料となる多様なエネルギーを供給可能なハイパーエネルギーステーションの整備を推進し、平時における脱炭素化と災害時のエネルギーセキュリティの向上を図る計画で、民営施設の4カ所を含む14カ所のハイパーエネルギーステーションが整備されました。
次に、「低炭素型パーソナルモビリティ」の普及です。電動バイクや超小型モビリティなどを積極的に導入することで、交通手段の低炭素化を進め、地域の日常の足、来街者の移動を支援することが狙いです。2011年12月には国から「次世代自動車・スマートエネルギー特区」の地域指定(すでに8カ年の計画期間は終了)を受けて、さまざまな実証実験やシェアリングサービスを実施してきました。
そして、今回の受賞取組となった「スマートホーム・コミュニティ」も重点プロジェクトのひとつとして2015年に始動し、進められてきました。第3期まで、予定していた全区画が完成し、今後はこの街区を先進的なモデルとして、さらに広い地域で「スマートホーム・コミュニティ」を普及させていくことを目指します。
成功のポイントは?
個性豊かで魅力的な新しい街が誕生
最寄りの浦和美園駅
「スマートホーム・コミュニティ」はさいたま市とともに、地元に拠点を置くハウスメーカーとの協働プロジェクトとして進められてきました。まず、行政ならではの強みを活かし、特区としての地域指定を得たり、国の補助金などを有効活用したことが、最新の技術や設備を導入した大規模な開発計画を完遂する大きな力となったと言えるでしょう。
また、街区に建設されたのはいわゆる「建て売り」住宅ではありますが、3社のハウスメーカーが参加したことで、街区全体の統一感は保ちつつ、それぞれの住宅は個性のバリエーションが広がりました。さいたま市では「スマートホーム・コミュニティ」プロジェクトの開始にあたり、「HEAT20グレード2さいたま市地区基準」(戸建て住宅の断熱性能推奨基準)を創設。さいたま市の気候条件下において冬季に暖房を使わなくても、室温がおおむね13度を下回らない程度の水準を達成する高性能住宅とすることで、入居者の募集を開始するとほどなくして完売するほどに人気のコミュニティとなったのです。
電線地中化に向けた東電タウンプランニングとの協力や、第2期のデジタルグリッドを構築するために協力したイオンやミニストップといった周辺商業施設、第3期の再エネ活用システムを構築した小売電気事業者Looopなどとの協力関係も、ハウスメーカーが単独で作り上げるのは大変でしょうが、さいたま市が中心となって複数のハウスメーカーが参加する開発計画であったからこそスムーズに構築できたといえそうです。
さいたま市では、「スマートホーム・コミュニティ」を進めた美園地区に、魅力的かつ機能的なまちづくりに向けて「公民+学」の連携を進める拠点として、2015年に「アーバンデザインセンターみその」を開設。地域主導で新しいまちを創造しようとする取り組みも進めています。
公、民、学、そしてそこで暮らす住民まで、理解と共感を広げて協力する取り組みであったことが、「スマートホーム・コミュニティ」プロジェクトが成功したポイントに違いありません。
駅近で便利な立地も人気の理由
住民参加で、ポタジェ(家庭菜園)のワークショップなどを実施
近くの農園での収穫体験などのイベントも開催して住民の親睦を深めています
スイカ割りイベント。子供たちの良い思い出になることでしょう
レポート!
テーマパークのようなコモンスペースが印象的
現地への取材に伺ったのは、第3期街区が完成間近の時期でした。そのため、一部ではまだ外構工事などが行われてはいましたが、第1期、第2期の街区はすでに住民のみなさんが入居済み。すでに「新しいまち」として動き始めている状況でした。
実際に現地を訪れて印象的だったのは、電柱や電線がない街路などのコミュニティスペース(コモンスペース)が、まるでテーマパークのように美しく快適であることでした。全街区を通じて、住宅敷地の一部を共用化してコモンスペースを創出、その地下を活用することで、40%のコストを削減しつつ電線類の地中化を実現できたということです。
2021年12月には、第3期の街区に構築されたエネルギーマネジメントシステム「エネプラザ」のメディア向け説明会が開催されました。住宅街の一区画をLooopが買い上げ、大型蓄電池と電気自動車用充電設備を設置。シェアカーとして活用される電気自動車もお披露目されて、多くのメディアがこのプロジェクトの取り組みを報じました。脱炭素なライフスタイル実現への社会の関心が高まる中、「スマートホーム・コミュニティ」の完成は、全国でも屈指の先進的事例となっています。
さいたま市では、このプロジェクトで得られた知見を活かし、地元ハウスメーカーとの協力を継続しつつ、さらにこうしたまちづくりを普及させていくことを目指しています。さいたま市内だけでなく全国各地に、脱炭素な暮らしを実現し、災害時のレジリエンスを高めた「まち」が増えるためのモデルケースとなることでしょう。
完成済みの街区ではすでに新しい暮らしが始まっていました
取材時、完成間近だった第3期街区の『エネプラザ』